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どうしてAMGを選ぶのか? 現役オーナーに訊いた「圧倒的性能」以外の魅力とは?

C36のイメージ

時代によってファンを魅了した歴代モデルたち

 職人が手組みしたスペシャルなエンジンを搭載する、メルセデスAMG。中編ではなぜエンジンを手組みする必要があるのかなど、こだわりなどを紹介した。後編では、メルセデスAMGを愛するオーナーたちの声や、モータースポーツでの功績、そしてベースモデルとの違いなどを紹介していこう。

衝撃的だったAMG独自開発の6.3L V8エンジンが2006年に発表

 1993年には、メルセデス・ベンツとAMGの協力協定の成果として初の共同開発モデル「メルセデス・ベンツC36 AMG(W202)」が発表され、AMGの知名度がさらに高まったことで「AMG」は商標として特許庁に認可された。このC36 AMGはニューヨークタイムズ紙が「ジャニス・ジョプリンが心底欲しがったであろうロケット」と絶賛したことで有名だ(ジャニスは1970年に「ベンツが欲しい」という曲を歌っている)。そして、AMGロードスター、伝説のメルセデス・ベンツE500のあとに輸出用のE36 AMG右ハンドル、E50 AMGの生産と続く。

 2006年当時の社長であるフォルカー・モルヒンヴェグは、2006年に初めてAMGの手によってゼロから企画・開発した6.3L V8エンジン(M156)を発表し、CクラスからSクラスにまで搭載した。

 この独自開発のエンジンはフリードリッヒ・アイヒラー博士の傑作として有名だ。とくに、C63 AMGはコンパクトボディながら最高出力457psというエンジンによって刺激的なドライビングを誇り、今も大切に乗っているメルセデスAMG党のオーナーがいる。

 今回お話を伺ったwinlook氏によれば、その魅力は「何事にも変えられないステータスですかね。実用性もあるセダンで速い。ランボルギーニやポルシェもありますけれど、部品交換さえできれば新車の状態に戻る素晴らしさ。自動車を発明したメーカーの素晴らしさを感じています。M156エンジンは素晴らしいです。何ら文句はありませんが、あえて挙げれば燃費がもう少し良かったら、なお嬉しいですけれどね」と語ってくれた。

特別な3つのスペシャルなシリーズも人気

 また、2006年にオープンしたスペシャルカスタマーのためのアトリエ「パーフォマンス・スタジオ」が送り出した限定仕様のブラックシリーズ(最初はCLK 63 AMGモデル)、シグネチャーシリーズ(時計メーカーIWCとコラボしたCLS IWCインジニアモデル)、エディションズ(CL 65 AMG 40周年記念モデル)という、特別な3つのシリーズも有名だ。

 近年では、新型車の開発が共同で行われ、メルセデス・ベンツのニューモデルが登場すると、すぐにAMGモデルも発売される。メルセデス・ベンツは新型の販売と同時に、そのハイパフォーマンスを発揮する最上級グレードとしてAMGも選択できることを目標としているのだ。クオリティの高さ、アフターケアの充実なども含め、もはやAMGはチューニング・ブランドではない。

 とくに、日本では2008年からメルセデスAMGパフォーマンスセンターを展開しAMG専用コーナーを設けている。さらに、2017年1月13日には世界初のメルセデスAMG専売拠点としてAMG TOKYO Setagayaをオープンさせた。

独自のスペシャル仕様に仕立てられた限定車も

 最近のメルセデスAMGは、メーカーとして独自に用意されるスペシャルな仕様の限定車も、各モデルで連発している。しかし、最近購入したスペシャル仕様の限定車でも、まだ満足できない長年のメルセデスAMG党のオーナーがいる。

 筆者の取材・撮影に快く応じてくれた松中芳和氏は、GLC 63 S 4MATIC+クーペ エディション1(全国限定15台のオプシデァンブラック)に自ら手を加え、「自分だけのAMGオーダーメイド」に仕上げてさらなるオリジナル化を図っている。

 その例としてエディション1のイエローを基調に、外観はパナメリカーナフロントグリルの左端をドイツ国旗の3カラーに彩色し、フロントスポイラー&リヤスポイラー、アルミホイールやグリル、サイドミラーに至るまで1本のオリジナルイエローラインを入れ、独自のステッカーまで作成貼付し独特なスタイルに仕立てた。

 室内はコマンドコントロール、ハンドルセンターやスタートボタンなど各パーツにオリジナルAMGロゴマークを数多く採用し、AMGロゴ入りオリジナルシートカバーや小物入れまで取り付けAMG一色。ほかにもAMGモデルを所有し、とにかくメルセデスAMG党である。

モータースポーツでも輝かしい結果を残す

 メルセデスAMGのモータースポーツの輝かしい活動もその魅力となっている。DTM(ドイツツーリング選手権)、ITC(国際ツーング選手権)、F1における活躍は目覚ましい。

 DTMでは1980年代末~1990年代初めに、190E2.5-16エボリューションIIが圧勝した証の50勝は今でも金字塔である。またF1の最前線に立ち、1996年以降、世界最高峰のモータースポーツを「セーフティカー」として支えてきた。

 そして2010年、メルセデスAMGは54年ぶりにF1に参戦。2012年にはMERCEDES AMG PETRONASチームとエンジンメーカーMERCEDES AMG High Performance Powertrainsが代表となる新体制がスタートしている。2014年にはF1のパワーユニットレギュレーションが変更され、1.6L V6ターボエンジンにハイブリッドを組み合わせたパワーユニットを搭載し、圧倒的な耐久性とパワーを発揮。ドイツチームとして史上初となるコンストラクターズチャンピオンシップを獲得した。

 また、この年にはルイス・ハミルトンがドライバーズタイトルも獲得。以後、2021年シーズンに至るまで7年連続でWタイトル(コンストラクターズ/ドライバーズ)を獲得した。

 GTカーレースでは、2010年にメルセデスAMG初の独自開発モデルである「SLS AMG GT3」を発表。定評の6.3 L V8エンジンを搭載したこのモデルは、2011年のモータースポーツシーズンで26回の優勝によってFIA GT3ヨーロッパ選手権を制覇。もっとも成功したモデルとなった。

 そして2015年のメルセデスAMG GTは、SLS AMG GT3に続くメルセデスAMG独自開発スポーツカーの第2弾だ。専用に新開発されたAMG 4.0L V8直噴ツインターボエンジンは、エンジンの軽量化、ドライサンプ潤滑システムによる低重心化、ターボチャジャーへの吸気経路の最適化により優れたレスポンスを実現している。

 2017年9月11日のフランクフルト・モーターショーで、メルセデスAMG創立50周年記念として発表されたのが「メルセデスAMG Project ONE」。レーストラックで培われた最新鋭でもっとも効率的なF1ハイブリッド技術が投入され、公道でもそのパフォーマンスを最大限に発揮できるようチューニングされている。ハイブリッド走行時には350km/hを超える最高速度と、1000ps以上というパワーを実現する。

メルセデス・ベンツ標準車とメルセデスAMGの違いとは?

 メルセデス・ベンツにはさまざなグレードがある。そのなかでもメルセデスAMGはハイパフォーマンスを発揮する最上級グレードとして位置付けられている。高級感を前面に打ち出す「メルセデス・マイバッハ」とは対極をなすのが「メルセデスAMG」だ。

 メルセデス・ベンツ標準車とメルセデスAMGとの大きな違いとして、ハイパフォーマンスを発揮するサーキット仕様であるということが挙げられる。走行性能やデザインの面でも、大きく差があるメルセデスAMG。標準車をチューンしたハイスペックエンジンとスポット増しなどで強化した車体、専用の高性能ATやサスペンションが組み込まれ、サーキット走行で高いパフォーマンスを発揮できるようにセッティングされている。

 そして標準車よりもハードな乗り味のクルマに仕立て上げられ、ひと味違った乗り心地やエンターテインメントを市街地でも楽しめるというのもAMGの大きな特徴だ。エンジン性能を受け止めるパーツとして、強化ブレーキシステムやAMGスポーツサスペンションを装備。加えて、日本ではAMGモデルをさらにチューンした「パフォーマンスパッケージ」、コンフォート性能を高めた「エクスクルーシブパッケージ」、ドレスアップした「AMGカーボンパッケージ」が各モデルにオプションで用意されている。

 標準車のメーターとは異なり、AMGのロゴが入ったスピードメーターは300km/h以上刻まれているモデルもある(各モデルで数値は異なる)。ただ、実際には各国の交通事情によりコンピュターでスピードリミッターが作動する仕組みになっている(例:ドイツでは250km/h)。

 各AMGモデル専用のアルミホイール、エアロパーツや4本エキゾーストマフラーなどが装着されているのもAMGの特徴である(各モデルで異なる)。モータースポーツの栄光を受け継ぐAMG専用「パナメリカーナグリル」や、新デザインの前後エプロン、パワードームをあしらったボンネット、スタイリッシュなデザインのLEDヘッドライトなど、そのスタイルは力強さと洗練を極めている。

 また、AMGのエンブレムを装着する位置も決まっている。その場所は、リヤエンド右上にはAMGエンブレムを、リヤエンド左上には各モデル表示のローマ字の後に数字2桁のエンブレムがつく(C63、SL63、GLC63 4MATICなど)。

 とくにAMGは創業以来FR(フロントエンジン・リヤドライブ)だけを発表してきたが、2013年にEクラス(W212)のマイナーチェンジと同時に、初めて4WDのAMGモデルであるE 63 AMG 4MATIC(セダン/ワゴン)を発表。最近ではFFベースの4WDであるA35 4MATIC/A45 S 4MATIC+、CLA35 4MATIC/CLA45 S 4MATIC+が発表され、フラッグシップモデルのSクラスにもS63 4MATIC+ロングが設定されるなど、各クラスで4WDモデルを積極的に展開しているのだ。

【AMG専用となるおもな装備】
・AMG 7速スピードシフトDCT(35系モデル)
・AMG 8速スピードシフトDCT(45系モデル/RACEモードも搭載)
・AMGスピードシフトTCT(43、53系モデル/電子制御9速AT)
・AMG 9速スピードシフトMCT(マルチ・クラッチ・テクノロジー/63系モデル)
・AMGダイナミックセレクト
・AMGパラメーターステアリング
・AMG RIDE CONTROL+エアサスペンションAIR BODY CONTROL
・本革ナッパレザーインテリア
・AMG強化ブレーキシステム
・AMGカーボンパッケージ(63モデルパッケージオプション)

まとめ:AMGの魅力は性能だけに留まらない!

 今まで各項目で記述してきたAMGの魅力をまとめると、下記の4つとなる。

1:スポーツ、ステイタス性、信頼性という、ブランドとしての重要な3つの要素が見事に融合していることにある
2:ユーザーが望むステイタス性への憧れとして、メルセデスの上級モデルとして、標準仕様のオーナーより優越感に浸れる
3:メルセデス・ベンツというプレミアムメーカーが直接手掛けた、強いて言えば公認のチューニングモデルとして、信頼感や中古車価格の高値安定が、AMGの特別な魅力となっている
4:モータースポーツでの活躍から得た高い開発技術

 今やメルセデスAMGは設定される車種も多様化し、メルセデス・ベンツの標準車の新型発表と同時に、ハイパフォーマンスを発揮する最上級グレードとして選択できる。日本で最盛期のAMGモデルラインアップは50モデル以上、出力はモデルによって306psから639psと幅広い。

 しかし、マニアの間では、2014年からサブブランドとしてメルセデス・ベンツファミリーに迎え入れられ、最上級の地位を得たメルセデスAMGは、すっかり正装化した紳士になってしまった感があると言われている。もちろん、そのトータルバラスの性能は一層磨きがかかり、メルセデス・ベンツモデルらしくすべてが完熟域に達して貫禄も備えた。だがこうなると、マニアの間ではひと昔前のアドレナリンを注入した「野獣のAMG」が懐かしくなると囁かれている。

※ ※ ※

 最近、メルセデス・ベンツからブランドの新しい方向性が発表された。つまり、より収益性の高いセグメントへの方向好転換に伴い、高級車クラスに加え、AMG、マイバッハ、Gクラスに注力するという。また、電動化をふたたび加速させ、2030年までにBEVモデルのみとする予定だ。今後のメルセデスAMGの動向から目が離せない。

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