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90年代は「直線番長」が偉かった! 「スープラ」「シーマ」「フェアレディZ」は真っすぐ走る優秀な車でした

「直線番長」は自動車技術の結晶だった

 クルマというのは、基本的に直進性が良ければ曲がりにくい。したがって、「コーナリングマシン」と「直線番長」は両立しづらい。そのため、ひと昔前のスポーツカーは、「コーナリングマシン」タイプか、「直線番長」タイプかに大別することができた。

 輸入車でいえばヨーロッパ車、とくにイギリスやフランスのクルマは前者が多く、コルベットなどアメ車は「直線番長」のイメージが強かった。

直進性の良さは優秀なクルマの象徴だった

 両者を比較すると、なんとなく「コーナリングマシン」の方が知的というか、偉い感じがしないでもない。だが、フェラーリ512BBの最高速が302km/hで、ランボルギーニ・カウンタックが300km/hといった数字に興奮していた世代からすると、「直線番長」も立派な勲章! 直線だけ速くても……と思うかもしれないが、直進性の良さは優秀なクルマの象徴でもある。

 実際、1980年代半ばまでは、テストコースで最高速を計測しようとすると、速度が上がるにつれハンドルが軽くなり、車体が左右にふらつきはじめるクルマは珍しくなかった。

 そのため真っ直ぐ走れる高剛性のボディと正確なジオメトリー、そして高性能タイヤと、高出力のエンジンを持った「直線番長」は、自動車技術の結晶でもあり、誇るべきパフォーマンスといって過言ではない。

 2020年代のハイパフォーマンスカーは、スポーツカーやセダンだけではない。高級SUVも走る、曲がる、止まるの3つの性能のバランスがよく、真っ直ぐ走るのは当たり前。SUVとはいえ250km/hオーバーで走れる性能をもつクルマが10数台存在するほど! そういう意味で、尊称としての「直線番長」は今や死語になりつつある。

 では逆に偉大な意味で「直線番長」といえたのはどんなクルマだっただろうか。

「直線番長」を名乗るには、まずパワーがあること。基本的に排気量は3L以上で、ターボ車であるのが望ましい。そして空力性能が優れていることも条件になる(100マイル=160km/hを越えるようになるとクルマにかかる抗力の9割は空気抵抗ともいわれる)。ボディ剛性も重要で、低いとアクセルは踏めない。

 というわけで、上記の条件が揃って、真の「直線番長」といえるようなクルマが出てきたのは国産車だと1990年代からということになる。

クルマ好きにとって最高速が速いクルマ=エライ

 そのころの代表的な車種をピックアップすると、トヨタでは80スープラとアリスト。この2台は、280馬力の直6ツインターボ(2JZ-GTE)エンジンが大きな武器だ。

 2JZは日産スカイラインGT-Rのエンジン(RB26DETT)より400ccも排気量が大きく、RB26と同じく頑丈な鋳鉄ブロックを採用。排気量が大きいだけでもトルク面で有利だが、2JZはボア×ストロークが86.0×86.0(mm)のスクエアエンジンだったので力強さ(トルク)があった。

 その代わりレッドゾーンは6800回転からとやや低いが(RB26は8000回転)、高回転に頼らない分、2JZは壊れにくいというのが長所だ。

 とくにスープラは空力もよく、全長が短い割にホイールベースも長かったので、最高速仕様にチューニングするのには適していた。

 日産ではまず初代シーマ(Y31)とフェアレディZ(Z32)。初代シーマは3リッターV6ターボのVG30DETが与えられ、お尻を沈めながら加速していく姿が象徴的だった。

 Z32は同じ1989年にデビューしたR32GT-Rよりも空力性能が優れ、cd値は0.31(R32は0.40)を誇っており、同じ280psでもノーマルのZ32の最高速は270km/h、R32GT-Rは250km/hとアドバンテージを誇っていた。

 GT-Rも空力はR33になって改良され、cd値も0.35~0.39に改善(リヤスポが4段階の可変式のため)。ホイールベースもR32に対し105mm延長され、ボディ剛性も大幅に向上した。ドイツ・ニュルブルクリンクでのアクセル全開時間が15~20%も長くなり、第2世代GT-Rでいえばもっとも「直線番長」的存在だ。

 トヨタ日産以外では、マツダRX-7(FD3S)と三菱GTOが挙げられる。FD3Sは典型的なコーナリングマシンだが、cd値は0.32しかなく、540psで200マイル(320km/h)オーバーを達成したチューンドFDもある。三菱GTOも3リッターV6ターボエンジンと、直進性に有利な4WDという組み合わせに加え、cd値は0.33とGT-Rよりは有利なスペックが与えられていた。なおホンダでは、当時ターボのスポーツモデルはなく、「直線番長」と呼べる車種はなかった。

 というわけで、繰り返しになるが「直線番長」は敬意を込めたフレーズで、新車テストでも最高速アタックに一喜一憂し、チューニングカーの最高速レコードにロマンを感じた人だけでなく、クルマ好きにとって、やっぱり最高速が速いクルマ=偉いという図式は永遠に変わらないはずだ。

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