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ランボルギーニ「ウラカン テクニカ」と「STO」の違いの本質とは? 最後にして最高のV10ランボルギーニでした

走行中の車両状況をモニターし、トルクベクタリングやダンパーなどを統合制御するLDVIを搭載。車両の挙動を予測制御してくれるフィードフォワード制御が備わる

リアミド自然吸気V10の集大成

 結論から始めよう。「ウラカン テクニカ」は史上最も乗って楽しいランボルギーニ製ロードカーの1台である。そのパフォーマンスを知った今となっては、その価格がバーゲンプライスに思えてくる。決して安くはないのだけれど……。

 ウラカンのデビューは2014年のこと。それまで10年間にわたって新生ランボルギーニを支えてきたガヤルドの後継モデルとして誕生した。以来、8年間で2万台を生産。販売台数だけを見れば最も成功したミドシップスーパーカーの1台である。

ランボルギーニの今がすべて詰まったファイナルとは思えぬ作り込み

 そんなウラカンもいよいよ2023年いっぱいでその生産を終える。後継となる次世代モデルには、エンジン仕様こそ未公表ながら、プラグインハイブリッドシステムを搭載することがすでに発表されている。兄貴分のアヴェンタドールも12気筒を継続するもののプラグインハイブリッドとなる。つまり、大排気量自然吸気マルチシリンダーエンジンを積んだランボルギーニ製スーパーカーはこの世代をもっていったんその幕を下ろすことになったのだ。

 それゆえマニアからはピュアなNA(自然吸気)マルチシリンダー最後のスーパーカーとして今まで以上の注目を浴びることになった。サンタアガタとしても、ガヤルドからウラカンと続いたV10ミドシップカーシリーズの最後を飾るにふさわしいモデルを用意しようと考えたに違いない。

 量産グレードとして最後となるウラカン テクニカにはランボルギーニの今がすべて詰まっている。シャシー制御をはじめとする最新技術と空力に優れたデザイン、高いサーキット性能と市街地での扱いやすさ、そしてアドペルソナム(特注システム)に代表される内外装デザインのライフスタイル性だ。

 それゆえ、このテクニカは安直な仕立てのよくあるファイナルエディションとは一線を画している。前後はもちろん普通はマイナーチェンジでも手をつけないサイドウインドウ周りまでリスタイリング。単なる空力変更を超えたデザイン変更で、とてもじゃないがファイナルモデルとは思えない。もう2、3年作っても良さそうだ。

 繰り返すが、ウラカンは来年、このテクニカでそのモデルライフを終える。厳密にはハイライダー仕様の4WDスペシャルが今年末に登場するが、そちらの生産台数は非常に限られそうだ。ウラカン テクニカでさえ、もう残されたロットは少ないと思う。ほとんど期間限定車である。

 リア駆動で、640psのV10エンジンを積む。このパワートレーンそのものはSTOと同じ。つまり、SVJの心臓部を持つおとなしいカタチのウルティメで有終の美を飾ったアヴェンタドールと同様の手法をウラカンにも適応した。テクニカは普段乗りに気兼ねなく使えるSTOだ。

 今からおよそ20年前。ランボルギーニ初のV10スーパーカー・ガヤルドは、520psという大出力を支えるために4WDを採用していた。それが今や640psにまでパワーアップしたにもかかわらず、リア2WDで幕を閉じることになるとは! これぞまさにその名のごとくテクニカル・レボリューションである。

ウラカン史上、最高のファン・トゥ・ドライブ

 ウラカン テクニカの国際試乗会は、スペインはヴァレンシアのサーキットを起点に開催された。

 午前中はサーキットを使ってのテスト。STO譲りのパワートレーンの実力を試すには、やはりトラック試乗が必須だろう。STOほど大掛かりなエアロデバイスこそ装備されないものの、この状態でもスタンダード仕様より空力性能はかなり上。例えばダウンフォースは35%増え、空気抵抗は20%減っている(EVO RWD比)。

 パワーウェイトレシオ2.15という数字は伊達ではなかった。コルサモードで走り出せば、加速は劇的で、つなぎは素晴らしくダイレクト。プロが先導するSTOに必死になって追いすがるうちにあることに気づく。コルサモードでもリアはある程度スライドし、ドライバーに制御する楽しみを残してくれていた。

 ウラカンにはストラダーレ/スポルト/コルサという3つのドライブモードが用意されており、オーバーステアを許すスポルトがドライビングファンモードだったのに対して、ニュートラルステア傾向のコルサは速いけれども楽しくないモードだった。

 ところがテクニカではコルサでも十分楽しめる。もちろんスポルトならいっそう楽しいが、コルサモードでこんなに楽しいと思えるランボルギーニは初めて。制御で無理やりにオンザレール走行させられているのが従来のコルサモードだったが、まるで違う。スポルトほど大袈裟ではないけれど、明らかに後輪の自由度が増してドライバーに積極的なステアコントロールを要求するのだ。これが本当に愉快。コルサモードでファン・トゥ・ドライブな唯一のランボルギーニだ。

 ラップタイムを測ればきっとSTOをコルサモードで走らせた時が最も速かっただろう。直線はもちろんコーナーで驚異的な速さをみせたSTOは汗をかくことなく速く走ることのできる、トラック重視のマシンだった。テクニカは違う。もっとドライバー寄りで、速く、楽しい。

 ウラカン自慢のフィードフォワード制御が最終進化形となって、リアステアも効果的に制御できるようになり、高出力の2駆でもほとんど完璧にコントロールできるようになったのだろう。リアが多少流れ出しても慌てることなく対処でき、容易に立て直すことができる。もちろんクルマがクルマをコントロールしているわけだが、サーキット走行中のドライバーにはそんなことを考える余裕はない。640psのリア駆動ミドシップカーを自在に操っているという、ただただ爽快で愉快な気分に満たされた。

サーキットだけでなく一般道でもウラカン史上最高

 サーキット試乗を終えた午後からはヴァレンシア郊外のカントリーロードを中心に200km以上をひとりでドライブする公道テストである。

 前述したようにトラックでは専用シャシー&サスペンションとSTOと同じ設計のブリヂストン ポテンザの組み合わせがじつに愉快なドライブフィールを提供してくれたわけだが、一般道では流石に硬く、ソリッドな突き上げに面食らうこともしばしば。とはいえSTOよりは明らかにしなやかに走ってくれ、乗り心地もどちらかというとEVO RWDに近い。乗り心地だけでいえば、AWD系のドライブフィールの方が普段使いには適していると思う。

 とはいえ、前輪が思うままに動くことだけはRWD系の長所と言ってよく、テクニカではそれがEVO RWDやSTOよりも顕著で面白い。後輪操舵の制御を含めて、扱いやすく、それでいて自由自在に操ることができる。初めて走る狭い山岳路(ほとんどサイクルスポーツセンターのような道)でも気兼ねなくペースアップできるのだから、サーキットのみならずワインディングでもウラカン史上、最高のファン・トゥ・ドライブを誇っていた。

 サーキットではヘルメットを被っていたし、じっくり楽しんでいる余裕もなかったが、自然吸気V10エンジンのサウンドもウラカン史上最高だった。電光石火のギアシフトフィールも切れ味鋭く、変速そのものが楽しくなってしまう。とくにシフトダウン時のブリッピング音はクルマ好きを虜にすることだろう。

 ピュアなV10自然吸気エンジンを積んだミドシップスーパーカーはおそらく、これが最後。ブランドの復活を支えたスーパーカーシリーズは、ウラカン テクニカという素晴らしい集大成モデルでその役目を終えようとしている。次世代ハイブリッドモデルには環境性やインフォテイメント、コネクタビリティのみならず、ウラカンを上回るドライビングファンをピュアに期待したいものだ。

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