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ホンダ初代「フィット」はなぜ200万台も売れたヒット作になった? 世界に認められた画期的なエンジニアリングを紹介します

初代ホンダ「フィット」のカタログ

33年続いた「カローラ」の牙城を崩したジャイアントキラー

 初代ホンダ「フィット」の登場は2001年6月のこと。結果として世界市場でも支持され、登場翌年にはカローラの販売台数を抜き、115カ国/200万台を売る空前の大ヒット作となった。その後、現在まで4世代のフィットが世に送り出されて続いてきたが、今やホンダと国産コンパクトカーを代表するまで成長した車種となったのはご存知のとおり。Bセグメントのベンチマークとして自他ともに認める存在になった。

「センタータンクレイアウト」などユニークなアイデア満載

 と、いささかカタい書き出しになってしまったが、改めて初代フィットを思い起こせば、一見すると肩にチカラが入っている風には見えないが、じつはユニークなエンジニアリングが投入されて完成したクルマだった。

「センタータンクレイアウト」はそのひとつ。これは樹脂製の薄型ガソリンタンクを通常のリヤシート下ではなくフロントシート下に配置したもので、それにより生まれたリヤ側の室内空間の余裕を活かし、畳んだリヤシートを足元に落とし込むように格納した「ULTR SEAT(ウルトラ・シート)」を実現。低床のラゲッジスペースや、当時の「オデッセイ」を凌ぐ1280mmの室内高もモノにした。ちなみにリヤシートは倒した状態でヘッドレストが前席の下に潜り込む設計になっていて、チマチマとヘッドレストを外す必要がないワンタッチ操作が可能なように考えられていた。

 さらに「ZENSHIN(ゼンシン)キャビンフォルム」と呼ぶ、超ショートノーズとビッグキャビンを組み合わせた合理的なパッケージングも初代フィットの特徴だった。同種のデザインでいうと、1997年に登場したメルセデス・ベンツ初代「Aクラス」があったが、あちらはフォルムをよりワンモーション化したものながら、当初はEV化が前提だったことから床が2重構造で高く、万一のクラッシュの際にエンジンを床下に潜り込ませる設計。そのため乗り込むと床面が高く相対的に天井が低めのやや圧迫感のある室内空間だった。

 対して初代フィットは、後席で足を伸ばして置くと前席床下のガソリンタンクの存在を少し感じさせる床の傾斜はあったものの、4mを大きく切る全長3830mmのコンパクトなボディと、立体駐車場も考慮した1525mmの全高で、ナリは小さくとも高い実用性を誇った。

 スタイリングも「オールキャビンコンセプト」でデザインされ、全体を大きなアウターレンズで覆ったバブルキャノピー・ヘッドライト、8ライト・グラッシーキャビンといった、個性を際立たせるエレメントで構成。ルーフエンドの微妙なスラント形状などで空力にも配慮したデザインでもあった。

フランスのハッチバックの名車をイメージして開発

 搭載エンジンは23km/Lの低燃費を実現した1.3Lのi-DSIエンジン。ツインプラグの2点位相差点火制御、8コイル点火システムを採用、燃焼室のコンパクト化に寄与するバルブ挟み角を30度とした設計も。それまでのホンダの1.3Lエンジンに対し前後長で-118mm、トランスミッションを含めた幅で-69mmと、新しいコンパクトカーにふさわしい、小型・軽量設計のエンジンだった。トランスミッションにはホンダマルチマチックSと呼ぶCVTが組み合わされた。

 サスペンションはフロントがストラット、リヤがトーションビームというシンプルで王道の組み合わせ。とはいえハンドリング、安定感、乗り心地のよさにもこだわっていた。ちなみに初代フィット登場時に開発責任者だった松本宜之LPL(当時)にインタビューする機会があったが、「開発のイメージにあったのは、若い頃に乗ったプジョー205のスポーティで軽快な走り」だったという。一見するとコンパクトでベーシックな実用車だったが、開発エンジニアのそんな快活な思いも込められたクルマなのだった。

「モビリオ」など派生車種も豊富に展開した

 なお初代フィットには、同車をベースにさまざまな派生モデルも生まれた。日本市場向けのモデルでいうと「モビリオ」(2001年12月)、「モビリオ・スパイク」(2002年9月)、「フィット・アリア」(2002年11月)、「エアウェイブ」(2005年4月)などがある。

 モビリオはフィットとは打って変わった箱形のボディでホイールベースを2740mm(フィット+290mm)と長くとり、3列・7人乗りのミニバンとしたもの。欧州の路面電車をイメージしたというデザインで、ファミリー向けに親しみやすさをアピールしていた。その5人乗り版がモビリオ・スパイクで、リヤクォーターを窓埋めしたユニークなスタイルの「秘密基地」をテーマに、趣味やレジャーの用途を想定して生まれたクルマだった。

 フィット・アリアは車名のとおりフィットをベースに仕立てた3ボックスセダンだ。ホイールベースはベース車と共通の2450mmながら、500Lの容量の独立したトランクをもち、コンパクトなセダンのニーズに対応。後席はハネ上げて使うこともできた。エアウェイブは2550mmのホイールベースで仕立てた5名乗り。ミニバン風のルックスを活かし、最大で1136L(2名乗車時)のラゲッジスペースを誇るなど、使い勝手のよさをアピールしていた。

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 フィットは2020年に4世代目に進化し、一方でミニバンクラスでは「フリード」が相変わらずの人気を保っている。コンパクトクラスのいわば「ご自宅用」のクルマとしてユーザーの生活スタイルに根づいているクルマで、その源流のひとつになったのが初代フィットなのだった。

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