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約530万円! 「ネコ目の宇宙船」のようなシトロエン「DS」が自動車史に残る名車と呼ばれる理由は?

「ネコ目」の愛称で呼ばれているシトロエン「DS」

名車? 迷車? シトロエン「DS」

 2022年11月9日にRMサザビーズ欧州本社が、その本拠地である英国ロンドンにて開催した「LONDON」オークションは、自動車の出品台数こそ36台と少なめだったが、その内容はアメリカと並ぶ自動車趣味大国イギリスのオークションにふさわしく、世界の耳目を集める超絶高価なスーパーカーから、マニアックなクラシックモデルまで、じつにバラエティに富んでいた。

 今回はその出品車両の中から、自動車史に冠たる名作シトロエン「DS」、しかも希少な豪華バージョンのあらましとオークション結果についてお伝えしよう。

世界を魅了した未来派、シトロエンDSシリーズとは?

 自動車史上の屈指の名作、シトロエンDSシリーズに匹敵しうるクルマなど、皆無に等しいだろう。1955年のパリ・サロンにて文字どおりセンセーショナルなデビューを果たしたこの未来的モデルは、開幕日にパリの会場を訪れたクルマ好きたち熱狂させ、ショー初日だけで1万2000台ものオーダーを受けたといわれている。

 昔日の絵本や漫画に登場する宇宙船を思わせるレトロフューチャー的なスタイリングは、イタリア出身のスタイリスト、フラミニオ・ベルトーニが手がけたものだが、その革命は表面的なものにとどまらなかった。

 革新的なスタイリングは、テクノロジーやメカニズムの進歩に裏打ちされたものであり、それはのちのシトロエンの後継車に受け継がれることになるほか、ロールス・ロイスやローバーなど外国の高級車にも多大な影響を与えることになったのだ。

 同様に称賛されるシトロエンの名作「トラクシオン・アヴァン」系の後継モデルとして開発されたシトロエンDSは、当初は空冷のフラット6エンジンを搭載する予定だったが、トラクシオン・アヴァン時代から引き継いだ直列4気筒OHVに変更。排気量は1911ccからスタートし、中途で新世代の4気筒OHVに移行し、1975年に生産を終えるまでには2347ccの「DS23」まで進化を遂げていた。

 そしてDSと廉価版のIDは、流線型のボディやシングルスポークのステアリングホイール、「プッシュボタン式」と呼ばれるゴムボール状のブレーキペダル、油圧アシストステアリング、油圧によって調整可能な車高、セミオートマチック式「Cマティック」ギアボックスなど紛れもないフランスの未来像であり、当時の購入者のみならず全世界のファンを魅了したのだ。

 1967年モデル以降は、日本のファンの間では「ネコ目」と呼ばれるヘッドライトを持つマイナーチェンジ版に移行した。今回のオークションに出品された「DS19」は、そのマイナーチェンジ初年度に生産された1台。しかも名門カロジエ(コーチビルダー)によって改装された、希少な豪華バージョンだった。

名車シトロエンDSのオークション評価はいかに

 今回のRMサザビーズ「LONDON」オークションに出品されたシトロエンDS19は、実業界のエグゼクティヴや高級官僚のショーファードリヴン・ユースのために少数が製作された「プレスティージュ」仕様車。

 フレデリック・フォーサイスの小説を映画化した『ジャッカルの日』(1973年公開)の冒頭にて、フランス閣僚・官僚たちを乗せたおびただしい数のシトロエンDSたちが、謀議の会場を一台一台あとにするシーンをご記憶の方もいらっしゃることだろうが、あのシーンに登場するDSの多くがプレスティージュ仕様だったといわれている。

 プレスティージュは、DS/IDを2ドア・デカポタブル(コンバーチブル)化したメーカー公式特装モデルや、DSシリーズをベースとするフランス大統領公用車「プレジダンシャル」の架装も担当した名門カロジエ「アンリ・シャプロン」社がメーカー公式モデルとして製作したもので、革張りのインテリアや前後キャビンを分けるパーテーション、ショーファーとの会話に使用するインターホンなど、豪華な装備が施されている。

 さらに純正クーラーも装備された今回の出品車は、2016年にカリフォルニア州サンタバーバラを拠点とするディーラーによって、ヨーロッパ大陸からアメリカに輸出されたのち、2019年12月にアメリカのオークションで販売。そののち英国に輸出され、2021年1月に登録されたことが、オークションWEBカタログに記されている。

 DSプレスティージュらしい漆黒のボディカラーに、シルバーのパネルが貼られたCピラー。そしてライトグレーの本革インテリアのコンディションは、カタログ写真を見る限りでは極めて美しい。カタログでは、デビューから60年以上経った今となっても、まるで未来からの幻影のように見える魅力的な1台、と謳われていた。

名門コーチビルダー製のDSは、約530万円で落札

 RMサザビーズ欧州本社は、出品者である現オーナーとの協議の結果、2万5000~4万5000ポンドという推定落札価格を表示するとともに、この出品を「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で行うことを決定した。

 この「リザーヴなし」という出品スタイルは、安値でも落札されてしまうリスクもある一方で、いかなる制限もなく確実に落札できることから会場の空気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むというメリットもある。

 そして、実際の競売では3万2200ポンド、日本円に換算すれば約530万円で落札されることになった。この価格は、現在の国際マーケットにおけるDSの評価としてはじつに標準的ながら、プレスティージュとしては比較的リーズナブルなもの。落札者は、なかなか良い買い物をしたかと思われるのである。

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