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【特別インタビュー】アフターパーツ業界の未来を「NAPAC」高瀬嶺生会長が語る。「規制があるからこそ良いものが生まれる」

NAPAC会長である高瀬嶺生氏は、スポーツシートで有名なブリッドの社長でもある

クルマのアフターマーケットの振興を担う「NAPAC」

 スポーツパーツの品質基準を担保するためのASEA(アセア:Autosports & Special Equipment Association)と軽合金ホイールの品質基準を担保するためのJAWA(ジャワ:Japan Light Alloy Wheel Association)、保安基準を遵守しスポーツマフラーの普及に努めるJASMA(ジャスマ:The Japan Automotive Sports Muffler Association)という3つの事業部から成り立っているのが、一般社団法人である日本自動車用品・部品アフターマーケット振興会、NAPAC(ナパック:Nippon Auto Parts Aftermarket Committee)である。

誰もがクルマをカスタムしている!?

 クルマをカスタマイズするということに対して、「改造はちょっと」と腰が引ける人はいまだに多い。しかし実際のところ、クルマを所有しているほぼすべてのオーナーは、なにかしら愛車にカスタマイズをおこなっているものだ。

 たとえば、タクシーの運転席などでよく見かけたビーズのシートカバーもそう、現代でいえばスマホホルダーを取り付けるといったことも、カスタマイズの一種といえる。そう考えると、クルマをまったくの新車状態のまま乗っている人はまずいないだろう。

 現在、クルマをカスタマイズするベクトルには、クルマの機能をレベルアップするための「チューニング」、スタイルのよさを追う「ドレスアップ」のふたつがある。たとえばスタッドレスタイヤに履き替えるという行為も、カスタマイズの一種といえる。

 冬季の路面状況に合わせてタイヤを換えるというのは、機能面をオーナーの使いかたに合わせてノーマル状態からレベルアップしているということ。これは立派なチューニングといっていい。さらに、専用のホイールを用意してスタッドレスタイヤを履かせるとき、そのホイールをデザイン性から選べば、ドレスアップの第一歩に踏み込んだことになる。

 つまり、意識してクルマに接している人は、少なからず「カスタム」していることになる。だからこそ、信頼できるパーツを使い、信頼できるショップで取り付けることが大切なのだ。信頼できないパーツを使ったり、あるいは適当な取り付けかたをしてしまったら、それは自らも、そして他者をも危険にさらすことになってしまう。一般社団法人であるNAPACが日々活動しているのは、この根幹となる信頼できる──安全安心なカスタマイズパーツの普及にほかならない。

 このNAPACの現会長を務めているのが、スポーツシートで有名なブリッドの社長でもある高瀬嶺生氏である。AMWでは高瀬氏に、今後のカスタマイズパーツの展望についてお話を伺った。

──ブリッドの社長を務めながらNAPAC会長を兼任なさるのは、激務だと想像に難くないですが、日々精力的に活動なさっている高瀬会長のモチベーションの秘訣を教えて下さい。

「私はASEA設立時から理事を務めさせていただいていて、現在までずっと、なんらかの形でNAPACに関わってきています。同時にブリッドの社長としても仕事をしていますが、NAPACの会長としては時代の変化に対する危機意識を強く持っています。

 正直にいえば、NAPACの仕事をするために上京すると、本業のクリエイティブなアイディアはなかなか出てきません。そのため、移動時間は気持ちを切り替える時間として、東京にきたらNAPAC会長、名古屋では会社にこもってクリエイティブなアイディアを考えています。

 2020年からのコロナ禍によって、とくにインバウンド需要が大きく落ち込みました。しかし現在は、円安ということもあり、海外でのNAPAC会員社のパーツの販売数が増えています。

 これまで日本市場は、規制が厳しく新しいパーツがなかなか登場しないといわれてきました。しかし実際には、規制があるからこそ優れたものが生まれてきた、という側面もあります。逆説的ですが、車検制度があるからこそ品質のいいアフターパーツがある、というのも事実です」

規制緩和はアフターパーツにとって是か?

 車検制度があるからこそ、高品質のアフターパーツが生まれたという高瀬会長の分析は、制限があるからこそ優れた作品が生まれるというアートと同じ図式が成り立っているのが分かる。つまり、カスタマイズパーツの開発・製品化はクリエティブな営みにほかならないということだ。では、規制が緩和されるということは、マイナス面の方が目立ってしまうのだろうか。

──1995年の規制緩和は、クルマのアフターパーツ業界にとって大きな転換となったと思います。業界的にどのような影響があったのでしょうか。

「1995年の法改正によって規制が緩和されたとき、一般的には市場が大きく広がるという面が注目されていました。それはつまり、アフターパーツの開発や販売をするときの業界参入へのハードルが下がる、ということでもありました。その流れは、それまできちんと仕事をしていたブランドからすると、価格は安いが品質も良くないパーツにシェアを奪われてしまうということにも繋がりかねない状況となりました。

 もちろんこの規制緩和は、カスタマイズというものを一般に知らしめるという意味での効果は大きいわけですから、ここで大事なのは品質のいいもの、安心・安全なものを使わなければ、最終的にカスタマーが損をする、という正しい認識を持っていただくことだと思っています。

 そのためNAPACとしてはこれからも、積極的な広報活動を続けていく予定です。2022年にはTwitterを利用した情報発信をはじめましたし、Youtubeにカスタマイズパーツの効果を示す動画をアップするなどといった動きをはじめています」

クルマのアフターパーツの未来は?

──クルマの技術的な進歩は日進月歩です。ICEからEVへと転換しつつありますが、カスタマイズパーツ業界は現在の状況をどのように捉えていますか?

「現在のクルマはさまざまな情報を統合制御しています。そのため、アフターパーツを開発する際にはそれをクリアできるユニットをつくる必要がある場合もあり、それがコストアップの要因となりがちです。

 ところが──私の本業の話になりますが、トヨタはGR86を開発するにあたって、ブリッドと一緒にシート交換しやすいクルマづくりをおこなっています。つまりトヨタは、われわれのようなアフターパーツ業界も含めた、自動車産業全体を盛り上げることを考えているわけです。NAPACはそれに応えられる安心・安全なパーツ開発を続けていかなければなりません。

 こうしたことと同時に、NAPAC走行会の開催も続けていくことで、サーキットで走ることを愉しむユーザーを増やしていき、スポーツユーザー層も広げていくことを考えています」

* * *

 自動車業界はいま、電動化も含めた変革が起きつつある。さらに、クルマに対する消費の減少も明らかだ。そのため今後は、新たな技術に対応した確かなモノづくりと、海外市場も含めた販路の拡大が必要となってくる。そのときに大事なのは、高い技術を持った製品の開発だ。NAPACはその点を見据えた活動をアフターパーツ業界全体として続けていく。製品のパッケージや本体に入れられたNAPAC(ASEA・JAWA・JASMA)のロゴは、安心・安全を表すものなのだ。

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