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ホンダF1優勝マシンのエンジンが精密「1/6スケール」モデルで復活!鈴鹿PAでも展示中

鈴鹿PA:スケールは6分の1ながら、実機と見間違うような精緻な作り込みと圧倒的な質感を間近で堪能できる絶好の機会となっている

メキシコシティグランプリでホンダをF1初優勝に導いたマシンがデモラン

ホンダF1参戦60周年記念イベントの一環として、2025年10月のF1第20戦メキシコシティグランプリ決勝当日(現地時間10月26日)、1965年に同地で優勝を遂げたホンダF1マシン「RA272」が日本人フルタイムF1パイロットの角田裕毅のドライブでコースを駆け抜けました。さらに鳥取県の日下エンジニアリングは、このマシンのエンジンを6分の1スケールモデルで再現するというカタチで記念イベントに参画。その精密なエンジンスケールモデルが完成できた軌跡とこだわり、そして鈴鹿パーキングエリアでの展示について紹介します。

鳥取の「もの作り企業」がホンダF1参戦60周年記念イベントに参画

ホンダF1マシン「RA272」が走行したエルマノス・ロドリゲス・サーキットは今から60年前に記念すべきホンダF1初勝利を挙げたサーキットである。このデモランはホンダF1の歴史を象徴する「原点回帰」のプログラムとして実現したものだ。

ピットレーンには白地に日の丸をあしらったマシンが姿を現し、当時のメカニックをオマージュしたつなぎを身にまとったスタッフが周囲を固めた。まるで1965年当時の光景がよみがえったような雰囲気が漂い、節目のイベントに華を添えた。

このホンダF1参戦60周年の記念行事に鳥取県米子市の「日下エンジニアリング」も参画している。同社は2010年に「もの作り企業」として創業し、2015年には「その歴史を手元に残す」をテーマに、最新のリバースエンジニアリングを駆使し、これまでにはない精巧なエンジンスケールモデルを製造する模型部門を立ち上げた。以来、時代を彩ってきた名機を6分の1スケールで次々と再現している。クルマ好き、模型好きの間では高い評価を得ている。

最大の特徴は、設計から製造、組み立てに至るまですべて国内で完結している点にある。数多くのホビーメーカーが製造を海外に依頼しているが、純国産体制を貫くことで、トラブル対応や商品の改良、アップデートも迅速に行うことができる。国内で完結させる体制によるスピードと品質の両立が、日下エンジニアリングの最大の強みだ。

モデル化したのはホンダF1第1期、第2期を支えた3基の名機

日下エンジニアリングはこれまで数多くの自動車メーカーからライセンスを得て商品をリリースしており、その実績がホンダの目に留まった。ホンダ側から

「F1参戦60周年記念商品を作ってほしい」

と打診を受けた際、代表の佐々木禎氏は

「大のアイルトン・セナファンだったので、心から嬉しかった」

と当時を振り返る。

複数回のすり合わせを経て契約を締結。今回、数ある候補の中からモデル化されたのは3基の名機である。

1基目は、今回メキシコGPで走行したRA272に搭載され、ホンダF1初優勝を支えた1.5L V型12気筒自然吸気エンジン「RA272E」だ。

2基目は、1990年にアイルトン・セナが2度目のドライバーズタイトルを獲得したマクラーレンMP4/5Bのパワーユニットである3.5L V型10気筒エンジン「RA100E」である。

3基目は、16戦15勝という圧巻の勝ち星を挙げ、1988年シーズンを支配したマクラーレンMP4/4のパフォーマンスを支えた最後の1.5L V型6気筒ターボエンジン「RA168E」である。いずれもホンダF1第1期、第2期を象徴する名機たちだ。

ホンダから3Dデータの提供を受け、再現度が格段にアップ!

製作はホンダの全面協力のもと進められた。ホンダからエンジンの3Dデータの提供を受け、さらに栃木県茂木町にある「もてぎコレクションホール」に収蔵される実機を3Dスキャニングして、細部を撮影した。膨大な情報をデータ化したうえでモデリングが行われた。

「量産用のシリコン型の原型を3Dプリンターで製作するが、その再現性も非常に高く、より精巧なモデルに仕上がった」

と佐々木氏は語る。

エンジンブロックやシリンダーヘッドなど大物部品は型成型で製造するが、周辺の補器類(ショートパーツ)は3Dプリンターで直接出力する。以前は大物部品と同様に型成型していたが、現在は3Dプリンターのほうが高精度に仕上がることから方式を切り替えている。模型分野に参入して10年分の知見やノウハウの蓄積に加え、製造設備そのものの進化も今や商品のディテールアップにはかかせないそうだ。

熟練スタッフが丹念に手作業で組み立てるのもこだわりのひとつ

また、主要素材はシリコン型に樹脂を流し込むレジンキャストだが、周辺のパーツは金属、アクリル、ゴムなどさまざまな素材を使い分け、質感を限りなく実機に近づけている。細部まで一切妥協しない姿勢が日下エンジニアリングの真骨頂であり、マニアから熱く支持される理由である。

カラーリングについてもHRC(Honda Racing Corporation)と綿密にすり合わせ、確認作業を行ったうえで決定している。パーツが揃ったら佐々木氏を始め、熟練のスタッフによって細かく調整しながら手作業で1基ずつ丹念に組み上げられる。現在のエンジンにはない機械そのものが放つメカニカルな美しさが細部まで宿り、「これが模型なのか…」と思わずため息が出るほどのでき栄えだ。

価格はRA100E型とRA168E型が7万7000円。RA272E型は11万円(額装モデルは16万5000円)で各60基の限定販売となる。生産はいずれも完全受注となる。もちろん、ホンダの公認ライセンスも取得済みだ。ホンダと日下エンジニアリングのコラボで誕生した特別なエンジンスケールモデルは、F1ファンやモータースポーツ愛好家にこそ揃えてほしい逸品だ。卓上で眺めながら、ホンダF1の栄光の歴史に思いを馳せてほしい。

ちなみに、3種類のエンジン模型は現在、モータースポーツの魅力発信スポット、新東名高速道路・鈴鹿パーキングエリア「PIT SUZUKA」地域資源PRコーナー(鈴鹿PAは高速道路の利用者以外も入場可能)にて、実際にF1で使用されたエンジンパーツとともに展示中である。スケールは6分の1ながら、実機と見間違うような精緻な作り込みと圧倒的な質感を間近で堪能できる絶好の機会となっている。展示は2025年12月9日までなので、この機会を見逃せない。

モビリティショーではウイリアムズFW11のエンジン始動が行われる

最後に、F1メキシコグランプリで催されたRA272デモランは走行中にメカニカルトラブルが発生し、一時コース上で止まってしまう場面もあった。スケジュールどおりとはいかなかったが、短時間ではあるもののホンダが技術力で世界に挑み、勝利に導いた1.5L V型12気筒自然吸気エンジンが奏でるサウンドを耳にしたメキシコのモータースポーツファンはじつに幸運だったと言える。

その代わりではないが、10月31日から東京ビッグサイトで開催される「ジャパンモビリティーショー」では、11月2日(日)15:00〜15:30にホンダによるF1のエンジン始動デモンストレーションが予定されている。登場するのはメキシコで走ったRA272ではなく、1986年にホンダを初めてF1のコンストラクターズタイトルへと導いたウイリアムズFW11だ。搭載されるRA166E型は1.5L V型6気筒ターボながら1000ps超を誇った、まさに狂気の時代を象徴するパワーユニットである。この貴重な機会、モータースポーツファンやクルマ好きなら足を運び、その歴史的サウンドを体感してほしい。

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