バランスよく性能を高めたスタッドレスタイヤの新ベンチマーク
サマータイヤで走れる季節・環境ではタイヤのグリップを失うような経験することは少ないはずです。ところが冬の、とくに降雪環境下ではスタッドレスタイヤでもグリップ限界を超えて滑るといったことが当たり前のように起こります。つまり、冬用タイヤでは性能に対する依存度がとても高くなるということ。今回はブリヂストンの新作スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」の試乗インプレッションをお伝えします。
降雪地のブリザック装着率47.1%という信頼度
降雪地などで多く選ばれるタイヤは、雪道での信頼を得ている証ともなる。ブリヂストンのスタッドレスタイヤ、ブリザックは北海道/北東北主要5都市の冬季における一般ドライバーの装着率が47.1パーセントと、大雑把に言って2台に1台に装着されているという。
この数値はブリヂストンが第三者機関に調査させたものではあるが、多くのタイヤメーカーにも冬用タイヤ銘柄があるが、この装着率の高さはちょっとした驚きだ。それだけに、ブリザックの新製品となると注目度も期待も大きいに違いない。
2025年9月に発売されたブリザックWZ-1は、ブリヂストンの乗用車用スタッドレスタイヤとして最高のアイス性能を誇ったブリザックVRX3から4年ぶりの新製品となる。VRX3も併売されるが、ブリヂストンのなかでの商品ポジションとしては、WZ-1がプレミアム、VRX3がメジャーへと変わることになった。
最新エライトンを初搭載!経年劣化を抑制してアイス性能を向上
大きな変化として、WZ-1はスタッドレスタイヤとしてはENLITEN(エンライトン)を初搭載する。ENLITENとはブリヂストンが2021年に発表した商品設計基盤技術で、開発から生産、使用過程まで環境への高い配慮を盛り込みながら、従来製品よりも部材を薄く軽くしながら基本性能全般を高めた上で、とくに商品特性のなかで求められる性能を際立たせるものと説明されている。
細かい技術内容は省くとして、VRX3と大きく違うのは、ケースが左右非対称から左右対称形状に変わっていること、トレッド面の接地面積割合は同等ながら、トレッドパターンに貯水機能を与えたL字タンクサイプや親水性ポリマーを新たに配合したという発泡ゴムにより除水、吸水性能を向上させたこと、発泡ゴムによりもともと経年による性能低下が小さかった中で、さらなる性能維持を可能としたことなどとなっている。ちなみに、ENLITENの目的のひとつとされる軽量化に関しては、サイズにより差はあるものの、VRX3比で約3パーセントとのことで、ここは思ったよりも小さめだった。
8車種14〜19インチで市街地から山道まで試乗
そのWZ-1に冬の北海道の街中の日常からシビアコンディションまで、いくつかの車種及びタイヤサイズでの試乗が適った。そこでは、VRX3に対しての性能進化は体感上からも明らかで、とくにVRX3ではアイス性能の高さと引き換えとして、ここは多少犠牲になっていても仕方がないかと思えていたところの性能や特性が、これまでと違うとすぐにわかるほどのレベルで向上を果たしているのだった。
試乗の概要は、旭川市街から大雪山連峰にある旭岳温泉に向かい、旭岳温泉のホテルと旭岳のふもとにある駐車場で、交互に車両を乗り換えることで、国産車6車種、輸入車2車種の計8車種、タイヤサイズではホンダN-BOXに装着の14インチから、トヨタ・クラウンクロスオーバー、アウディQ5に装着の19インチまでの1インチ刻みで、扁平率も65から55までの3種を確かめられるという、1日の試乗メニューとしてかなり充実していた。ちなみに試乗車すべが4WDで、それぞれの4WDシステムや重量配分などによる特性を改めて知ることができ興味深かったが、そこは今回は触れないでおく。
旭川市内は前日夜まで路面に積雪はない状態だったが、深夜から降り始めた雪によって路面は薄く雪が乗っているような状況になっていた。午前9時にスタートする際の外気温は0℃ながら日差しがほぼない曇り空で、雪とその下に薄く残る氷面が溶けるか溶けないかといった状態で見た目以上に滑りやすい路面状況だった。
轍の乗り越えは舗装路でも圧雪路でも非常にスムース
まず、接地面積を最大化するための極めてスクエアに見えるショルダー形状がもたらす直進性や操舵の落ち着きといったところへの影響がどうなのだろうか? 205/55R16を装着するカローラツーリングで走り出すと、想像以上にしっかりとしたステアリングの座り感が得られており、かつ舵の立ち上がり、つながりも不自然さを感じさせないものだった。このあたりは左右対称形状となったケースも効いているところかもしれない。これなら雪のない路面や圧雪路でも扱いやすそうだ。
旭川市内を走りながら、意地悪く多少の轍状になった路面を探しながら走らせてみると、ワンダリング的な左右への唐突な動きもなく素直に乗り越えていくので、ステアリングの修正に気を使わされることはなかった。
前後の車両に十分な距離があることを確認しつつブレーキペダルの踏み加減をいろいろと試して、交差点近くにありがちな磨かれたアイス路面でのABS作動域までのグリップ度合い、さらにABS作動域に入った際の減速感などをチェックしてみる。スタッドレスタイヤのなかでもアイス性能がトップレベルを謳うだけのことはあり、期待以上の減速度が得られることを確認した。
北海道らしく直線が延々と続く道では、雪による軽い轍ができているような状況であえて轍を踏み外すような動きをさせてみたが、ここでも乗り越え時の動きは素直で安定性も高い。なるほど、グリップレベルだけじゃなく、運転のしやすさ、扱いやすさが向上しているのも進化のひとつと認識した。
駆動力や舵角の変化を与えても挙動変化は穏やか
旭岳のワインディングに近づくにつれ積雪量は増加し気温も低下したきたがが、標高1000mの旭岳温泉周辺での気温はマイナス7℃どまりだった。このため路面の雪もサラサラというほどではなかったが、雪質はほどよくトレッド面に雪がまとわりつき詰まる感じで、WZ-1のトレッドパターンによる雪柱せん断力と排雪性能の双方を知るにもいい環境だ。
ここではクラウンクロスオーバーから走り出したが、標準で備えるDRS(後輪操舵)の効果は大きかった。除雪直後で表面がフラットに近い雪面ながら、その下は氷っているような路面でも、コーナー入り口からほぼ外側に膨らむ感じなく鼻先が入り、さらにコーナ途中からは後輪の前輪と逆相操舵の威力で、自ら向きを変えるように素直に曲がる。ついついペースも上がりがちだったが、WZ-1は雪面を捉える横方向のグリップ感そのものがVRX3よりも頼もしく感じさせる。あえてアクセルを踏んで駆動力に変化を与えても、急激に舵が抜けるようなことなく、粘りながら狙ったラインを維持しようとする。さらに駆動力にわざと強い変化を与えた際も、意図した以上の急激な姿勢変化は生じにくいのだった。雪性能の向上とともに、アイスにおける横方向のグリップの高さを実感させるところだ。
試乗車をさらに重量車のアウディQ5に変えてみた。コーナー途中に橋があり途中で急にカチカチに凍っている路面に変わるようなところで、あえて少しオーバースピード気味でコーナー進入すると、さすがにフロントから外側に膨らんでいこうとする。ただ、それでもこうした動きに対しての舵の切り増しやアクセルオフへの応答感はしっかりと得られる。重量車は慣性力も大きいので滑りだしてからの動きが大きくなりがちなのだが、WZ-1では本当にグリップを失う域までに余裕があることが体感上でわかる。それゆえ操作も余裕をもって行えるのだった。
アイス性能だけに特化せずバランスよく性能を嵩上げ
ちなみに、冬用タイヤでは、雪面では基本として単位面積あたりの接地荷重が大きいほうがグリップ性能には有利となるので、タイヤ幅は車重に対して過負荷にならない範囲で細いほうよいことが多い。だが、一方で氷面は接地面積自体が大きいことが重要なので、そのバランスが難しいところとなる。
こうしたことも含めて、車種とその4WDのシステム、それにタイヤサイズによる多少の印象の違いはあった。しかし総じて、そもそもアイスブレーキ性能が優秀だったVRX3に対してさらに同性能を大きく向上させながら、しっかりと横方向のグリップも引き上げて、その上で限界域の予知性とその先のコントロール領域が同時に引き上げられていた。VRX3では総合性能として若干アンバランス感もあったスノー性能も着実に高められている。つまり、WZ-1は欲しいところに望んでいた性能をしっかりと盛ってきたという印象だった。同時に、このWZ-1により、スタッドレスタイヤのベンチマークレベルがまた一段高められたことを認識することにもなった。
