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選挙カーは特別扱い?見慣れた窓から手を振る候補者の乗車状況はOKなのか【Key’s note】

選挙カーの箱乗りはどこまで許される?

選挙カーで見かける乗車姿勢への疑問

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のお題は「選挙カーの箱乗り」です。筆者はテレビの報道番組で見たとある候補が窓から身を乗り出している「箱乗り」は法的に問題がないのかという疑問を持ちました。本来なら道路交通法に定められた安全な乗車方法や座席ベルト装着義務を満たしていません。じつは選挙運動用自動車に乗る候補者に対して一部例外規定が存在しますが、すべての行為が許容されるわけではありません。選挙カーにおける乗車姿勢について確認していきます。

道路交通法が定める乗車方法の基本

鈴木宗男参議院議員の「娘」というのがメディアの興味を惹きつけたようで、先日のワイドショーで、「鈴木貴子」の衆議院選挙の活動を取材していました。

雪深い北海道で選挙カーから体を乗り出し、街の有権者に手を振り、大きな声で投票をお願いしているシーンは、受託収賄や、議院証言法違反などの罪で有罪となりながらも保釈されるやいなや政界に復帰するという、やや強引なキャラクターで鳴らした父親に似ているように感じました。血は争えませんよね。

まあ、ここで政治の話をするつもりはありませんが、思わず首を傾げたくなったのは、選挙カーから身を乗り出して手を振る行為、つまり”箱乗り”は合法なのか非合法なのかという、素朴な疑問が芽生えたのです。

選挙期間になると、街角に独特の風景が立ち上がります。スピーカーから流れる候補者の名前の連呼、ゆっくりと進む選挙カー、そしてクルマの窓から身を乗り出し、手を振る立候補者。その姿を見て、あれは法律的に問題がないのでしょうか、というわけです。

選挙運動用自動車に関する例外規定

結論から言えば、原則として道路交通法違反に該当する可能性があるとのことです。 道路交通法第55条第1項は、「乗車又は積載の方法」について定めています。ここでは、車両の運転者に対し、乗車人員が安全な姿勢で乗車し、転落や負傷の恐れがないようにしなければならないと義務づけています。いわゆる「箱乗り」と呼ばれる、座席以外の場所に立ち上がり、身体をクルマの外に大きく出す行為は、この安全義務に明確に反しますね。

さらに、同法第71条の3では、座席ベルト装着義務が規定されています。走行中の自動車において、座席のある場所に乗車する者は、シートベルトを装着しなければなりません。

ただし、2020年5月の千葉県八千代市の選挙管理委員会の選挙運動・政治活動(Q&A)によると次のように書かれています。

「選挙運動用自動車については,道路交通法施行令第26条の3の2第1項第8号の規定により,運転手及び運転席以外に乗車する者に対しては、シートベルトの着用義務から除外されています」

このように選挙中の候補者に限っては、例外的に認められているそうです。 では、「選挙運動だから特別扱いされるのではないか」という疑問が浮かびます。道路交通法に選挙運動を包括的に免責する規定は存在しません。公職選挙法は、あくまで選挙運動の方法や表現の自由を定める法律であり、交通安全に関する規制を無効化する効力は持たないというのです。それでは”箱乗りはアウト”ですよね。

警察庁も過去の通達や運用において、「選挙運動であっても、交通の安全と秩序を乱してはならない」という立場を繰り返し示しています。つまり、選挙カーであっても、危険な姿勢での乗車、転落のおそれがある行為は、通常の車両と同様に取り締まりの対象となるとしています。ちなみに前述の八千代市の管理委員会はシートベルト着用について「安全面上,可能な限り着用することが望ましいです」とも記しています。

では、なぜ現実には黙認されているのでしょうか。そこには「即時の危険が明白でない場合には指導に留める」という、現場警察官の裁量があります。また、選挙期間中の政治的中立性への配慮から、積極的な摘発が避けられる傾向があることも否定できません。暴走族は悪意のある違反だからアウト、でも立候補者は悪意がないからセーフ、というわけですね。

とはいうものの、黙認と合法はまったく別物です。一瞬の急ブレーキ、予期せぬ接触事故。そのとき、クルマの上に立つ人間の身体は、法も思想も守ってはくれません。重力と慣性だけが、冷酷に仕事をします。

もし、あの選挙カーの上で誰かが転落したなら。その瞬間、スローガンは悲鳴に変わり、理想は現実の責任に姿を変えるでしょう。選挙カーの上で風に揺れるその姿を見ながら、私たちは1票以上の問いを突きつけられているのかもしれませんね。

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