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雨のニュルをスリックで攻めるような薄氷の「 ホンダEVシフト」の危うさと今後の立て直し【Key’s note】

ホンダ 0シリーズ コンセプト: 電動化戦略を語る三部社長。当初は2040年までに新車をすべてEVと燃料電池車にするという、日本のメーカーとしてもっとも野心的な目標を掲げて業界を驚かせました

急激なEVシフト戦略の見直し! 上場後初の巨額赤字から再起を図るための次なる一手の模索

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のお題は「ホンダ初の最終赤字をどう見る?」です。三部社長就任以降に掲げた急進的なEVシフト戦略が壁に直面し、開発凍結など軌道修正を迫られています。

フルスロットルで最終コーナーに突っ込んだ巨大メーカーは本当にコースに残る事ができるのか!?

ホンダは3月12日、2027年3月期までに最大2兆5000億円の損失が発生する見通しを発表しました。さらに2026年3月期の連結最終損益は最大6900億円の赤字になるとも公表しています。株式上場以来、初めての最終赤字転落です。

まるでフルスロットルのまま最終コーナーに突っ込み、ブレーキングポイントを見誤ったレーシングカーのような出来事だと思いました。

日本の基幹産業を長年牽引してきた巨大メーカーですら、ラインを外せばコースアウトする。それが100年に一度の変革期という名の難コースの恐ろしさですね。

巨大企業は巨大な客船に似ています。方向転換には時間がかかる。だからこそ舵を切る角度を誤ると、氷山に気づいた時にはもう遅い。今回のホンダの発表は、そんな現実を突きつけたように感じました。

決勝レースに出場する準備が整っていない状況…
まるで雨のニュルをスリックで走るEV戦略強行!

もっとも、この苦境を予想していたアナリストが少なくなかったのも事実です。三部社長就任以降、ホンダは急進的ともいえるEVシフトを掲げてきました。

2040年までに新車をすべてEVまたは燃料電池車にするという構想は、未来を先取りした壮大な戦略でしたが、その進め方は、まるで雨のニュルブルクリンクをスリックタイヤで攻めるような危うさをはらんでいるように感じたのです。

ホンダには「エンジンのホンダ」として培ってきた血脈があります。NSXやS2000といった名車はもちろん、F1での栄光の歴史は、単なる勝利以上の意味を持っていました。技術者が魂を削り、ドライバーが命を賭けて積み重ねた物語です。その象徴ともいえる内燃機関を捨てるという決断は、武士が自ら刀を置くような覚悟だったのかもしれません。

時代はサステナブルを合言葉に、ある種のEV礼賛の空気に包まれていました。脱炭素という正義の名のもと、内燃機関はまるで過去の遺物のように扱われました。しかし、冷静に考えればインフラ整備の進み具合も、燃料電池技術の成熟度も、まだ「決勝レースに出場する準備が整った」とは言い難い状況でした。

多額の補助金を投入してもシェアが1〜2%にとどまる日本市場で、急激な全面転換を図るのは、まるでウォームアップラップのまま優勝を狙うようなものだったのです。

「殿、御乱心」 の声が議事録の行間に埋もれた?表向きのEV一本化と捨てきれなかった内燃機関

それでもホンダはアクセルを踏み続けました。社内には懐疑的な声もあったと聞きますが、組織というものは一度方向が決まると、その流れに逆らうのは容易ではありません。

「殿、御乱心」

と、戦国時代なら家臣が小声で囁いたかもしれませんが、現代企業ではそうした声は議事録の行間に埋もれてしまうものです。

興味深いのは、表向きはEV一本槍でありながら、一部の開発現場では内燃機関の研究が続けられていた形跡がうかがえることです。これはまるで、撤退戦を覚悟しながらも弾薬庫を捨てきれない前線部隊のような判断です。あるいは「いつかまたこの武器が必要になる日が来る」と信じていたのかもしれません。

実際、EV化宣言後もホンダのクルマは依然として魅力的でした。アクセルを踏み込んだ瞬間に伝わる鼓動のような加速感や、ステアリング越しに伝わる機械の意思。レーシングドライバーとして数多くのマシンを操ってきた身からすれば、それは単なる移動手段ではなく、生き物と対話するような感覚です。そうした「走りの歓び」は、電気モーターの静けさのなかでも簡単には消えないものだと思います。

全面EV化戦略=スピンの後にどう立て直すか?
赤字は終章ではなくインターバルでどう攻める!?

今回、三部社長は2040年までの全面EV化戦略の見直しを認めました。肝入りだったゼロシリーズの高級SUV開発も凍結されています。失った資金は決して小さくありません。

しかしレースの世界でも、スピンしたあとにどう立て直すかで勝敗は決まります。ウォールに突っ込む前にステアリングを切り戻す。それができたのなら、まだ戦いは終わっていないのです。

100年に一度の変革期とは、地図のないラリーに似ています。誰もが正しいルートを知らない。だから先頭を走る者ほどリスクを背負うことになる。ホンダはそのリスクを真正面から引き受けたとも言えるでしょう。

内燃機関の咆哮が消えるのか、それとも新しい形で蘇るのか。その答えはまだ見えません。ただひとつ確かなのは、ホンダという会社はこれまでも幾度となく崖っぷちから這い上がってきたという事実です。

だから私は、今回の赤字を終章ではなく、インターバルだと思っています。次のスティントで、彼らがどんなタイヤを選び、どんなラインで攻めるのか。その走りを、もう少し見届けてみたいと思うのです。

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