精巧な芸術品へと進化を遂げた大人のためのコレクション
毎年5月に静岡県静岡市にあるツインメッセ静岡で開催される国内最大級の模型展示会が「静岡ホビーショー」です。2026年の第64回大会では、ミニカーの世界で大きな地殻変動が起きていることが確認できました。かつては子どものおもちゃという印象が強かった「1/64サイズ」のミニカーが、いまや大人のコレクションアイテムとして主役の座に躍り出たのです。かつて主流だった1/43サイズから主役が移り変わった背景と、会場で目を引いた精巧なモデルたちを紹介します。
1/43サイズの価格高騰がもたらした主役交代劇
2025年の第63回ホビーショーの時点で、ミニカーの趨勢は1/64サイズ(トミカなどでお馴染みの全長約7cmのミニカー)が主流になりつつあるという話をいろいろなメーカーから聞いていたのだが、今年はというと、主流は完全に1/64サイズになったそうだ。
ご存じのとおり、このサイズは日本ではトミカが先鞭をつけたもので、その歴史はすでに56年になる。多くのファンは子ども時代にこのミニカーで遊んだ経験があるだろう。そんなわけで、1/64サイズのミニカーは子どもが遊んで楽しむものという固定観念を持っていたし、事実「働くクルマ」のミニカーもこのサイズには多いので、手に取って走らせて遊んだというユーザーはとても多いと思う。サイズが小さいだけに昔のものはそれなりにディテールが甘く、だからつい遊び、あるいは玩具という印象が強かったものだ。
しかし今では本家ともいえるトミカも凄まじくディテールに凝ったモデルラインアップをそろえ始めており、昔はダイキャスト(金属を金型に流し込んで作る製法)のみだったものが、今はレジン(精密な造形が可能な合成樹脂)製が徐々に主力になりつつある印象を受ける。そんな1/64サイズの世界が今では様変わりして、大人が愛でて楽しむ世界が広がりつつあるのだ。
そもそも、見て楽しむ1/64サイズが流行り始めたきっかけは、ミニカーの主力ともいえた1/43サイズ(全長約10cmの中型スケール)の価格上昇にあった。ほんの少し前まで、1/43サイズのミニカーは安いものだと3000円台で手に届くものがあったのだが、今ではそうしたものはほとんど姿を消し、手頃と呼べるものでも5000円を下回るものはまずない。
じつはこれ、実車の世界と似た現象である。ホンモノのクルマ同様に、車両のサイズが大型化(価格高騰)すると、その空洞を補填する形で下位モデルが登場する。VW「ゴルフ」が大型化するとVW「ポロ」が登場し、そのポロがさらに大型化すると今度はVW「ルポ」が誕生したのと同じ理屈だ。つまり、1/43サイズミニカーの価格上昇が、手頃な価格で手に入る1/64サイズのミニカーを主力の座に押し上げたのである。
中国メーカーの躍進と個性豊かなブランド展開
ところが、その1/64サイズでさえ近年は価格上昇の波が押し寄せており、高いものだとすでに1万円を超える価格帯になった。それに主力の座にのし上がったことからバリエーションも非常に豊富になり、自動車趣味の幅広い層に浸透できるモデルレンジに拡大している。やはり背景には、中国メーカーの技術向上と圧倒的な市場形成力があるのではないかと感じている。
そんなミニカー市場を俯瞰して、今回のホビーショーで気になったモデルをいくつか紹介しよう。まずは老舗トミカであるが、もちろん自社でもたくさんのニューモデルの展示が行われていた。面白かったのは同業ともいえる京商とコラボして、京商のブースにトミカ プレミアムの日産「スカイライン スーパーシルエット」が展示されていたことだ。京商が同じ車両のラジコンモデルであるミニッツ(京商が展開する本格的な小型ラジコンカー)を展示していたために、2台をコラボで並べようということになったものだという。
サンリッチ ジャパンが手がける「ミニ GT」の1ブランドとして存在するKaido House。アメリカ在住の日本人クリエイター、ジュン イマイ氏がプロデュースするブランドで、ノーマル車の製品は一切なく、すべてカスタムカーやレーシングカーが占める。今回ユニークだったモデルが、果たしてそう呼んでよいか疑問も残る、いわゆる族車(出っ歯と呼ばれる巨大なスポイラーや、竹槍マフラーなどで派手に飾った暴走族風のカスタムカー)のモデルだった。
ガリバーのブースに展示されていた、ポルシェ「911 GT1」の出来もよかった。価格は4000円ほどだがカウルは開閉可能だ。同じくパガーニ「ウアイラR」も同様で、1/64サイズながらその出来を比較するうえで、隣に1/18サイズの同モデルが展示されていた。
常に実車を社長自ら測定して、高いリアリティを誇るレジンモデルを展開するキッドボックスは1/43サイズが主力だ。今回は見事に再現されたトヨタ「クラウン エイト」をご紹介する。
一方でダイキャストにこだわりを持つ国際貿易からは、2025年のラリージャパンで活躍した、トヨタ「GRヤリス」の1-2-3フィニッシュ3台セットが目を引いた。
精密化を極める大人のホビーの終着点
1/64サイズのミニカーが大人の趣味に昇華している象徴的なコピーを掲げたフリースタイルには、躍進著しい中国のモーターヘリックスを中心に展開。こちらは精密なだけでなく、エンジンルームなどの開閉が可能なギミックを用いたモデルが多く展示されていた。とりわけ会場で限定販売されるマツダ「787B」の1/64サイズのモデルには、よりサイズの大きなリアルなロータリーエンジンをディスプレイした特別キットが展示されていた。会場限定販売99台だったから、おそらく瞬殺で売れたことだろう。
スパーク ジャパンも最近は1/64サイズを熱心に扱う。スパークのモデルはどれも非常にディテールに優れ、しかも価格が3000円台と手頃なこともあって、着実にファン層を増やしそうである。今回はまだ試作とのことであったがディスプレイケースも展示され、そこに並べられたポルシェ「956」のチーム別カラーリングが施されたモデル群は圧巻であった。こういうのを見せられると、全部集めたくなるのだ。
緻密なモデルを専門に扱うイグニッションモデルは中心となるサイズが1/18で、やはり精密さと緻密さにこだわりを持つ。このために価格帯も4万円から5万円台と高額になるが、しっかりとマニアの心をとらえているようである。元々カスタマイズされたモデルが得意ではあったが、今回もカスタマイズカー専門のロケットバニーの試作品、日産「シルビア(S14)」が展示されていた。
そして究極のミニカーを目指すメイクアップからは、今回のショーの白眉といっても過言ではない、マセラティ「ティーポ61」の試作モデルがショーケースの中に収まっていた。CAD(コンピューターによる設計システム)を駆使した外観に、バードケージ(鳥かごのように細い鋼管を複雑に組み合わせたフレーム構造)と呼ばれるシャシーは、細い真鍮パイプを手組みした力作だ。しかもホワイトメタル(加工がしやすく重量感のある合金素材)の力感をそのままにした未塗装で展示されていた。まさに究極の1/43ミニカーであった。
かつてはおもちゃ箱のなかで傷だらけになっていたミニカーは、いまや技術と情熱の結晶として、私たち大人を夢中にさせる精緻な芸術品へと進化を遂げている。
