フォルクスワーゲンの大看板「ゴルフ」が大規模マイチェン
ディーン・フジオカ氏の出演するCMとともに、2025年1月から日本国内でもリリースされたフォルクスワーゲン新型「ゴルフ」。これまで販売されていたゴルフが第8世代にちなんで「ゴルフ8」と呼ばれていたのに対して、巷では「ゴルフ8.5」と呼ばれているマイナーチェンジ版のニューモデルは、はたしてどれほどの進化を遂げたのでしょうか。
インフォテインメントが刷新され物理スイッチも復活
このほどニューモデルとして発売となったフォルクスワーゲン「ゴルフ」だが、その内容はいわゆるマイナーチェンジとしては、かなり大規模なものといえるだろう。
最新モデルであることをひと目で印象づけるのは、フロントグリルの上縁と中央の「VW」エンブレムがLEDで光ることていど。でもその実、バンパースポイラーの形状は標準モデル/Rラインともに刷新されているほか、ハイビーム照射距離が500mに拡大した「IQ.LIGHT」を採用したLEDヘッドライトや、グリルの意匠にも手がくわえられているとのことである。
インテリアでは「ChatGPT」を採用し、インフォテイメントやエアコンなど多くの機能を音声でコントロールできるボイスアシスタント「IDA(アイダ)」を内包した新世代のインフォテインメントシステム「MIB4」を、新型「ティグアン」や新型「パサート」と共有。そのかたわら、ステアリングのスポーク上に設けられたグロスブラックのタッチ式スイッチが、コンベンショナルに指先で押す物理スイッチに戻されたことには、おそらく歓迎する声が多く聞かれるものと推測される。
豊富なパワートレインも刷新
新型ゴルフ8.5では、3種(パワー設定の違いを入れれば4種)のパワーユニットが用意されるなか、最大の変化が施されたのは、ガソリン+48Vマイルドハイブリッド(MHEV)の「eTSI」だろう。
4気筒1.5Lに統一されるいっぽうで、116psの低出力版と150psの高出力版が用意されるが、双方とも今回はMHEV機構そのものにも大きな改良が施され、これまでガソリンエンジンとBSG(ベルトスタータージェネレーター)の間にあったセルモーターを廃止。すべてBSGで管理するシステムに切り替えられることで、よりきめ細かい制御を行い、実質的な燃費性能もドライバビリティも大きく向上したという。
くわえて、スロットル開度によっては気筒休止するシステムが、従来の2気筒をアイドリング状態で待機させるものから、2気筒を完全に停止させてしまうものへと変化している。これもまた、セルモーターを廃した恩恵という。
そして「TDI」には、デュアルAdBlue噴射機構「ツインドージングシステム」を備える2.0Lの直列4気筒クリーンディーゼルエンジン。今年50周年を迎える「GTI」には、従来型どおり2.0L 直列4気筒の純ガソリンターボエンジンが搭載されるが、そのパワーは245psから265psにアップしたとのことである。
上質にして軽快なガソリン+48Vマイルドハイブリッド搭載モデル
「ゴルフ8」から「ゴルフ8.5」へと移行するマイナーチェンジにて施行された最大の変更ポイントは、eTSIベーシック版(アクティブ ベーシック/アクティブ)に搭載されるパワーユニットが従来の3気筒1.0Lターボ+48V・MHEVから、4気筒の1.5Lターボ+48V・MHEVに置き換えられたこと。ただし、最高出力は3気筒1.0L時代(110ps)と大きくは変わらない116psに抑えられるいっぽうで、従来型にも存在した150psの1.5Lターボ+48V・MHEV搭載車は上級グレード(スタイル/Rライン)として併売される。
今回試乗することのできた「eTSIアクティブ」は、最廉価版に相当する「eTSIアクティブ ベーシック」ともども、116psスペックのもの。このパワーの数値だけ見ると少々心もとない印象も受けそうだが、アイドリング+αの1500rpmから220Nmの最大トルクを発生するトルク特性に、48Vマイルドハイブリッド機構のアシストが加わって、じつに快活。一般道でも高速道路でも、全ゴルフで最軽量となる1320kgの車体も相まって、確実に流れをリードできる。
またスロットルを深く踏み込めば、同じゴルフでもGTIのごとき豪快な咆哮ではない、いかにも実用車然とした排気音が高まりはする。でも、音量自体はかなり低く抑えられており、会話やオーディオの音楽を損なうことはないだろう。
なお、パーシャルスロットル時に2気筒分を完全停止してしまうという、新たな気筒休止システムは介入が非常にスムーズ。かなり頻繁に作動しているはずながら、筆者ていどの感性・感度では、2気筒走行とフル4気筒走行の違いは感じ取ることができなかった。それは、燃費とCO2の削減に大きな効力を発揮するであろうこのシステムが、とても巧みに作用している証といっても良いだろう。
リアの突き上げ感も影を潜めてサルーン然とした乗り心地
ところで、これらのベーシックグレードでは、一部では忌み嫌われがちなトーションビーム式の後輪懸架を採用しながらも、ゴルフ8では指摘されることもあった後輪からの突き上げ感や、コトコト・ザラザラした感触も影を潜め、ロードノイズもとても静かな印象を受けた。
とくに、タッチパネルの操作でドライブモードをデフォルトの「コンフォート」にしておけば、より大柄なサルーン然とした乗り心地と快適性が満喫できるのだ。
この好ましさには、アクティブ/アクティブ ベーシック仕様に採用される、205/55R16という今どきの常識ではかなり細めで扁平率も高いタイヤの影響力もあるのは間違いないだろう。しかしパワートレインの面も含めて、ゴルフ8の発表時に巻き起こった指摘や批判を真摯に受け止め、確実に弱点を解消に近づけてきた真面目なスタンスには、かつてのフォルクスワーゲンの美風が蘇ってきていることを実感するのだ。
フォルクスワーゲンの復活を支えるポテンシャル
ところで今回の新型ゴルフ試乗会では、ターボディーゼル版の「TDIアクティブ アドバンス」にも乗る機会が得られた。こちらはeTSIと比べると100kg以上も重いこともあってだろうが、あらゆる点で軽快感のあるeTSIと比べると重厚。しかし、力強さでは明らかに上回っていると感じられた。
ツインドージングシステム(デュアルAdBlue噴射機構)を採用した最新世代のTDIエンジンは、最高出力こそ従来型の150psから不変ながら、最大トルクは20Nmアップの360Nm。その恩恵は明確で、市街地でも高速道路でも胸のすくような加速を披露する。
ただ、絶対的な音量は抑えられていながらも、加速時にはディーゼル的な排気音を隠すことなく発する。もちろん、定速クルージング時にはこれもディーゼルらしく低回転だけで走らせられることから、きわめて静謐なドライブを満喫できるのだが、このディーゼルの特質を前面に押し出すクルマづくりには、数年後には50周年を迎えることになる「ゴルフ・ディーゼル」の世界観を、フォルクスワーゲン社がとても誇りに思っていることの表れであるかのようにも感じられたのだ。
* * *
蛇足ながら、今回のマイナーチェンジではステアリングのスイッチが物理スイッチに戻されたいっぽうで、ダッシュパネル中央の大型スクリーンのタッチパネルのレスポンスも向上した。そのため、意外にも早く慣れてしまった筆者は、ChatGPT採用の音声アシスタント「IDA(アイダ)」に、CMのディーン・フジオカさんみたく「ハロー、ゴルフ」と呼びかけてもなかなか仲良くなれなかったことも相まって、結局もっぱらタッチパネルに頼っていたことを正直に申告しておきたい。
ともあれ、巷でいわれる「ゴルフ8.5」の表記はどうやら日本独自のもので、フォルクスワーゲン社ではあくまで「ゴルフ8」と呼んでいるそう。でもこの進化ぶりからすると、やはり「ゴルフ8.5」、あるいは「ゴルフ8.75」くらいに表記しても良いんじゃないかな? と能天気に思ってしまったのである。
specifications
■VOLKSWAGEN GOLF eTSI Active
フォルクスワーゲン ゴルフ eTSI アクティブ
・車両価格(消費税込):379万9000円
・全長:4295mm
・全幅:1790mm
・全高:1475mm
・ホイールベース:2620mm
・車両重量:1320kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
・排気量:1497cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:FF
・変速機:7速DSG
・エンジン最高出力:85kW(116ps)/5000-6000rpm
・エンジン最大トルク:220Nm/1500-3000rpm
・モーター最高出力:14kW(19ps)
・モーター最大トルク:56Nm
・燃料タンク容量:47L
・公称燃費(WLTC):18.8km/L
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)トレーリングアーム
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前&後)205/55R16
■VOLKSWAGEN GOLF TDI Active Advance
フォルクスワーゲン ゴルフ TDI アクティブ アドバンス
・車両価格(消費税込):449万5000円
・全長:4295mm
・全幅:1790mm
・全高:1475mm
・ホイールベース:2620mm
・車両重量:1430kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
・排気量:1968cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:FF
・変速機:7速DSG
・エンジン最高出力:110kW(150ps)/3000-4200rpm
・エンジン最大トルク:360Nm/1600-2750rpm
・燃料タンク容量:51L
・公称燃費(WLTC):18.8km/L
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)4リンク
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前&後)225/45R17
