いろいろな波乱はあったが完走することが重要
2023年に「ロードスターカップ」で公式レースデビューを果たした20代自動車ジャーナリストの筆者は、5月31日~6月1日に富士スピードウェイで開催されたENEOS スーパー耐久シリーズ2025 Empowered by BRIDGESTONEシリーズ・第3戦富士24時間レースに初参戦。その様子をレポートします。
悪天候でレーススタートが1時間遅れ23時間耐久に
以前の公式テストの記事でお伝えしたように、筆者はST-5Rクラスに参戦している「OVER DRIVE」の65号車「odula TONE 制動屋ROADSTER」をドライブさせて頂いた。今回のレース結果は「無事完走できた」だった。念願であったスーパー耐久24時間の舞台は、その洗礼を受けた日々でもあった。
まず、レース全体が天候に翻弄されたのがひとつ目の洗礼。富士スピードウェイは富士山の麓にあるため天気の変化が激しい。今回は、雷雨によって5月31日15時のスタートは1時間遅れとなり(これにより23時間レースに)、さらに霧による赤旗中断が合計4時間近くあり、当初予定していたスティント(ドライバー各々の走行時間)が消化できない状況となった。
乗り込んでいざ出陣!…と思いきやマシントラブルでピット作業へ
そしてマシントラブルにも苦しんだ。19時30分ころ、筆者はS耐初スティントに臨むためマシンに乗り込んだ。エアジャッキが下りて「いざスタート!」と思ったが
「ダメです!! デフオイルが漏れてます!」
と無線で知らされる。そこからマシンはガレージへと送り込まれ、トラブル修復のため約3時間のストップとなってしまった。原因はデフオイルクーラーのラインからオイルが漏れていたのだ。
じつは筆者の前にドライブしていた外園選手が速い上位クラスからの強引な追い抜きから回避した際に、グラベルと縁石に乗り上げたという。そのときにデフオイルクーラーのラインが若干外れてしまい、それが原因でデフブローとなってしまったそうだ。速度差があるクラス違いのマシンが走るのは、スーパー耐久の難しいポイントだ。
ただ、ひとつお伝えしたいのは筆者が参戦したST-5Rクラスは、他のクラスのマシンに比べ正直ストレートスピードがもっとも遅い。もっとも速いクラスのマシンとは、メインストレートで約100km/hの速度差があると言われている。そのような性能差がある戦いのなかで、外園選手はグラベルに飛び込むまでラインを外していなかったら接触していた危険性だってあったわけだ。24時間というサバイバルなレースは完走してこそ価値がある。大きなクラッシュになるようなリスクを犯すより、トラブルでリペアできるダメージで留める方が、まだ上位を狙えるチャンスは残されるわけだ。
そして、このデフトラブルに対応できるチームも流石だと思う。このような事態を見越して予備のデフを持ってきていたのだ。じつは約1時間かけてデフオイルラインを修復した後で、デフブローと判明した。この段階でデフを載せ替えてマシンを再び送り出すまで、2時間でできると判断する経験値を持っている。このようなフレキシブルな対応が出来るのも、2024年24時間でクラス2位となった強豪チームだからこそと言える。
筆者の初スティントは当初の予定から14時間後
デフを載せ替えた直後のスティントは当初の順番では筆者だった。しかし、交換したデフのチェックも兼ねてレギュラードライバーの丹羽選手が担当することになった。その後も濃霧によるSCや赤旗中断などでスティントの予定が何度も入れ替わったので、筆者が乗るタイミングも何度も変更された。乗る時間になってもまだ乗れない……ということが何度もあり、いつ気を休めていいのかわからず、乗る前に疲れてしまったというのが本音だ。
ただ、結局、当初の予定であった5月31日19時30分から14時間ほど経過した、翌朝6月1日9時から1時間ほどドライブすることになった。当初は90分弱のスティントが2回の予定だったが、これも耐久レースのひとつの洗礼だろう。
時間になりマシンに乗り込んだのだが、今度はハブトラブルによって数分のストップ。しかし、チームが迅速にトラブル対応をして、無事にコースインすることができた。自身のスティントでは順位争いなどのバトルはなかったが、安定して速くクルマを運ぶことに専念した。レースは後半に入ってきており、路面にはタイヤカスも多く散乱している。レコードラインを外すとすぐにタイヤにそのカスが付着して振動が出る。いかにタイヤカスを拾わずに、後ろから来る速いクラスのマシンにロスなく抜いてもらうかがポイントだ。
ちなみに、この速いマシンに追い抜いてもらうのが非常に難しい。というのは、左右のコーナーが連続するようなセクターでは、追いつかれたときはコーナーアウト側を走っていても、次のコーナーではイン側になってしまうからだ。速い後続車との距離や追いつかれたタイミングで、コースのイン側に留まるか、それともアウト側に移動するかの判断が必要となる。速度差は大きいが、むしろメインストレートなどの直線で抜かれる方が気分的には楽だった。
実際にチームとして参加した人でなければわからない達成感
こうして自身のスティントは無事に終了した。というか正直スティント中のことは細かく覚えていない。自分のステントが始まるまで何度も緊張を高めては緩めての繰り返しだったので、なにより無事に終われて安堵したことだけを覚えている。
そして迎えた15時のチェッカーを受けた後のマシンが戻ってきたときは、表現のしようがない高揚感と達成感に満たされていた。上位でゴールしたら、その感覚はもっと大きいと思うが、今回のようなトラブルのなかでの完走は、また違った特別な高揚感と達成感があったと思う。あの感覚は実際にチームとして参加した人でなければわからないだろう。
初のスーパー耐久参戦。そして24時間のレースを無事に終えることができたこと、ご一緒したチームOVER DRIVEの皆さんを始め、関係者に感謝しかない。本当にありがとうございました。より速く安定したドライバーへと成長し、2026年も機会があれば24時間レースにチャレンジしたいと思います!
