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約352万円の激安フェラーリ「F40」!1000万円超だったジュニアカー落札相場が大暴落

2万4000ドル(邦貨換算約352万円)で落札された「F-Racer Junior」(C)Courtesy of RM Sotheby's

フェラーリF40のジュニアカーで見る競売マーケットの動き

2025年8月13日〜16日に米国モントレーで行われた世界最大級のクラシックカーオークション「Monterey 2025」では、名車に加えて「ジュニアカー」と呼ばれる縮小版モデルも注目を集めました。そのなかでもとくに話題となったのが、1990年代に製作されたフェラーリF40を約4分の3スケールにした「F-Racer Junior」です。高い完成度を誇る出品車両でしたが、今回のオークションでは予想を大きく下まわる価格で落札されました。その背景とマーケットの動きを解説します。

約30年前だから製造&販売が実現できた縮小版F40

フェラーリ本社による著作権のコントロールが現在のような厳格となる以前、20世紀末までのF40は「キッズカー」や「ジュニアカー」のモデルとしても大いに引用されていた。「F40のように見える」小さなクルマたちは、乳幼児が遊ぶキッズカーはもちろん、大人のコレクション対象にもなり得るような精巧なジュニアカー(ないしはチルドレンズ・カー)としても世界各地で製作されていたことを、筆者も記憶している。

今回のRMサザビーズ「Monterey 2025」オークションに出品されたブラックボディのF-Racer Juniorは後者に属する。オークションハウスのWEBカタログでは、製作された時期やメーカーなどに関する情報は記されていないものの、カタログ写真で見る限りはコレクターの審美眼にも耐えうる仕立ての1台である。

製作台数はごく少ないと思われるF-Racer Juniorは、オリジナルのフェラーリF40の約4分の3スケールで、全長2.6m、全幅1.6mと、子ども用としてはかなり大きなサイズだ。車両重量も250kgに達する。

フレームはかなり立体的でしっかりとした作りであり、ミドシップに搭載された排気量270ccのガソリンエンジンに、ファイナルギア比2:1のギアボックスを組み合わせる。子ども用を標榜しつつも最高速度は時速55km(約35マイル)に達することができたが、任意でリミッターを作動させることも可能とされていた。

また、油圧式ショックアブソーバーやコイルスプリング、リアのディファレンシャル、油圧ディスクブレーキ、そしてウィッシュボーン式独立サスペンションなど、本物のF40さながらのメカニズムも奢られている。

子ども2名または大人1名が乗車可能なボディはFRP製で、本物のF40と同じくレキサン樹脂製のスリット入りリアウインドウや、チルト式リアカウルなどもF40の特徴を再現している。前後のホイールも、本物のF40に採用されたO.Z.社製3ピースアロイを、当時としては可能な限り再現しようとしたことがうかがえる。

インテリアもかなり作り込まれたもので、2座のミニバケットシートは、本物のF40に採用されたOMP社製バケットシートに似た、黒い不燃性ファブリックで張り込まれている。また、ダッシュパネルもざっくりとした質感とダークグレーのカラーがリアルF40を彷彿とさせるファブリックが張られ、実際に機能するメーターやイグニッションキーが取り付けられている。

トランプ関税の影響か?記録的な下落をしたオークション価格

製作したメーカーの所在や来歴が明らかでなく、作られた数もごく少数と思われるF-Racer Juniorだが、RMサザビーズの「Monterey」オークションに登場するのは今回が初めてではない。

3年前の2022年のオークションには、プロトタイプといわれているシャシーNo.01が出品され、3万ドルから4万ドルというエスティメート(推定落札価格)に対し、11万4000USドル(現在の邦貨換算約1672万円)という高価格で落札された。翌年の2023年にも出品され、同じく3万ドルから4万ドルのエスティメートが設定されたが、落札価格は8万7000ドル(現在の邦貨換算約1276万円)に終わった。とはいえ、これまでの落札価格はいずれもエスティメートを大幅に上まわってきた歴史がある。

F-Racer Juniorとしては2年ぶりとなる今回のオークション出品に際して、RMサザビーズ北米本社の営業部門は

「印象的なブラックのボディカラーに黒いインテリアの組み合わせで生産された、わずか10台のうちの1台」

というPRフレーズとともに、実績からすれば安価に思われる3万ドルから5万ドル(邦貨換算約444万円〜740万円)というエスティメートを設定した。そのうえで現オーナーとの協議の結果「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」での出品となった。

この「リザーヴなし」という競売形態は、価格の多寡を問わず落札できるため、会場の雰囲気が盛り上がり入札が跳ね上がる傾向がある。しかしその反面、たとえ価格が出品者側の希望に到達しなかったとしても、強制的に落札されてしまうというリスクも同時に内包している。

そして迎えた8月15日の競売では、最低落札価格なしのリスクが発動したようだ。落札価格はエスティメート下限を大幅に下まわる2万4000ドル(現在のレートで日本円に換算すれば約352万円)となった。これはこれまでの落札履歴からすると大幅な下落である。

もちろん、公道走行が許されないジュニアカーに352万円オーバーは十分に高価であることは間違いない。しかし、2022年および2023年の落札履歴からすれば、今回のハンマープライスは驚きに値するほどに下落しているのも疑う余地のない事実である。

たしかにカタログ写真をよく見ると、ボディパネルの表面にFRPの劣化によると推測される凹凸や、室内でもジャージー風生地の毛羽立ちのようなものが確認できるなど、コンディションが極上とは言い難いことが、この価格に影響したと推測される。

そのうえ、「トランプ関税」による全世界的な景気の先行き不安感により、移ろいやすいこの種のマーケットの展望が見えにくくなっていることも、この落札価格を左右したことが想像できる。趣味・嗜好品を扱う国際的なマーケットでは、たとえ子どもの玩具の延長線上にあるようなジュニアカーであっても世界情勢の影響を受ける。今回のハンマープライスは、そのような図式を明示しているかにも感じられた。

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