障がいに合わせバイクをカスタムして走行
バイクシーズンも終盤を迎えた2025年12月1日(月)、過ごしやすい気候のなか、埼玉県上尾市にあるファインモータースクール上尾校にて「パラモトライダー体験走行会」が開催されました。主催するのは公益社団法人サイドスタンドプロジェクト(以下SSP)です。この走行会は、障がいを持つ方を対象に、バイクを操る体験の機会を提供しているイベントです。
すべての人にバイクを楽しむ機会が開かれている
SSPは、1997年からWGP(世界ロードレース選手権・現MotoGP)へフル参戦を開始した青木拓磨選手の事故をきっかけに発足した団体です。青木拓磨選手は翌1998年のシーズン前テスト中に事故に遭い、下半身不随となりました。現在は4輪のレースで活躍する車いすドライバーですが、そんな彼に「再びバイクに乗ってもらおう」という有志の企画からSSPの活動は始まりました。青木拓磨選手がライダーとしてバイク走行を実現させた後、現在は
「ほかの多くの機能障がいを持つ人にも、バイクに乗れる感動を届けたい」
という思いで活動を全国に展開しています。
活動の中心となる「パラモトライダー体験走行会」では、SSPがヘルメットやグローブ、ボディプロテクターなどの装備品と専用バイクを用意します。サーキットや自動車教習所、駐車場といったクローズドコースを利用して頻繁に開催され、参加者それぞれの障がいに合わせてバイクをカスタムして走行します。
この日は視覚障がいを持つ方2名と、脊椎損傷による下半身不随などの障がいを持つ方5名が参加しました。視覚障がいの方には、バイク用インカム「B+com」を通じてボランティアスタッフが走行ラインをリアルタイムで指示し、安全な走行をサポートします。下半身不随の方には、シフト操作を手もとのスイッチに移設するSSPオリジナルの「ハンドドライブユニット」を装着した車両を用意。各パラモトライダーの状況に合わせたプログラムを組み、走行レベルに応じて補助輪の有無を切り替えるなどの簡易カスタムも現場で行います。もっとも不安定になる発進と停止のタイミングでは、ボランティアスタッフがクルマの両脇から駆け寄って車体を支えます。
SSPは走行希望者に対して、基本的に断りません。それぞれの障がいの内容を確認したうえで、どうすれば安全にサポートできるかを検討し、入念な準備を行います。これにより、すべての人にバイクを楽しむ場が開かれています。
今回も少し肌寒さを感じる時期の開催でしたが、快晴という天候にも恵まれました。参加者は自らの手でバイクを動かす感覚をじっくりと味わい、事故なく走行を堪能することができました。
ありそうでなかった…どこへでも行ける車いす?
この走行会には、障がいを持つ当事者だけでなく、活動を支える多くのボランティアスタッフも集まります。この会場へ、埼玉県内に拠点を持つ「Attrac lab(アトラックラボ)」が、市販直前の新型車いすを持ち込み、試乗会を実施していました。
アトラックラボは、人工知能やロボティクス技術を用いたフィールドロボットの設計などを行う企業です。今回は車いすタイプの試作機と、搬送ロボットの2機種が持ち込まれました。
もっとも注目を集めたのは、車輪部分がクローラー(履帯)となっている電動車いすです。通常の車いすでは走行が困難な砂浜や、段差のある不整地でも自由な移動を可能にするコンセプトで製作されました。こうしたクローラーモデルはありそうに思えますが、じつは一般販売されている製品はほとんど存在しません。アトラックラボはそこに目をつけ、市販化に向けて最終調整を行っている段階です。
駆動用にはリチウムイオンバッテリーを搭載し、8時間前後の走行が可能です。2026年中の発売を予定しており、スティックコントローラーで操作するモデルは市販価格70万円前後を目指しています。販売だけでなくレンタルやリースも検討しているとのことです。操作系はスティック以外にも、ラジコンのようなプロポ仕様やGPS自律走行仕様への変更など、多様なカスタマイズに対応します。さらには車いすメーカーとのコラボレーションや、2026年に愛知県で開催されるアジアパラ競技大会へのサポートも視野に入れています。
この日、会場では障がい者、健常者を問わず多くの人が試乗を行いました。現場で集められたリアルなフィードバックにより、製品はさらに磨き上げられていくことでしょう。
