ドイツ人のシビアな要求に応えている日本車人気の高さを実感
F1やWEC/ル・マン24時間レース、スーパーGTやスーパー・フォーミュラなど、国内外のトップカテゴリで長年活躍し、TGR-E(トヨタ・ガズー・レーシング)副会長に就任された中嶋一貴さん。現在はドイツ・ケルンに生活の拠点を移し、トヨタ・ガズー・レーシングの活動をはじめ、若手育成にも精力的に取り組む一方で、愛車のレクサスでドイツでのカーライフをエンジョイされています。その中嶋一貴さんに日独の自動車文化の違いについて、同じくドイツ在住ジャーナリストの池ノ内みどりさんがお話を伺いました。
ドイツではプリウスはPHEVのみの高級超レアモデル
──ドイツでは最近はハイブリッドカーも少しずつ増えており、私自身もトヨタC-HRハイブリッドのレンタカーでベルギーのブリュッセルまで往復約1600㎞を走った経験があります。確かにトルクもあって走行安定性は素晴らしく、快適なドライブだったことを覚えています。ただ、アウトバーンの速度制限解除区間を150km/h前後で走行していると、少し燃費の悪さが気になりましたけど。
「ハイブリッドは元々高速道路、ましてやアウトバーンを走るような設計ではないというのがことがあって、そこはドイツメーカーや欧州メーカーとの設計の部分の違いを感じます。けれど、質感や乗り心地や走りの部分では、日本車(トヨタやレクサス)は凄く良くなっていると思うので、自走での長距離移動にも非常に快適にドライブしています」と一貴さん。
「例えば、日本では大人気のモデルのトヨタのプリウスは、ドイツで見掛けることはほとんどありません。その理由には、ドイツではプラグ・イン・ハイブリッド(PHEV)のみの取り扱いで車両本体価格は45.990ユーロから。日本円で約830万円という超高価格で、オプションを加えると一気に900万円ほどになってしまいそうです。
従ってドイツの街でのプリウスは非常に稀で、超レアモデルのひとつとなっていますが、私のなかではプリウスはドイツでの日常生活のアシとして、そんなに高額だとは思っていませんでした」という一貴さん。自宅からの通勤ルートではインフラが整っていて、充電の心配も全くないそうで、プリウスは毎日のTGR-Eへの通勤に利用というライフスタイルにはぴったりなのだとか。
高まるドイツでのトヨタやレクサスの性能評価を実感
──日本と同様に自動車産業が国の大きな経済の要となるドイツ。各自動車メーカーの本社や工場近辺の街には地域の誇りもあり、ご当地メーカーの自動車は非常に多く走っています。私の住むミュンヘンではBMW/MINIがありますので、この2ブランドのクルマが多いのですが、コロナ禍以降は新車・中古車問わず自動車価格の高騰もあり、トヨタ車をドイツ国内で見掛けることが随分と増えました。
「実際に私も顕著にトヨタ車とレクサスの性能の向上を実感していますし、そういう意味では、自動車王国のドイツにも受け入れられていると思います。実際に見掛ける数が増えていると感じています」と一貴さんも日々の生活の中でトヨタ車の人気を肌で感じているそうです。
「自国に素晴らしい自動車メーカーを多く持つドイツの方々は、日頃からアウトバーンを走行することもあり、自動車選びにはシビアです。それだけにドイツ人のクルマに対する要求は高いと思いますし、消費者の方にきちんと伝わり、認められているということだと思います」と、実際に一貴さん自身も愛車のドライブからレクサスの性能向上を実感しているとのこと。
ドイツでは走行マナーやルールに厳格で煽られるような運転は皆無
──では、ドイツ人のドライブマナーをどう感じていらっしゃるのでしょうか。日本では3車線の高速道路でドライバーのみなさんがそれぞれ好きな場所を好きな速さで走っている状況を多々見掛けますよね。永遠に追い越し車線をのんびりという感じのドライバーもいます。
「声を大にして言いたいですが、トラックはみんな右(日本の左車走行車線)。右走行車線はゆっくり走る人、中央車線は遅すぎず、速過ぎずの人、左の追い越し車線はそれなりのスピードで急いでいる人という風にルールが徹底しているので私にとってはストレスフリーです」とおっしゃる一貴さん。
レースの走行マナーと似ている部分がありますね。永遠に追い越し車線を走るということもNGなドイツでは、追い越したら走行車線へ戻るというマナーも守られています。
──F1から様々なトップカテゴリを経たトップレーシングドライバーとして、またドイツ在住で日々クルマを運転される中で、日本のドライバーのみなさんに流れに乗るスマートなドライブを提唱するならどんなことを心掛ければよいと思われますか。
「私が実際に日々ドイツで運転する中で、煽り運転はほとんどないと感じています。あくまで私の推測ですが、みんなが周りをよく見ていて自分のことだけではなく、まわりを走る人のことも考えながらルールに則っているので、煽り運転になるような原因が少ないのかなと感じています」と。
もしも後ろから速いクルマが接近してくるのを確認したら、急いでいるんだなと察して、お先にどうぞと道を譲ることは自分の安全のためにはもちろん、相手の安全のためにも思いやりの運転となりますね。
「みなさん、ミラーをよく見ながら運転しましょうね!」一貴さんからメッセージを頂きました。プロのレーシングドライバーのようにカッコよくスマートな運転に少しでも近づけるようになるためにも、日々心掛けたいですね。
