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YOKOHAMAホイール製作に込められた哲学と流儀とは【萩原C.M.Pインタビュー】

レーサーとクルマ好きとして得た経験と知識が
萩原修プロデューサーのホイール作りの原点

日産GT-R、スカイラインGT-Rを中心としたスポーツカーオーナーから熱い人気を誇るホイールブランドが「横浜ゴム」の『YOKOHAMA WHEEL』だ。
その企画からデザイン、そして営業から宣伝までほぼすべての分野を一人でコントロールしているのが、「横浜ゴム」消費財製品企画部ホイール企画/デザインC.M.P(チーフ・マーケティング・プランナー)の「萩原修」氏である。
自動車専門誌には「横浜ゴム」のプロデューサーとしてこれまで幾度となく登場しているため、クルマ好きならば萩原氏の名前と顔を知っている方も多いだろう。
また、平成5(1993)年、当時国内最高峰のグループAレース(全日本ツーリングカー選手権)1クラスに参戦するHKSスカイライン(日産R32型スカイライン)のドライバーに抜擢。第3戦スポーツランドSUGOでは並み居るトッププロドライバーを押しのけて優勝する伝説を作ったスーパーサラリーマンだ。

さらに、愛車のマツダRX-7(FD3S型)をこよなく愛し、理想に近づけるため長い時間をかけてカスタマイズを施すなど、チューニングの世界にも精通する根っからクルマ好きでもある。
その経験と知識が萩原氏のアルミホイール作りにおけるデザイン、設計の骨格となっている。

日産スカイラインGT-R、GT-Rの自動車専門誌「GT-R Magazine135号」(平成29(2017)年6月1日発売)では「GT–R WHEEL TREND 2017」と題して、萩原氏にYOKOHAMA WHEELの新商品について話を伺った。
インタビューの時間を重ねていく中で、話は新商品のことから、アルミホイール作りに対する拘りまで多岐に及んだ。
今回、誌面ではページ数の都合上お伝えすることができなかった萩原氏が考えるホイール作りのプロフェッショナルとしての哲学について書き連ねていきたいと思う。

ホイール製作ファクトリーを持たないことが
『YOKOHAMA WHEEL』の魅力を引き出す

「YOKOHAMA WHEELはアルミホイールのファクトリーを持たないことが、ファクトリーメーカーとは違う魅力を引き出せていると考えています。どの分野もそうですが、ファクトリーメーカーは、工場の生産性や設備投資の回収などいわゆる工場を回すために製品バリエーションを多岐に渡って持つ必要が出てきてしまいます。意外に感じる方もいるかもしれませんが、こだわり抜いた商品だけをラインアップしていくという商品戦略だけでは工場は回らないという現実が存在するのです」

「アウトソーシングでホイールを作るということはそうした呪縛から解き放たれて、いってみれば作りたいものだけを作っていくということが可能になります。幸いにもYOKOHAMA WHEELのそうした1本筋の通った製品作りを理解いただけるユーザー、ファンから支持を得ているホイールメーカーであると今は自負しています」

作りたい商品だけを作っていくというポリシーがゆえに、年間に出せる新作の数は当然限られる。
そのため、新商品を次々と出して、メーカーとしての鮮度を保つのではなく、時代の流れに左右されることもなく、自分の中でやらなくてはと思うまで大きくデザインに手を加えないのが萩原氏流のホイールメイクだ。

常に進化させ続けることよりも
長期間魅力を失わないことが重要

「常に進化させなくてはという意識はありますが、ディテールや性能を見て、ここにどうしても手を加えたい、という部分がないのにまわりに流されて新しくするのは疑問です。YOKOHAMA WHEELは、長きにわたりその魅力を失わないということをブランドポリシーのひとつにしています」
「お客さまは大枚をはたいてホイールを購入されるわけですから、もし1年で廃盤になってしまっては悲しいと思います。世界で名の通ったブランド品はどの分野でもきっちりとしたライフを持っていますよね? ですから、アイデアというのは無理矢理出すものではないと思っています」

今年、同社のフラッグシップモデルである「ADVAN Racing GT」に21インチサイズ(上の写真)を追加しているが、ホイールメイクの軸はぶれていない。
「21インチは日産R35型GT-Rと相性が良く、GT–Rをプレミアムな領域まで引き上げてくれるアイテムであると以前から感じていましたので、絶対に手掛けたいというわたしの強い思いを具現化し、投入しました。今回、21インチ化するにあたって、細部はサイズに合わせた若干のアレンジを加えてはいますが、基本デザインは変更していません」

「ADVAN Racing GTはリリースしてから5年目を迎え、これまで20インチ(上の写真右)、19インチ、18インチ、そして21インチ(上の写真左)とバリエーションを拡大してきましたが、どのサイズのデザインを見ても”まさにこうあるべきだ”と感じていますし、全体を見ても今もって“どこかを変えたい”というイメージが湧きません」と絶対の自信をもっている。
常に主眼に置いているのはクルマフリークとしての視点。そして、トレンドを追いかけることなく、今作りたいものを作る姿勢こそが『YOKOHAMA WHELL』の貫く姿勢だ。

ホイールは独立した作品ではなく
常に愛車を際立たせるためのパーツ

「ただ、ホイール作りのプロフェッショナルとして、昨年の自分よりも高いレベルにいなくてはいけないと思います。ですから発表する新作には何かしらの新しいアイデアが盛り込まれています。デザイン的なアイデアであったり、最新技術を使ったものだったり、その商品の核になる部分は進化をさせることを自分への命題としています」

「革新的なものを強く追い求めているわけでもありません。それはファクトリーメーカーにお任せしています(笑)。ただ、“ホイールはクルマに付けてナンボ”ということは自分が生粋のチューニング・フリークでもあるので強く心に刻んでいます。作品としての仕上がりを細部まで突き詰めるということは当然ですが、ホイールがそれだけで独立した作品になるということではなく、常に愛車をカッコよくするためのパーツであるということがその使命と考えています」

カッコいいホイールはクルマと一体化するもの
手を入れてこそ、愛車もホイールも引き立つ!

カッコいいホイールはクルマと一体化するもの、クルマの魅力を引き上げるもの。
洋服でも既製品とフルオーダーでは同じスーツでも着こなしの印象が変わるように、ホイールもノーマルのまま装着するよりも、車高を下げ、キャンバーなどに手を入れることで、カッコよさの相乗効果を生むと萩原氏は考える。

「わたしは、惚れ込んだクルマを手放せない一方、最新型のポルシェGT3も何とか手に入れて、クルマに対する感性にカビが生えないようにしています。それがポルシェといえどもカーメーカーから出荷される吊るしの状態のままにしておくのではなく、そこからさらにカッコよさを追求したいと身銭を切ったクルマで日々悪戦苦闘しているわけです。それこそがクルマが趣味といえることで、より多くのお客さまにも愛車に同じ気持ちで接していただけるようになればいいと勝手に思っています」

「個人的な思いを語れば、日産GT-RやポルシェGT3であっても、所詮カーメーカーが公道を安全かつ合法的(この部分にも一過言ありますが、それは今はやめておきましょう)に走らせるための最大公約数で出荷しているものです。ノーマルの車高じゃないとディーラーに入れないという考えはナンセンスだと思います。クルマはメーカーから預かっているのではないので、魅力を自分なりに引き出さないともったいないですね。目標は、自分が自分のクルマに見惚れるクルマに仕上げること。その過程で失敗してしまうこともあるかもしれませんが、それも含めてそれこそが本来あるべきクルマ趣味だと考えています」

カッコよくするにはショップの協力も必要不可欠
トレンドに流されずに一つの商品に魂を込める

ただ、そのためにはカスタマイズすることの楽しさ、カッコよさを理解したショップがオーナーをその世界へと導いてくれることも大事。そうした相乗効果で、愛車にさらなる愛情が注ぎ込まれていくはずだ。

「わたしが手掛けるホイールは、こうしたカスタマイズの世界にわたし自身が常に身を置くことで見えてくるアイデアや欲するものがその根底にあります。クルマと真摯に向き合うことで自分の気持ちがインスパイアされて、そこから新作ホイールのアイデアが生まれてくる今の物作りのスタイルをずっと貫いていきたいですね」

昔からヨーロッパの職人たちは、自分が拘りを持って製作した商品が、次の製品が作れるくらいのサイクルで回り続ける(その商品のファンのお客さまに売れ続ける)ことを理想としているが、萩原氏が作るホイールはそうした職人の作る作品と同じ臭いがする。
トレンドに流されることがなく、ひとつひとつ精魂を込めて作りたいホイールをデザイン。そして、生み出したホイールが自分の考えるベストな状況で装着されることをマーケットに発信し続ける姿勢。萩原氏が描くホイールにはカッコよさを追求し続ける、作り手のそうした思いもにじみ出ている。

極端に言えば欲しい人が買ってくれればいい
作り手と使い手の気持ちが同じであることが大切

「極端に言えば”理解してくれる人だけが買ってくれればいい”。趣味性の高いものはそうあるべきであるし、最終的には作り手と使い手の気持ちが同じ方向を向いていることが大事だと思います。そして、そこにわれわれの存在意義があると考えています」YOKOHAMA WHEELがリリースする商品は他のホイールメーカーと同じ工業製品である。
ただし、その製作過程で萩原という”職人”が経験と知識を武器に、カッコよさを極めるため、ホイールの隅々まで数値やディテールを追い求めている。
こうした細部にまで注がれる美への拘りが、他と一線を画する存在感を生み出しているのだろう。YOKOHAMA WHEELが国内トップレベルの各ブランドと肩を並べるアルミホイールとして、多くのカーフリークから認知される理由はここにある。

YOKOHAMA WHEEL http://www.yokohamawheel.jp

ホイールからタイヤまでクルマの安全を守る「横浜ゴム」http://www.y-yokohama.com/

(レポート:GT-R Magazine編集部)

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