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博物館で奇っ怪なオートバイと遭遇!多気筒エンジンを搭載した特殊なモデル10選

星形5気筒の前輪駆動やV12エンジンも存在

 岡山の実家では、物心ついた時には親父がオートバイを通勤に使ってました。その後8歳年上の兄も、高校時代から愛用するようになったから、いつもオートバイは身近にあったのです。それらは一般的であった単気筒とか並列2気筒エンジンを搭載していたので、オートバイ=単気筒あるいは並列2気筒、という概念が構築されていったのです。しかし中学に入った頃にホンダが並列4気筒の初代CB750、通称K0を発表。オートバイのエンジンだって多気筒化なのだと、以前からのイメージがぐらついた記憶があります。

 その後は2輪免許を取得しないまま4輪へとステップアップしてしまったために、興味の中心は4輪へと移行、現在に繋がっていますから、博物館探訪ツアーでは2輪専門の博物館はついつい避けてしまうし、自動車博物館の中でも2輪の展示車両はやり過ごしてしまうことが少なくはありませんでした。

 ところがこの夏の北米自動車博物館探訪ツアーでは、スケジュールの関係から、アラバマ州のリーズにあるバーバー・ヴィンテージ・モータースポーツ博物館/Barber Vintage Motorsports Museumで半日以上も時間を割き、4輪だけでなく2輪も興味深く見て歩くことに。そして1969年式のHonda CB750(K0)を見た途端、一気に、半世紀前のバイク大好き少年に立ち戻ってしまったのです!

 

並列4気筒は更なるマルチ化への第一歩

 69年にホンダがリリースしたCB750は、エンジン形式を“並列4気筒”とされていますが、技術的見地からいえば、横置きの直列4気筒エンジン、と言うことになります。歴史をひも解いてみると、66年にイタリアのMVアグスタが完成させたとの記録があり、その後もベネリやドゥカティなどイタリアのメーカーでは幾つかのトライがなされたようです。そんなことは岡山の片田舎に住んでいた少年には無縁で、4気筒=CB750=凄い!と刷り込まれてしまったのです。

 その凄い4気筒を上回る並列6気筒(横置き直列6気筒)を搭載したオートバイが市販されたのは72年のこと。仕掛けたのはイタリアのベネリで、ネーミングも単純明快にセイ(Sei:イタリア語で6の意)でした。

 ロードレース世界選手権では、60年代半ばから並列6気筒のレイアウトを採用したロードレーサーを投入していたホンダも、負けずとばかり78年にHonda CBX1000を開発・完成させ、海外市場専用としてリリースしています。

 

マルチエンジンを縦置き搭載

 4気筒から6気筒へと並列エンジンのマルチ化は進んでいきましたが、その一方で縦置きの4気筒や6気筒も登場しています。むしろ歴史的にはこちらの方が早く、直列4気筒縦置きは1910年代から登場しているのです。

 後に直列6気筒の縦置きレイアウトを完成させるヘンダーソン・モーターサイクル社(米国)が知られていますが、今回、バーバー・ヴィンテージ・モータースポーツ博物館で出逢った直4縦置きのオートバイは、米国の4輪の高級車メーカーとして知られるピアス・アロー社のバイクです。

 同博物館だけでなくミシガン州のヒッコリーコーナーズで、ギルモア博物館/Gilmore Car Museumのキャンパス内に設けられているピアス・アロー博物館/Pierce-Arrow Museumでも見かけています。

 ちなみにバーバー・ヴィンテージ・モータースポーツ博物館で撮影した赤いフレームの個体は10年式、ピアス・アロー博物館で撮影したグリーンの個体式は12年式。

 エンジンの全長が長いせいもあって、少し間延びした感は否めませんが、ルックスはかなり斬新です。

 それでもフレームにエンジンを吊り、それを跨ぐ格好で運転するのですから、オートバイでは見慣れたパッケージといえば、そう言えなくもないのですが…。

 その縦起き直列4気筒を2基合わせたパッケージが縦置きV8。このエンジンを搭載したオートバイは、60年代の終わりから70年代にかけて、50ccとか125cc、あるいは250ccの小排気量クラスのロードレーサーを開発し、世界選手権で活躍していたイタリアのモルビデリ社が94年にリリースした“作品”です。

 水冷の847ccV8エンジンを搭載。カウルでボディの上半分はカバーされていて、一見したところでは普通ですが、そのカウルの下から覗くカムカバーと4本のエキゾーストパイプが印象的です。もちろん反対側に回っても同じ景色が拡がるから改めてV8エンジンの存在を感じることになる、というわけ。ただしエンジン部分のボリュームは大きいのですが違和感を覚える、というほどではないのです。

 

星型5気筒エンジンで前輪を駆動

 こちらは明らかに違和感のあるルックスとなっているのがメゴーラの星型5気筒エンジンを搭載したバイクです。これはもうエンジン形式だけでなく、フロントホイールに星型エンジンを内蔵し、フロントホイールを駆動するというもの(一般的なバイクは後輪を駆動)。基本的な概念からして変わり種と言うしかありません。

 去年、ドイツのミュンヘンにある交通博物館として知られるドイツ博物館・分館/Deutsches Museum Verkehrszentrumで出逢った1台ですが、正直言って腰が抜けるほど驚きました。星型エンジンそのものは航空機用として知識があり、幾つかの博物館で見かけたこともありました。が、それをフロントホイールの内部に搭載しフロントホイールを駆動するというアイデアには脱帽です。でも、クランクがフロントホイールのシャフトに直結しているというから、信号待ちする時などはどうなんでしょう????

 

2つのエンジンをV型に合体

 ここから先は“おまけ”と言うことになりますがバーバー・ヴィンテージ・モータースポーツ博物館で見かけた変わり種で、どうしても紹介したいと思ったバイクが2台あります。ともに74年に製作されたHondaのSS100とKawasakiの1600 V8。

 いずれもメーカーの商品ラインナップにあるものではなく、イギリス人のエンジニアでカスタマイズのスペシャリストのアレン・ミルヤード(Allen Millyard)さんが手作りで作り上げたバイクたちです。

 パフォーマンスや存在感で言うなら1594ccV8エンジンで150bhpを捻り出すKawasakiの方に軍配が挙がるのでしょうが、親近感と言う意味では圧倒的にHondaが上です。

 ホンダの50ccには横型と縦型…と言っても、ここまで出てきた縦置き・横置きエンジンとは違い、クランクケースに対してシリンダーが水平に搭載されているのが横型で、直立に搭載されているものが縦型。ここまで出てきた流れで言えば、どちらも横置きとなる…の2種類があって、前者はスーパーカブやモンキー、あるいは60年代に登場した原付一種のスポーツバイク、SS50などに搭載されていたものです。一方の縦型は、SS50の後継モデルで70年代に人気を呼んでいたCB50に搭載されてデビューしています。

 ホンダには、この2種類の50ccエンジンが存在しますが、このSS100は、SS50にもう1基分のシリンダー&ヘッドを追加したものですから、ある種コミカルな趣があります!展示車両を見て思わずニヤリと顔を綻ばせてしまいました。

 

幻のV12とラッキーな出会いが

 そして最後のおまけが並列12気筒エンジン。これは2013年にイタリアの博物館を巡っていた時のこと。日程に余裕があり2輪の博物館であるモルビデッリ博物館/Associazione“Morbidelli Museo”に足を伸ばすことになりました。事前にメールで来意を告げてアポもとっていて、受け付けの電話で呼び出したところ、陽気な年配のイタリアンがやってきました。

 彼はこちらと同じくらいに英語が苦手のようで、それぞれイタリア語と日本語、そして片言の英語と身振り手振りで話していったところ、なんと彼はモルビデッリの創始者であるジャンカルロ・モルビデリ翁本人だったのです。ちなみにF1GPで活躍したジャンニ・モルビデリ選手の実父としても知られています。

 そのジャンカルロ翁は日本から訪ねて行った若者(…まだ小生は50代だったし、実際にジャンカルロ翁とは20歳以上も年齢の開きがあったから、こう言い張っても良いでしょう!…)を気に入ってくれたようで、博物館を一通り案内してくれたあとで「お前に良い物を見せてやろう」というような感じで2階のワークショップに招き入れてくれました。

 すると「こんなの見たこともないだろう」という感じで笑いながら、今回紹介する幻のV12エンジンを見せてくれたのです。残念ながらこの時彼はイタリア語でしゃべっていましたから、正確な翻訳ではありませんが、ニュアンスはこんなものでしょう。

 カメラを示して写真を撮ってもいいか確認したところ、お許しが出た(…これも難しい話ではなく「ふぉとぐら~ふ、お~けい?」と問いかけたらジャンカルロ翁が「OK!」と応えてくれたのです。たしかそんなやり取りだった、と曖昧ながら記憶しています…)から撮影もしたのですが、これがメカ好きにとってはもう感涙モノ。

 排気量など詳しいことは聞けませんでしたが、可愛らしいツインカムヘッドを乗せた前バンクの6気筒があり、それだけでもすごいのに、なんとその後方には後バンクの6気筒が鎮座しているから一目見ただけで充分。ジャンカルロ翁も興が乗り、モデルまで買って出てくれたのですからもうこちらの気分は最高。こんな素晴らしい出会いもあるから博物館詣はやめられません!

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