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「高齢者事故」対策は免許制度改正より“正しい運転姿勢”ができる「クルマづくり」が先決

高齢者免許を年齢や車種で限定する前にすべきこと

 高齢者が運転するクルマによる「アクセル踏み間違い」などによる痛ましい交通事故の報道によって、運転免許証の返納が強く推し進められている。また、高齢者が運転免許証を更新する際、75歳以上では認知症の検査なども行われている。

 さらに、衝突被害軽減ブレーキを装着した車種限定免許制度を設けるとか、未装着の既存の車種への衝突被害軽減ブレーキの後付けに補助金を設けるなどの施策が検討されているが、根本的な解決へ向けた原因調査が進んでいないと感じる。

 

安価な車両にはハンドルの前後調整ができない例もある

 既存の車種を含め、軽自動車及び登録車を含め、車両価格が比較的安い車種においては、ハンドルの位置を調整する機構の「テレスコピック」を装備しない例が多い。とある自動車メーカーによれば、原価が高くつくから装備しないとの答えが返ってきた。

 ハンドルの調整機構は2つあり、テレスコピックのほかにチルト機構がある。テレスコピックがハンドルの前後位置の調整であるのに対し、チルトはハンドルの上下位置を調節する機構だ。

 調整は、車種によって違うが、一般的にハンドル付け根の下側にあるレバーなどを解除し、ハンドルを動かして好みの位置に固定する(高級車など電動で調整できる車種もある)。

 チルトは、運転者の体格によってメーターが見にくかったり、ハンドルに足が支えないように高さ調整を行う機構である。こちらは、ほとんどのクルマに装備されている。その理由は、チルトはハンドルの先にある軸の長さが変わらないため、衝突安全のための車体構造にあまり影響を及ぼさないためだ。

 一方、テレスコピックはハンドルの前後位置を調節する機構であり、背の高い人などが正しい運転姿勢をとる際、ペダルとハンドルの位置関係を調整するのに役立つ。これがなく、チルト機構だけだと、ハンドルをきちんと握れるように運転席の位置を決めると、背の高い人にはペダルが近すぎて踏み替えで操作するようになり、踏み損なったり、踏み間違えたりする懸念が生じる。

 しかしながら、テレスコピックを採用するには、ハンドルの先にある軸の長さが変わる機構のため、衝突安全のための車体構造に手を加える必要があり、これに手間とお金がかかる。安価な車両にテレスコピックが装備されないケースがみられるのは、そういった背景があるためかもしれない。

ペダル位置も含めポジションを合わせることが大切

 運転操作の基本は、運転姿勢にある。プロフェッショナルなレーシングドライバーがまず行うのは、自分に合った運転姿勢になるように、シートやハンドルなどのポジションを調整することである。

 まして素人であれば、なおのこと運転姿勢は重要だ。それを正しく調整できない新車を長年にわたり販売し続けてきた自動車メーカーの罪は重い。それでいて、後付けの衝突被害軽減ブレーキの装着に代金をとる。損をしない商売しか考えていないのが明らかだ。

 なおかつ後付けの装置に国が補助を行うといっても、その原資は我々の税金である。自動車メーカーは、国民の税金を使って、安全対策においても損しない商売をしようというわけだ。

 マツダが、何年か前に正しい運転姿勢に関する体験会を催した。そこでは、同社の新旧アクセラ(マツダ3の発売前)を使い、ペダル配置の改善でどれくらいペダル操作の感覚が変わるかを体感させた。

 新旧アクセラで、アクセルとブレーキのペダル段差は変わっていない。しかし、運転者を進行方向へ正対させるペダル配置へ変更した(右側へ寄せた)結果、アクセルからブレーキへのペダル踏み替えが楽にでき、しかも、アクセルとブレーキのペダル段差が少ない感触をもたらしたのである。

 高齢となって、アクセルからブレーキへという足の横への関節の動きがしにくくなる人も多い。そういった人には、ペダル段差が少ないと感じる新型アクセラでの踏み替えは、ブレーキペダルの踏み損ないや踏み間違いを減らす効果があると感じさせた。

 すなわち、まずペダル配置を運転者が進行方向へ正対できる右寄りへ修正したうえで、テレスコピック機構を用いペダル操作のしやすい位置に座席を調整することにより、ペダルの踏み損ないや踏み間違いを減らすことができるだろうと、改めて運転姿勢の重要さを実感したのであった。

踏み間違い事故防止はペダル位置の改善が第一歩

 そうしたなか、ホンダのN-WGN(エヌ‐ワゴン)は、軽自動車として唯一ハンドルにテレスコピック機構を標準装備し、なおかつN-BOXと同じプラットフォームを使いながら、2019年に出た新型ではペダル配置も右寄りに修正したのである。

 これにより、運転者は進行方向へ正対して着座できるようになり、ペダルとハンドルの位置関係も体格に合わせることができるようになった。ここが、高齢者が間違いなく運転できるようにする出発点だ。そのうえで、電子制御による運転支援が効果を高めることになる。

 したがって、衝突被害軽減ブレーキ限定の運転免許証にすれば問題の解決につながるわけではなく、自動車メーカーが、軽自動車や登録車のコンパクトカーのような安価な車種であっても、体格いかんによらず正しい運転姿勢をとれるクルマを開発するのが先でなければならない。

 なぜなら、電子制御による装置も万全ではないからだ。カメラやセンサーが100%確実に障害物をとらえられるとは限らない。その万に一つの誤作動を補完するのが、正しい運転姿勢である。

 

地域に適した移動手段の確保があっての免許返納

 運転免許証の返納と引き換えに、タクシーやバスなどの乗車券を渡せば済むことでもない。地域に適した移動手段の確保を実現したうえで免許証の返納を求めるべきである。全国一律にはいかず、地域ごとの事情が関係するので、一朝一夕にはいかないはずだ。

 まずタクシーやバスを運行する事業者との協議も必要だろう。地域の元気な高齢者を臨時の運転者として近隣の住民の移動を助けるミニバスのような取り組みがあるが、そうしたことを地域の自治体で認可できるようにすべきだろう。トヨタは、そうした事業のための5ナンバーミニバンを準備している。

 それでもなお、自治体自体が町村合併などにより人手不足となり、制度の実現へ向け人員を割けない状況にもあるという。ならば、自動車メーカーや販売店など民間企業が人員を応援に出すことはできないのか。それは、一種の地域ボランティアである。大規模災害へのボランティア活動が行われているように、ある期間、準備が整うまでは民間が支援し、あとは自治体と地域住民が協力して運営することで、地域のミニバスが実現できる可能性が広がるのではないだろうか。

 そうした住環境における移動の確保が整ったうえで、はじめて運転免許証返納の促進が成るのである。

“クルマづくり”の変革で高齢者事故撲滅へ

 痛ましい事故は一刻も早く起こらないようにする必要がある。だが、場当たり的な目先の対処だけでは事故は無くならない。自動車メーカーがこれまでやってきたこと(テレスコピックの非装着や、適正なペダル配置への無関心)への責任も含め、単に物づくりの会社である以前に、地域に貢献する企業であるべきではないか。

 どの自動車メーカーも、創業者は家族を含め周りの人たちの生活を守り、より豊かに暮らせるようにするため、自動車製造に乗り出す決意をしたはずだ。どの自動車メーカーも、事故ゼロを目指すのは当然であり、現実的に高齢者事故が増えているなら、それを根本から解決する決意がなければならない。個々の高齢な運転者の意思や認識の前に、まず、自動車を世に生み出したメーカーの責任は重いと改めて自覚すべきである。

 そして、金儲けを優先するのではなく、奉仕の心で高齢者事故撲滅に臨まなければならない。それでなければ、自動車メーカーの存在意義は失われることになる。

 高齢者の運転免許証制度の改革は、一律でよいはずもなく、個別に状況を確認すべきだが、それ以前に、以上のような諸問題が解決できなければ、免許証制度だけで事故ゼロは実現できず、なおかつ高齢者の生活も守れない。

 

 

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