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なぜ、守らない?「信号機のない横断歩道での一時停止」歩行者とドライバーの抱えるリスク

“横断歩道は歩行者優先”という認識の低下

 警察庁が所轄する自動車安全運転センターが、昨年12~今年1月にかけて、埼玉県内の信号機がない横断歩道10か所で「歩行者に対しクルマが減速や停止をして道を譲っているか」という調査を行った。結果、約8割ものクルマが停止しなかったとのことだ。

 道路交通法では、歩行者優先として『横断歩道の手前での減速と歩行者優先義務』が定められている。違反すると「横断歩行者妨害」となり、違反点数2点、反則金は9000円(普通車)。同時に刑事罰もあり、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられる。それにもかかわらず、ほとんどのクルマが横断歩道での減速や停止義務を怠っている実態が、調査から見えてきた。

 調査では、職業運転者が走らせるタクシーでも停車したのは30%を下回り、バスも40%以上が停止しなかったという。すなわち、”歩行者優先”という交通の基本が、多くの運転者で意識されていないことを示している。

 こうした状況を踏まえると、ことに高齢者が信号機のない横断歩道を渡るのは危険性がより高まるといえそうだ。一方で、信号機のある横断歩道や広い交差点では、歩行者用の信号が青のうちに道路を渡り切れない高齢者がいるのも事実。慌てれば、躓いて転ぶ危険性もある。そこで、青信号の時間に左右されない信号機のない横断歩道を渡ったほうが、安心して横断できるのではないかと思いがち。しかし、冒頭の調査からすると、より危険性は高まりそうである。 では、どうすればいいのだろう。

歩行者も気持ちのゆとりが必要

 やはり、信号機のある横断歩道を渡ることを薦めたい。たとえ青信号が変わりそうになっても、自分の歩調を崩すことなく渡り切ることだ。たとえ警笛を鳴らされたとしても、渡り切れないのだから仕方がない。

 じつに危険だと思うかもしれない。だが、赤信号で停車したクルマの運転者が、青になったからといって歩行者がまだ歩いているのに発進する可能性は、信号機のない横断歩道でクルマが減速しなかったり、停止しなかったりする実態より、安全性を確保できるのではないか。それでも、前に停車しているクルマを追い越してまで先を急ごうとする運転者に対しては、どのような状況においても処置なしだ。 そのうえで、高齢者はことに、「次の青信号まで待つ気持ちの余裕」も必要。横断歩道に至る少し手前で青になっていた場合は、たとえ横断歩道に着いたときにまだ青信号であっても、一回待ち、次のタイミングで余裕を持って渡ることを薦める。

加齢によりクルマとの「間合い」がずれてくる?

 自分が歳を重ねて思うのは、若々しくありたいという積極的な気持ちとは別に、日常通りのことをする際に何事も問題なく普通にできた過去の記憶で行動しがちになることだ。ところが、いざ体を動かしてみると、想像以上に時間が掛かったり、体が動かなかったりする。同じことが、道を渡るときにも起こる。クルマがまだ遠くに見えて道を渡り切れそうに思うシーンでも、自分の歩く速度と、クルマが近づいてくる速度との間合いが、ずれてくるのだ。

 そして運転者に対しては、横断歩道に限らず、交通のなかで歩行者が何より優先されることを肝に銘じてほしい。また同じことは、自転車に乗る人にもいえる。自転車を使う多くの人が、歩行者と同じ感覚で道を走っている。しかし自転車は軽車両であって、車道を走るのが基本であり、歩道を走る際には歩行者が優先される。右側通行は、論外だ。 同時に子供連れの親は、子供を歩道側にして手をつなぐ配慮も必要。言葉で教えなくても、そのように日々習慣づけることで交通規則は自然に身に着き、やがて大人になってクルマを運転するようになったとき、他人への配慮が無意識に働くようになる。

 横断歩道で歩行者を無視して走り去る運転者の多くは、実は子供のころに親が安全を気遣って連れ歩かなかったことが発端なのかもしれない。 似たようなことは、駅構内などでの”左側通行”の横行でも同じ。日本は、歩行者は右、クルマは左が基本だ。ところが、駅など多くの場所で左側の歩行を促している。理由はともかくも、そうした日常が、交通規則の基本を無頓着にさせているのかもしれない。

 法律がすべてではない。だが、法律には、多くの人々が快適、かつ安全に過ごせるための基本が含まれている。いまの日本社会全体が、物事の根本や基本を改めて見直し、実行し直す時期に来ていると思う。

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