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マーチが330万円という衝撃! 手組エンジンでわずか30台限定の「A30」の中身が圧倒的だった

ほど良く「ホット」なオーテック30周年記念車

 日産車のラインアップには、ハイウェイスターやライダー、ニスモなど様々なワークスカスタム車があるのはご存じの通り。それらの中で、特に個性的だった1台が「マーチ ボレロA30」だ。

 2016年に日産傘下のカスタム車メーカー「オーテックジャパン」が、創立30周年記念車として30台限定で販売したこのモデル。ベースはコンパクトカーの「マーチ」で、顔はドレスアップ仕様の「マーチ ボレロ」そのもの。つまり「マーチボレロと何が違うの?」と一瞬思うかもしれない。

 だが、よく見るとボディは全幅が1810mmもあるマッチョ系。しかも、チューンされたエンジンはなんと150psを発揮! ちょっと体格はいいけど見た目は「羊」、でも中味は走りが楽しい「狼」という、面白いコンセプトのマシンなのだ。

 ここからはそんな超レアなスポーティ仕様、マーチ ボレロA30とはどんなクルマだったのかを紹介する。

330万円超のマーチが即売り切れ!

 親しみやすい丸いボディを持つマーチは、どちらかと言えば女性やファミリーにも人気の大衆車というイメージだ。だが、一方で、2004年に発売された3代目(K12型)ベースの「マーチ12SR」や、現行4代目(K13型)ベースの「マーチNISMO S」など、走りが楽しいスポーティ仕様も幾つか存在する。

 それらはいずれもエンジンや車体、足まわりなどがチューンされた、いわば日産のワークスカスタム車だ。マーチ ボレロA30もそんな仕様の1台なのだが、前述の通り、わずか30台しか販売されなかったという極めて激レアなモデルだ。

 製作したのは、日産のカスタム車や特装車などを手掛けるオーテックジャパン(マーチの12SRやNISMO Sなども同社が製作を担当)。前述の通り、創立30周年記念車であることから、販売台数は30台に限定。しかも価格はなんと(税抜で)330万円!

 それでも、インターネットで行った商談申し込みは、予定台数をはるかに上回り(一説には約20倍)、商談は抽選になるほどの人気だったという。

思わず「ニヤリ」とする楽しさを追求

 マーチなのに330万円! それでも、このモデルが当時なぜ即完売するほど注目されたのか? それを紐解くために、まずはざっとプロフィールを紹介しよう。

 開発コンセプトは「見てニッコリ、走ってニヤリの笑顔製造機。」このモデルが目指したのは、レースなどで求められる「絶対性能」ではないことを表したフレーズだ。

 あくまで、求めたのは“ストリート”での高次元な走り。高速道路など長距離クルージングでも疲れない快適性や、ワインディングでの爽快なハンドリング、普段の街乗りで交差点を曲がるだけでも「ニヤリ」としてしまうほどの扱いやすさなど、幅広いフィールドで操る楽しさを提供することを目的に開発されたのだ。

 またデザインも、やはり同社が製作を担当するドレスアップ仕様の「マーチ ボレロ」をベースに、丸味を帯びナチュラルな印象のワイドフェンダーを採用。これにより、ボレロがもつ「エレガントでキュート」なイメージに、強烈な「ダイナミックさ」が加味されている。

 そして、これらカスタムにより、クルマが好きな人が、運転するときだけでなく、愛車を眺めたときでさえ、つい「ニッコリ」としてしまう仕様……それがこのモデルのコンセプトなのだ。

熟練の職人がエンジンを手組み

 ストリート仕様とは言いつつも、開発には古くから日産のグループCカーやGTカーなど、レース用マシンのエンジン開発にも携わってきた同社の技術が惜しみなく投入されている。

 ノーマルのマーチがHR12DE型エンジン(1.2L・水冷直列3気筒)を搭載するのに対し、ボレロA30ではHR16DE型(1.6L水冷直列4気筒)を採用。K13型マーチに搭載できる最大排気量だ。

 このエンジンをベースに、専用のクランクシャフトやカムシャフト、高強度のコンロッドなどを装備。しかも前述の通り、レース用エンジンのノウハウを持つ熟練の職人により、インテークポートの研磨やハンドビルド(手組み)なども施すという、市販車ではありえない手間のかけようだ。

 そして、これらチューニングを施すことで、最高出力150ps/7000rpm、最大トルク16.3kgf・m/4800rpmを発揮。パワーだけでなく、十分な中低速トルクを確保しつつも、レブリミットの7100回転まで気持ち良く吹け上がる特性を実現することで、誰にでも扱える必要十分な動力性能を実現している。

 ちなみに、ミッションは5速MTのみの設定で、シフトレバーの取り付け剛性を高めるなどの専用チューンが施されてる。

シリアル入りエンブレムが特別感を増す

 車体関係では、約90mmのワイドトレッド化でロール剛性をアップ。これに伴い、前述の通り、ワイドフェンダーを採用。全幅がマーチの純正ボディに対し、145mm増の1810mmとなっている。

 また、リヤフロアをスペアタイヤパンが付いた純正から4WD用に交換してフラット化を実施。これにより、剛性アップのためのメンバーを追加することが可能となり、捩り剛性を向上。さらに、前後サスペンションステーなど補剛部品5点の追加も行うなど、専用のボディチューンを行っている。

 足まわりでは、サスペンションのスプリングやショックアブソーバーなどに専用チューンを施すことで、旋回中などでしなやかな動きを実現。ホイールには軽量・高剛性を実現する鍛造フル切削工法による16インチのアルミ製を採用する。

 さらに、マフラーには、直系54mmという大径エキゾーストパイプを採用したセンターデュアルテールタイプを装備。高い排気効率を実現すると共に、リヤビューのドレスアップ効果にも貢献している。

 内装では、フロントシートにホールド性と快適性が抜群なレカロ製LX-F IM110を採用。専用の本革巻き3本スポークステアリングや、アルミ製のペダル類(アクセル・ブレーキ・クラッチ)やフットレストも専用パーツだ。

 加えて、速度計が220km/hまで、回転計は9000rpmまで刻まれたコンビメーターも雰囲気満点。オーナーに「自分だけの特別な1台」を実感させるシリアルナンバー入りのセンタークラスターエンブレムが、このモデルにさらなるスペシャリティ感を演出している。

なぜマーチだったのか? 

 レースのノウハウを活かした高い技術力、ユーザーフレンドリーな乗り味やデザイン、そして名匠とも言える熟練の職人がハンドビルドで作ったクルマ。そして、そういった特別感が、当時の自動車メディアなどでも数多く紹介されることで話題を呼び、「330万円もするマーチ」が即完売となったのだ。

 ちなみに、このモデルは1台を製作するのに約1か月、予定の30台を約半年かけて生産したほど手間が掛かったクルマ。また、オーナーへの出荷前には、栃木県にある日産のテストコースで、1台1台を実走テストしたという。

 ところで、少し疑問がある。なぜオーテックジャパンは創立30周年記念車のベースになぜマーチを選んだのだろうか? その理由を同社は「(1986年の創立以来)今までマーチをベースとした様々なカスタム車を手掛けてきた」ことと、それにより「多くのノウハウを蓄積して成長してきた」からだという。

 オシャレ系のボレロ、日本初の回転シートを装備した福祉車両、110psを発揮したスポーティ仕様の12SRなど、いずれも同社にとって新たなトライをする時のベース車はマーチだったのだ。

 また、ユーザーからの熱い要望も後押ししたという。

 今までも同社では販売こそしなかったものの、K11型マーチをミドシップ化しSR20エンジンを搭載したMID-11、K13型マーチをワイドボディ化しチューンした1.5Lエンジン搭載のボレロRなども製作している。

 それらは、年に一度開催する同社のファン感謝祭「AOG湘南里帰りミーティング」やほかの各種イベントに展示したり、実走行させてきたが、その度に集まったファンから「ぜひ販売して欲しい」との声が多かったという。

 マーチに対する同社の熱い思い入れとユーザーからの要望。それらがうまく化学反応を起こすことで生まれたのが、この希有なカスタム車マーチ ボレロA30なのだ。

 余談だが、同社はこれまでも創立10周年にラシーンの駆動方式をFR化したモデル「A10」、創立25周年にはV36スカイラインのカスタム車「A25」を製作した経緯がある。

「A30」のネーミングはその流れが由来とのことだが、以前の2台は販売していない。つまり「創立記念車を販売する」という、同社として初めての試みに使ったベース車もマーチ。これも、つくづく作り手の「マーチ」愛を感じるエピソードだ。

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