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「ジウジアーロ」「ピニンファリーナ」「ベルトーネ」は自動車メーカーじゃない! 数々の名車を生み出した「カロッツェリア」とは

カロッツェリア=クルマのボディ架装を請け負う会社

 カロッツェリアという言葉は最近あまり耳にしないが、クルマ好きにとっては別格の存在というか響きだろう。もともとは馬車の時代にあった架装のための工房がルーツで、コーチビルダーと呼ばれることもあるのはこの時代の名残だ。その後、馬車が廃れるとクルマのボディ架装を行うようになっていく。

 戦前はT型フォードが登場するまで、シャーシを仕入れて、予算や好みに合わせてボディを架装するというのは当たり前に行われていた。大量生産ではなく手作りするため別途架装しても同じなわけで、多くの工房が出現して、それがカロッツェリアへと発展していく。

 その後、デザイン会社としてのイメージが強くなっていくが、実際はボディまわり全般を担当するカロッツェリアも多く、それは今も行われている。

 例えば、少し前の話だが、生産工場を持って小回りよく自動車メーカーの仕事を請け負っていたカルマンギアのギアは、カロッツェリアの名前でボディ架装も行っていたし、またフィアットX1/9は途中から車名がデザインと生産を担当していたベルトーネX1/9に車名自体が変更された珍しい例もある。

他社が手がけたデザインにプラス要素として付け足すこともある

 とはいえ、やはりデザインがメインなのは事実で、ボディ架装も基本的には他社が手掛けたデザインのものは受けずに、自社がデザインを担当した場合に行うのが基本だ。当たり前ではあるのだが、面白いのは他社が手掛けたものに対して、要素をプラスするのは普通に行われているということ。

 例えば1986年に登場したランチアのテーマワゴンは、セダンはジウジアーロがデザインして、ワゴン部分だけピニンファリーナが担当して生産まで請け負っている。日本車でもホンダのシティカブリオレはオープン部分だけ、ピニンファリーナが担当している。

 普通から考えれば、ベースをデザインしたところがすべてデザインすればいいように思うが、カロッツェリアにいたことがある人に聞くと「カロッツェリアによって得意不得意があるし、契約でここからここまでと決まっているから、それ以外は関心ない」とのこと。日本人には少々わからない感覚ではある。

 またカロッツェリアの名前が人名に由来しつつ、また別の有名デザイナーが所属していることもよくあるパターンで、ベルトーネにはガンディーニ、スカリオーネ、ジウジアーロなどが在籍していて、会社としてのカロッツェリア名だけが前面に出るのではなく、チーフデザイナーである彼らの名前も表に出てくるのが面白いところだ。

 さらに複雑なのはベルトーネもデザイナーでもあったことで、イメージとしては社長自ら歌手で、スタータレントを多く抱える芸能事務所も経営しているといった感じだろうか。売れっ子は独立して自分で事務所を構えることもあるが、この点も同じだ。

今やカロッツェリア冬の時代

 ただ最近はその名前をあまり聞かないのも事実で、じつは業績はよろしくない。ベルトーネは廃業し、ピニンファリーナも今ではインドの自動車メーカー、マヒンドラグループの傘下となって、富裕層向けのワンオフに力を入れている。また、ギアはVWグループに吸収された。今でもデザインをメインに独立して存在するのはジウジアーロ率いる、イタルデザインぐらいかもしれない。

 イタリアンカロッツェリアといえば自動車産業のなかでも花形なイメージなのに、そんな不遇な感じになったのかというと、最近は社内デザイナーをメインに起用しているし、よくあるパターンでイタリア人デザイナー自体が減っていることもある。

 また某メーカーのデザイナーに聞くと「イタリアにデザインを頼んだことがあるけど、普通というかこちらの意図は関係なく、好きなように描いたスケッチが来て結局使わなかった」とのこと。これはすべてのカロッツェリアということではないようだが、何人かに共通して聞いた話ではある。

 日本人にしても昔に比べればデザイン能力に優れた人はかなり増えているわけで、わざわざ外注に出す必要はないのは事実。さまざまな意味で、今やカロッツェリア冬の時代と言っていいだろう。

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