アメリカを気ままに放浪3カ月:16日目
これまで2度にわたりアメリカを放浪してきた筆者。還暦を過ぎた2022年4月から7月にかけて、人生3度目のアメリカひとり旅にチャレンジしてきた。相棒は、1991年式トヨタ「ハイラックス」をベースにしたキャンピングカー「ドルフィン」。愛称は「ドル」。LAから北に向かい、巨大樹が有名な人気スポット、セコイア国立公園にやって来ました。
レンタルWi-Fiルーターは期待外れに終わる
今回の旅で苦労したもののひとつにWi-Fiがある。時代が変わり、インターネットでキャンプ場を予約・決済する仕組みが主流になっているのだ。出発前はスマホのSIMカードを入れ替えてアメリカの電話番号を取得、iPhoneとMacBookを同期させてインターネットアクセスを実現することを考えていた。
ところが、BEST BUYなどの電気店でSIMカードは売っているものの、それをアクティバイズ(使えるようにする)したりパソコンと同期させるのは自分の仕事。日本のように店員さんが親切に面倒をみてくれたりはしない。
最新機器の取り回しにからきし弱いため、不安になっていると、「Wi-Fiルーターのレンタルはどう?」と、AKIRA隊長から進言があった。日本へ里帰りしていた際、LAで借りたWi-Fiルーターがばっちり機能したというのだ。さっそく、そのショップに連れていってもらうと、日本人のスタッフが親切に説明してくれた。こういう需要がけっこうあるのだろう。
「最長3カ月の旅行を考えているんですが」と話すと、「ルーターを買ってしまったほうがお得です」と勧められた。ヨーロッパやほかの国でも、先々、使えるというのだ。これにはグラっときた。結局、ルーターの購入代金100ドル、月々20GBのWi-Fiデータ使用料25ドル、計175ドルの契約となった。
ところが、このルーターが電波を受信したのは、パームスプリングス、LA、オーハイまで。それから先は一切、使いものにならなくなってしまった。事情を説明して解約を申し込むと、1カ月分のWi-Fi使用料25ドル以外を返金してくれることになった。念のため使用状況を調べてみると、最初の12日間で、契約の20G
5月15日 セコイア&キングスキャニオン国立公園へ
ケーンビルのキャンプ場を早朝に出て15分もしないうちに、ぼくとキャンピングカーの「ドル」には意外な展開が待っていた。なんと、急勾配、上り坂の連続である。地図を見ただけでは分からなかったが、恐ろしい山越えだった。朝一から時速30マイル(約48km/h)でのノロノロ走行だ。早朝で交通量が少ないのか、もともとクルマが通らない道なのか、たった1台での挑戦が続く。
そして、1時間後、ようやく峠に到達したときには、標高約2000メートル、あたりはすっかり針葉樹林帯になっていた。外気はひんやりと寒い。まったく、予期せぬ試練だったが、これが自信になった。涼しい環境なら、かなりの坂でも水温が上が
有名国立公園ブームでキャンプサイトは満杯
セコイア国立公園は、ぼくにとって特別な場所だ。かつて20年近く前、カントリーホーム製VWバナゴンキャンパー、愛称「バナチン」とともに3日間滞在し、国立公園の素晴らしさを実感した思い出の地だ。10月の国立公園はすでにシーズンオフで人も少なく、ゆったりとした時間を過ごした記憶がある。今回もそのときに滞在したポトウィッシャ・キャンプグラウンドにチェックインするつもりだった。
ところが……。ところが、である。ものすごい数のクルマ、人である。国立公園に入る手前のレストランやマーケットから大混雑だ。近年、有名国立公園に押し寄せる人が急増していると聞いていたが、これほどまでとは思わなかった。これはヤバい!
ビジターセンターに駆け込み、「ポトウィッシャにチェックインしたいんですけど」と相談すると、「ダメダメ、予約でいっぱいだよ」と門前払いだ。「予約? ファーストカム・ファーストサーブ(早く到着した人からサイトを取れる仕組み)じゃないんですか?」「いったい、何年前の話をしてるの? とっくの昔に変わったんだよ。アゼリアに行ってみたら? 少しはチャンスがあるかもよ」という。アゼリア・キャンプグラウンドは国立公園の正反対、山道を3時間以上、走らなければならない。そんなところまで行ってしまったら、肝心の見どころを全部、すっ飛ばすことになる。
しばし呆然としたが、「まあ、なんとかなるだろう」と開き直って、家族づれに混じってセコイアの森をハイキングすることにした。
不死伝説のある巨大樹・セコイア
セコイアは巨大な樹だ。なかでも「シャーマン将軍の木」と名づけられたセコイアは、地球上最大の生物として知られる。樹齢2700年の木の前に立つと、文字どおり自分がちっぽけな存在であることを思い知らされる。
セコイアには不死伝説がある。セコイアが死ぬ原因は、山火事、落雷、自重崩落、伐採のみ。寿命が尽きて死ぬことはないというのだ。人間が夢見て止まない「不死」をすでに手に入れているのか。シナモン色の分厚い樹皮を見ていると、それも真実に思えてくる。そもそも人間がほかの生き物より優れていると考えるのはおかしい。人間より優れた才能を持つ生物はたくさんいる。それを謙虚に認めたほうがいい。
巨木の森をゆっくりと歩いているうちに、旅行がスムースにいかないことにイライラ、クヨクヨしている自分の気持ちが少しずつ落ち着いていった。
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