サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

ホンダ「タイプR」はFF世界最速タイムを目指して開発! 歴代「赤バッヂ」モデルの30年の歴史とは【後編】

2007年までに発売されたホンダ・タイプRモデル

2007年以降はシビックのみに展開

 ホンダNSXからはじまり、インテグラ、シビックと続いたタイプRの歴史。途中、1999年に本田技研工業創立50周年記念として、タイプRに匹敵するとびっきりのスポーツカー「S2000」を挟んで、タイプRシリーズはセカンドシーズンに突入した。2007年以降のタイプRは、シビックオンリーというのが特徴だ。

シビックタイプR(FD2)

 それまでシビックといえばハッチバックで、国産ホットハッチの代表だったが、2007年に出たFD2は4ドアセダンでデビュー。ボディサイズも5ナンバー枠を超え、初の3ナンバー仕様となる。エンジンはK20Aを踏襲し、5psアップの225psになった。

 サスペンションは一般的なフロント:マクファーソンストラット、リヤ:ダブルウィッシュボーンに戻っているが、ダンパー&スプリングはかなりハードな仕様だった。ブレーキは相変わらずブレンボ製だが、シートがレカロ製からホンダ内製に変わっている。ワンメイクレースも開催された。

シビックタイプRユーロ(FN2)

 ホンダUKで製造されたもう1台の3代目シビックタイプRユーロがFN2。欧州仕様のシビックがベースなのでこちらはシビックらしい3ドアのハッチバックだ。エンジンは201psのK20Zを搭載している。サスペンションはフロント:ストラット、リヤ:トーションビームだったのもひとつの特徴。3510台が日本で限定販売され、あまり見かけることがないクルマだが、シビックらしいクルマで好感が持てた。

シビックタイプR(FK2)

 ニュルブルクリンクのFF車両世界最速タイムを目指して開発された4代目シビックタイプRがFK2だ。
ベースは、9代目シビックの欧州仕様の5ドアハッチバックで、エンジンはタイプR史上初の過給器付き=K20C型エンジンを搭載。最高出力は310psを誇り、最高速度は270km/hといわれた。

 目標だったニュルのタイムも7分50秒63をマークし、当時の量産FF車最速記録を出している(ライバルはルノー・メガーヌR.S.275トロフィーR)。生産はホンダUKで、日本では2015年に750台限定で販売
(750台限定は、ニュルでのラップタイム7分50秒台に由来している)。モータースポーツでは、WTCCにもワークス参戦するため、レース仕様のTCR車両も作られた。

シビックタイプR(FK8)

 8代目のシビック(FD型)の販売終了以来、しばらくラインアップ(9代目は海外展開)されなかった同車だが、7年ぶりの2015年に復活(シビック通算:10代目 FC/FK)。それに合わせて登場したのがタイプRシリーズでいえば5代目のFK8だ。

 歴代タイプRは、まずスタンダードモデルが開発され、それをチューニングしたハイパフォーマンスバージョンとしてあとから市場に投入されるスタイルだった。しかし、FK8はスタンダードバージョンと同時開発になった。

 生産は、先代と同じくホンダUKが担当している。ただしFK8は限定車ではなくなった。ボディは5ドアファストバックで、サスペンションはフロントに新開発のデュアルアクシス・ストラット・サスペンション、リヤもマルチリンクに変更。

 エンジンはK20Cのままだが、10psのパワーアップ(320ps)を果たした。ホンダ車では初となるレブマッチシステム(オートブリッピング)を採用し、トランスミッション(6速MT)もローレシオ化。ニュルでのFF市販車最速タイムも更新している(7分43秒80)。ターゲットはフォルクスワーゲン・ゴルフGTIクラブスポーツSだった。

 モータースポーツでは、TCRジャパンシリーズやスーパー耐久シリーズにも参戦している。

シビックタイプR(FL5)

 そして2022年に登場した現行のシビックタイプR。FK2、FK8はホンダUKの生産だったが、このFL5は日本の埼玉製作所で作られるようになった。

 エンジンはK20Cと変わらないが、新開発のモノスクロール・ターボチャージャーの採用などで、出力は330psとさらにチューニングが進んでいる。また6つのパラメーター(エンジン/ステアリング/サスペンション/エンジンサウンド/レブマッチシステム/メーター)を自分好みにカスタマイズできるINDIVIDUALを採用したのもトピックだった。車載ナビにTYPE R専用データロガーアプリも標準装備されている。

 サーキット走行時には、運転レベルや車両挙動を5つの運転指標で採点。スコアや運転ランクも表示される本格的なデータロガーも搭載しているのも見逃せない。

* * *

 以上、11台のタイプRを見てきたが、タイプRはホンダというメーカー自身がチューニングカーを仕立て、走りを磨き上げてきたところに、ワクワクし共感してきた部分がある。これからもホンダにはこうしたワクワクできるタイプRを作り続けてほしいと思うが、そのためには、まず魅力的なベース車が何より必要だ。

 FL5の速さももちろん評価するが、サイズ的にいえばフィットクラスのタイプRが欲しいのが本音。そしてベース車に対し、チューニングしすぎない点もけっこう重要なのではないだろうか。ベース車からあまり乖離しすぎてもタイプRの魅力は薄れると思うし、やり過ぎないからこそお手本にもなるからだ。

 またタイプRのようなクルマに一番必要なのは、単純な速さではなく、乗ってワクワク、ドキドキする、感性を刺激される気持ちのいい走りであり、愛されるクルマであること。ホンダのF1パワーユニットの開発トップ、HRC(ホンダ・レーシング)の浅木泰昭四輪レース開発部部長は、「エンジンは脈動があって、動物の心臓の動きとよく似ています。その脈動が生物である人間の感情を揺さぶるのを僕は感じているんです」とコメント。

 ホンダはF1でも他社に先駆けカーボンニュートラル燃料を採用していたことを公表しているが、この先、市販車もバイオ燃料やEVがメインになったとしても、ホンダには速さで乗り手を悦ばせる「タイプR」を作り続けてほしいと願っている。

モバイルバージョンを終了