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なぜ「エリシオン」は「アルファード」に勝てなかったのか? ホンダ渾身の最上級ミニバンは非日常感覚いっぱいでした

2004年ホンダ・エリシオンデビュー時のカタログ

2000年代ミニバン王国ホンダの頂点として堂々登場

 初代ホンダ「エリシオン」が登場した2004年5月時点で、ホンダはすでに人気のミニバンを4モデルも持っていた。「オデッセイ」(3代目/2003年10月)、「ステップワゴン」(2代目/2001年4月)、「ストリーム」(初代/2000年10月)、そして「モビリオ」(2001年12月)がそのときの布陣だ。いうまでもなく初代オデッセイや初代ステップワゴンの大ヒット以来、あれよあれよという間にホンダというと「ミニバンのメーカーでしょ?」のイメージが定着していたほどの頃である。

低めの車高でライバルとは一線を画すコンセプトだった

 ところでエリシオンの登場以前にも、ホンダには「ラグレイト」なる上級ミニバンがあった。カナダ製の北米市場版オデッセイがそのモデルで、日本市場には1999年6月に投入された。が、全長5105mm×全幅1935mmと日本で日常使いに乗るにはいかにもサイズが豊か過ぎ、一般的とはいえず、販売には結びつかなかった。

 事実関係で言えば、そのラグレイトと入れ替わる形で2004年5月に登場したのがエリシオンだった。「かつてのセダンと同じようにユーザー志向が多様化してきた」とは、開発当時のホンダの見立てで、要するにミニバンのフルライン化を推し進めるための最上級ミニバンとして登場してきたのが、このエリシオンだったわけだ。

 全長×4845mm×全幅1830mm×全高1790または1810mm、ホイールベースは2900mm。当時の日本のLクラスのミニバンにはトヨタ「アルファードG & V」(初代)、日産「エルグランド」(2代目)やトヨタ「エスティマ」(2代目)などがあったが、いずれのライバル車とも一線を画すコンセプトが特徴だった。

 とくに全高はアルファードG & Vが1935mm、エルグランドが1920mmと、いずれも1900mm超えだったのに対してグッと低く、エスティマ(4WD車で1780mm)並みに抑えていた点が見逃せなかった。言うまでもなく見晴らし感覚の典型的なミニバンスタイルのドライビングポジションではなく、たとえセダンなどの乗用車からの乗り換えでも違和感をおぼえないように配慮したため。アルファード、エルグランドが1ステップを介して室内に乗り込む方式だったのに対し、エリシオンの床面は、いわゆるミニバン(ひいてはかつてのワンボックスワゴン風の)よじ登る感覚はなく、サッと乗り込めるものだった。

 もっとも当時の同世代だった身内のオデッセイはなんと1550mmと、ミニバンとしては異例な低全高(立体駐車場への入庫に配慮したものだった)を実現しており、それから較べればミニバンらしい全高ではあったが、ボクシィなステップワゴンの1845mmに対して格段に背が低かったことは確か。ちなみに意外にもラグレイトも1740mmと、いわゆる北米方式のピープルムーバーの高すぎない全高を採用していた。

上級サルーンのような快適性と非日常感をアピールするも……

 エリシオンに話を戻せば、清楚でクリーンな外観デザインでデビューしたところにも主張があった。「ハチ巻き」などと呼んだ、バックドアからDピラーに回した赤いストライプはアクセントのひとつだった。これは想像に難くなかったが、先発のアルファード、エルグランドが押し出しと迫力で人気を集めていたなかでは、「控えめという主張」ではいささか弱く、2008年12月には顔まわりだけでなくリアエンドのデザインも大幅に手直し。筆者個人の感想と好みでは「あーあ」と残念に思えたフェイスリフトであったが、売りを考えれば致し方なしといったところだったのだろう。

 なおエリシオンの最初のカタログを見返すと、最初から16ページまでがひたすら外観写真で続き、その次の4ページが気筒休止を採用した3LのV6エンジンの話、ボディ骨格、リアのサブフレームの話と続く。さらにその次でようやく室内の話に移り、シートアレンジ、サイドリフトアップシートの紹介や、パワースライドドア、パワーテールゲートなどの紹介へと続く。

 ミニバンであるが、いわゆる家族を想定したモデルをからめたカットがなく、あくまでも上級サルーンのごとき快適性、上質感を前面に出した仕立てのカタログで、生活感を出していないところが特徴だったというべきか。それはフェイスリフト後の後期型のカタログでも同様で、電動パーキングブレーキ(=国産ミニバンでは初採用だった)の操作カットで「人の手元のアップ」こそ登場するが、走行シーンのドライバーの姿はしっかりと消されて(またはボカされて)いて、非日常感覚のシーンの中を颯爽と駆け抜けるエリシオンが写っている。

 冒頭でも触れたが、セダン同様のヒエラルキーに商機を見出したはずのエリシオンだったものの、実際の販売は決して芳しいものではなかった。だが、そのことこそ、ホンダのユーザーがクルマに個性、ホンダらしさを強く求めていたことを証明したのではないか。トヨタであれば「マークII」から「クラウン」に乗り換えるように、「ノア/ヴォクシー」から「アルファード」に乗り換えるユーザーはいても、ホンダのユーザーが「アコード」から「レジェンド」にヒョイと乗り換えるかというと、そうではなかった気がする。個性と普遍性の狭間でもがいたクルマがエリシオンだったのかもしれない。

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