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「510」と呼ばれた名車! 流れるウインカーを採用した日産3代目「ブルーバード」の革新性とは【国産名車グラフィティ】

1968年のマイナーチェンジで、ワイパーは通称“喧嘩ワイパー”と呼ばれた左右に開くように動くタイプから、ピボット位置を変更して通常タイプに変更された

洗練されたフォルムに最新メカニズムを搭載

販売台数でライバルに後塵を拝してしまった2代目から起死回生を宿命とした日産P510型「ブルーバード」。その作り込みには、ネジ1本から最新にするほどの意気込みがあった。開発時には、国内のみならず極寒の海外にまで出向き耐久テストを繰り返した。そうした努力が、後にサファリ制覇など輝かしい歴史を作り上げたのである。

「雲の上」からの転落に学んだこと

イギリスのBMC社と提携して生産技術を学んだ日産は、1955(昭和30)年に110型「ダットサン・セダン」を発売し、マイカー時代の扉を開いている。排気量は860ccと1000ccだが、当時は庶民には手の届かない雲の上の存在だった。乗っていると『アイツは羽振りがいいんだな』と、はやし立てられるほど羨望のファミリーカーだったのである。その後継として1959年7月に誕生したのがブルーバードだ。

そこで3代目となる510ブルーバードは、多くの人から愛される洗練されたデザインを目指した。エクステリアとインテリアのデザインを担当するのは、初代モデルにも関わった日産社内のデザイナーだ。また、ボディとシャシーだけでなくパワーユニットやサスペンションまでも刷新することにした。開発陣はビス1本まで、すべて新しくしようと意気込み、最新メカニズムの導入に意欲を燃やしている。

パワーユニットは、2代目のセドリックに搭載を予定していたL20型直列6気筒エンジンの流れを汲むSOHC方式の4気筒を開発することになった。これが5ベアリング支持のクランクシャフトを備え、カウンターフロー方式のL13型とL16型の直列4気筒SOHCだ。

最大のライバルであるコロナがOHVだったため、高性能化しやすく軽量なアルミ合金製ヘッドを採用したSOHC方式を選んだのである。後に名機と言われる「L型」系列の4気筒エンジンは、シリンダーヘッドの上部にカムシャフトを置き、ロッカーアームだけを介してバルブを動かす。このバルブはタイミングチェーンで駆動する。

高回転を得意とするオーバースクエア設計とし、L13型の総排気量は1296cc、このエンジンのストロークを延ばしたL16型は1595ccになる。ファミリーグレードに搭載されるL13型はシングルキャブレター仕様、1600SSS(スリーエス)が積むL16型エンジンはSUツインキャブ仕様とした。これを12度傾けて搭載している。

モータースポーツでの使用も視野に入れたL16型エンジンは、ベアリングメタルなどを強化し、圧縮比も9.5に高めた。最高出力はクラストップの100ps/6000rpmを発生する。最大トルクは13.4kgm/4000rpmだ。

先行開発するローレルより早くセミトレーリングサスを採用

3代目ブルーバードは、ファミリー系の1300シリーズ(72ps/10.5kgm)とスポーティグレードの1600SSSを設定。デビューから1年2カ月後の1968年10月には、L16型エンジンにシングルキャブを組み合わせた「1600ダイナミックシリーズ」を誕生させている。

多くの人が注目したのはデザインだ。2ドア、4ドアともにシャープなウエッジシェイプによって躍動感を表現した。これを超音速旅客機のSSTとダブらせ「スーパーソニックライン」と名付けている。サイドガラスから三角窓を取り去ったことも目を引く。代わりに外気を車内に導くベンチレーション機構を採用し、リアクオーターピラーには換気用のベンチレーションルーバーを設けた。

トランスミッションは、1300シリーズがコラムシフトの3速MTと、ボルグワーナー製の3速コラムATを設定した。1968年12月には4速フロアMTを加え、1969年春にATを「ニッサンマチック」に変更した。スーパー・スポーツ・セダンを名乗る1600SSSは、独特のシフトフィーリングが話題となったポルシェシンクロの4速MTだ。最高速度は165km/h、0-400m加速は17.7秒の俊足で、クラストップを誇った。

エンジンとともに注目を集めたのがサスペンションである。フロントは最新のストラット式に、リアは悪路走破性を重視して410系のリジッドアクスルを煮詰めていこうと考えていた。だが、川又克二社長の一声で、リアも独立懸架にすることを決断する。先行して開発していたローレルに使う予定だったセミトレーリングアーム式は、3代目ブルーバードが先に採用することになった。

多くのブルーバードの設計や開発に携わり、責任者も務めた太田 昇は、「悪路だけでなく、高速道路でも欧米のクルマに負けない、しっかりとした足まわりのファミリーカーを目指しました。開発の途中でプリンス自動車と合併したため、スカイラインと部品の共用化を図っているのです。彼らも意地があるから譲りませんでしたが、最後はいい足に仕上がりました。テストでは日本だけでなく、世界各国を走っています」と、開発時の苦労を述べている。

サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット式、リアは多くの候補の中からBMW1500が先鞭をつけたセミトレーリングアーム式を選んでいる。ドライブシャフトには独自開発した伸び縮みするスプラインを組み込み、接地性を向上させた。日産のテストコースや名神高速道路、オフロードなどを徹底的に走り込んだだけでなく、氷点下30度のアラスカに持ち込み、寒冷地テストを実施している。

過酷なテストを通して各部の補強や防錆対策などを行ったため、耐久信頼性は大きく向上した。デビュー直後には、ラリー仕様のセドリックのサポート役としてサファリラリーのコースも走っている。

躍動感のあるデザインに磨きをかけたクーペスタイル

1600SSSは砲弾型のフェンダーミラーを採用し、ホイールキャップも専用デザインだ。初期モデルは作動時に中央から左右へ動く喧嘩ワイパーを採用し、サイドフラッシャーランプも専用デザインだった。また、時代を先取りしてサイドにカーブドガラスをはめ込んでいる。

ダッシュボードは水平基調のデザインで、インパネの表面をソフトパッドで覆っている。メーターやインナーミラーに防眩処理を施した。前席だけでなく後ろ2席にも3点式シートベルトをオプション設定するなど、安全面も充実化させている。

ファミリー系グレードは横長のメーターだが、SSSは丸形メーターを採用し、タコメーターを加えた丸型4眼メーターだ。

ダイナミックシリーズに続き、1968年11月に追加したのが、2ドアのリアクオーターピラーを大きく傾斜させ、全高を15mm下げた1600クーペである。ハードトップの設計ノウハウがなかったため、ピラー付きのクーペとした。リアコンビネーションランプは横長デザインとし、後に加わる1800SSSクーペではウインカー作動時に曲がる方向に光が流れて点滅するハミングサインを標準装備する。

1970年秋にファミリー系を1400シリーズに変更し、このときにL18型エンジン(115ps/15.5kgm)を積む1800SSSシリーズを仲間に加えた。ラリーの世界でも大暴れし、この年のサファリラリーでは総合優勝を含む3冠王に輝いている。日産の名声を築き、世界に名を知られた不朽の名車が「510」と呼ばれたブルーバードだ。

ブルーバード1600SSSクーペ(KP510)
●年式:1969年
●全長×全幅×全高:4120mm×1560mm×1395mm
●ホイールベース:2420mm
●トレッド(前/後):1270mm/1280mm
●車両重量:935kg
●エンジン:L16型 直4SOHC
●総排気量:1595cc
●最高出力:100ps/6000rpm
●最大トルク:13.5kgm/5600rpm
●変速機:4速MT
●駆動方式:FR
●サスペンション(前/後):ストラット/セミトレーリングアーム
●ブレーキ(前/後):ディスク/リーディングトレーリング
●タイヤ:5.60-13-4PR

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