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キャンプ場で焚き火用の斧が盗まれ、理不尽な人種差別も! 広大なアメリカ一人旅の悲しい出来事──米国放浪バンライフ:Vol.27

「ドル」との旅も、もう2カ月以上になった

アメリカを気ままに放浪3カ月:64日目~66日目

これまで2度にわたりアメリカを放浪してきた筆者。還暦を過ぎた2022年4月から7月にかけて、人生3度目のアメリカひとり旅にチャレンジしてきた。相棒は、1991年式トヨタ「ハイラックス」をベースにしたキャンピングカー「ドルフィン」。愛称は「ドル」。ロサンゼルスから北上してきて、今回の最大の目的地であるワシントン州のオリンピック国立公園を満喫したあとは、のんびり気ままに南下してきました。

キャンピングカー旅行に欠かせないルーティンが焚き火のひと時

今回は悲しい話をしようと思う。その前に焚き火について少々、書いてみる。アメリカのキャンプ旅行を始めたときに、焚き火が上手になるのがひとつの憧れだった。それがアウトドアを愛する男の条件のように思えた。

ぼくの焚き火の基本は「井桁の法則」。漢字の「井」の形に木を組んでいき、その中央に着火用の紙をたっぷりと置く。この井桁が小学生の頃に体験したキャンプファイアーに似ていることは、後で気がついた。なお、市販の着火剤は使わない。紙こそが何よりの着火剤だからだ。したがって、スーパーに行ったときは、必ず冊子状になったチラシをたっぷりともらってくる。

焚き火用の木は、ひと束5~7ドルで販売されている。そのままでは大きすぎて火がつかないので、斧で手頃な大きさに割って使うことになる。キャンプサイトに着いて、薪、斧、手袋、トングをファイアーリングの近くに出すのが、ルーティンとなっている。

7月2~3日 パンサーフラット・キャンプグラウンド

スミス・リバー・ナショナル・レクリエーション・エリアのパンサーフラット・キャンプグラウンドに2泊する予定でチェックインした。オレゴン州からカリフォルニア州に30kmほど入ったところだ。ここまで来るとカリフォルニアの海岸線が近い。

到着が夕方だったので、初日はいつものとおりに焚き火をして夕食を食べて就寝した。翌日、起きてみると空模様が怪しい。その日はクレセントシティのコインランドリーで洗濯をして、近くのトレイルヘッドからハイキングをする計画を立てていた。木と手袋は濡れるのが嫌だったのでクルマの中にしまったが、斧とトングとBBQグリルは出しっぱなしにしてしまった。

夕方、キャンプサイトに戻る直前から弱い雨が降ってきた。その晩の焚き火は諦めて、出しっぱなしにしていたトングなどを車内に入れていると、斧がなくなっていることに気がついた。

愛用の道具は大切な友人のようなもの

斧は旅の途中で買った22ドルの何の変哲もないものだったが、盗まれたと知った瞬間、深い喪失感に襲われた。何度もファイアーリングの周りを探したが、もちろん、ない。「もう、焚き火ができないのか」クルマのソファに埋もれると、大切な友人を失ったような悲しさが込み上げてきた。それと同時に自分があの斧をそれほど愛していたことも思い知った。

旅に対するモチベーションを失いかけているときに起きたこの事件で、心の炎は一層、小さくなってしまった。これが3回目のスランプだった。

7月4日 雨の独立記念日

翌朝、雨の中を出発。気持ちは、ただ重かった。しかも、その日は宿泊先が決まっていなかった。月曜日なのにどこのキャンプサイトも空きがないのだ。おかしいな、と思ってカレンダーを見るうちに、ようやくその日が7月4日、独立記念日だと気がついた。これは、マズい!

レッドウッド国立公園に立ち寄って短いトレイルを歩き、午後も雨のなか、海沿いの国道101号を南下した。すると、街道沿いにRVパークの看板が見えた。規模が大きそうなので、もしかしたら空きがあるかもしれない。ハンドルを切って乗り入れてみた。

聞いてみると、運よくサイトが空いているという。ただ、家族連れが多く、花火やゲーム大会でうるさくなりそうだった。でも、独立記念日をそんな環境で過ごす機会もなかなかない。目いっぱい楽しんでやろうと気持ちを切り替えた。

RVパークで味わった理不尽な対応

フックアップ(電源と給排水)はいらないが、ダンプ(排水)はしたかった。タンクのなかにグレーウォーター(汚水)がだいぶ溜まっているはずだった。一度、クルマを止めてからオフィスでダンプ・ステーションの場所を聞くと、怪訝な顔をする。

「あなた、RVなの?」

「そうですよ」

「勘違いしていたわ。あなたはフックアップ・サイトに移らなければいけません」

「チェックインするとき、ぼくのクルマを見ていたじゃないですか。それに電気も水もいらないんだ。電気も水も使わないから、今のサイトにいさせてよ」

「ダメよ、規則なんだから。早くクレジットカードを出して。あと10ドル。それから、すぐクルマを移動して」

これにはカチンときた。

「そっちのミスだろ。謝るならともかく、なんで命令されなきゃいけないんだ!」

しどろもどろに抗議すると、白人女性の口元に薄ら笑いが浮かんだ。そして、隣の従業員に目配せをした。下手な英語、アジア人……。これまでの旅の途中で何度か感じた嫌な空気。これは、明らかな人種差別だ。

もう収まりがつかなくなった。「キャンセルする」「出て行くのね。上等だわ」クレジットカードで料金を払い戻しをしてもらい、ぼくはまた雨の101号線に出ていった。

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