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「イプシロン」はランチア? それともクライスラー? イタリアの小さな高級車のルーツは「アウトビアンキ」でした【カタログは語る】

1995年に本国で登場した初代ランチア イプシロン

ランチア イプシロンは2024年にEVとして新型がデビュー予定

ランチアといえばラリーでの「デルタ」の活躍が有名なイタリアの名門ブランドですが、近年は存在感が薄かったのも事実。ですがステランティスグループの中でランチアのブランドも復活を目指し、第1弾として2024年にコンパクトカー「イプシロン」の新型を発表するとのことです。40年近くの歴史をもつイタリアの「小さな高級車」の歩みを当時のカタログから振り返ります。

日本では影が薄すぎてマニアックな存在だった?

これは実話だが、日本仕様のクライスラー「イプシロン」が販売されていた時だから、もう10年ほど前になる。用事ができ、当時用意のあった広報車で自宅から最寄りのカメラ量販店に行った。で、買い物が済み、パレット式だった立体駐車場の出庫で自分のクルマが降りてきて係員に呼び出されるのを待っていたのだが、「プリウスのお客様!」「プリウスαのお客様!」と車名の呼び出しが続いた後、係員が一瞬ウッ! と詰まるのがわかって「品川○○のお客様!」と急にナンバーを読み上げての呼び出しに。

見ると筆者が乗ってきたイプシロンが降りてきているのが見えた。プリウスとプリウスαを区別するくらいの「専門職」でも、やはりイプシロンは得体の知れないクルマだったのか。あるいは今にして思えば、ランチアのバッジがついていないことに納得がいかなかったとしたら、それはそれである意味でマニアックだったのだけれど……。

アウトビアンキY10から始まった「Y」の系譜

ところでイプシロンの系譜は、高性能版のアバルトも設定され最終的に16年の長寿だったアウトビアンキ「A112」の後継車として「Y10」が1985年に登場したところから始まった。基本は1980年の初代フィアット「パンダ」(141)をベースとし、全長3390mm×全幅1510mm×全高1415mmと小柄で少し背の高いコンパクトなボディサイズが特徴。デザインは短い全高ながらウェッジの強いベルトライン、ブラックアウトされたリアゲートなどが特徴で、ディテールそのものはシンプルながら、ただのコンパクトカーとは違う、一風変わった雰囲気を漂わせていた。

それはインテリアではなおさらだった。内張りや仕様によってはシートもアルカンタラとした空間は、このクルマが「小さな高級車」と言われたゆえんでもあった。当初の日本仕様のカタログにはこう書かれていた。

「内装材はイタリアのファッション界をリードする洋服やバッグのデザイナー、世界でも最もぜいたくなものとして知られるイタリア家具の職人等を交えて吟味」

装備では、スイング式のリアクオーターウインドウが標準でパワー式、フロントドア側はオプションというあたりもおもしろい。ダンパーもスプリングも味付けはしなやかで、快活なエンジン(当初の排気量は999ccと1048ccで、後者にはインタークーラーターボの設定もあった)とともに優雅な走りが楽しめた。

初代ランチア イプシロンはエンリコ・フミアがデザイン

もちろんユニークな佇まいは、1995年に本国で登場したランチア イプシロンでも踏襲された。Y10からさらに発展したようなスタイルは、ランチア在籍時代のエンリコ・フミアが手がけたもので、量産車では彼は他にランチア「リブラ」、アルファ ロメオ「164」、同「GTV/スパイダー」などでもその手腕を発揮している。イプシロンで特徴的だった尻下がりのサイドラインやフロントグリルなど、往年のランチア車のエッセンスを踏襲したものだ。

またこの代のイプシロンでは当初「カレイドス」と呼ばれた全112色のボディカラー(基本色12色+オプション100色)が用意されたことも話題となった。当時のフィアット「プント」をベースとしながらも、内外観ともに「奮った」デザインだったのはY10と同じだった。

さらに優美さを増した2代目イプシロン

さらに車名表記を「Ypsilon」(初代までの表記は単に「Y」だった)として2002年に日本市場にもお目見えしたのがイプシロンの2世代目。全幅が1720mmとなったものの、当時の上級セダンだったランチア「テーシス」などにも通じるデザインに生まれ変わり、コンパクトカーながら一層の優雅さを身につけたクルマだった。

写真のカタログは初期型の本国仕様のもので、ボディ上下塗り分けを施した2トーン(Bカラーと呼んだ)なども用意された。また後のフィアット「500」でも採用された2ペダル仕様も用意されたが、その呼称は「D.F.N.」(Dolce Far Niente/何もしない甘美さ……といった意味か)というもの。メカニズムの呼称にもかかわらず、いかにもイタリアらしい名前のつけ方であった。

3台目イプシロンは日本ではクライスラー印で導入

そして日本市場でも2012年末から晴れて正式に導入されたのがイプシロンの3代目。ただし激しく残念だったことは当時のメーカーの事情から、ランチアが市場から撤退していたイギリスと同様に、日本市場でもクライスラー車として導入された点。車両前後のオーナメントとステアリングのセンターパッド部にクライスラーのバッジが付くことに「やれやれ」と思ったイタリア車好きは少なからずいたことだろう。

車両自体はいわばフィアット500の4ドア版といったところで、ホイールベースはフィアット500+90mmの2390mmで、フィアット500に較べピッチングの小さい良好な乗り味を示し、エンジンは0.9Lの2気筒ツインエア、これに「デュアルファンクション」とあっさりとした呼び名の2ペダル自動クラッチが組み合わせられた。日本市場への導入期間は2012~2014年とごく短かかった。

AMWのミカタ

3台目イプシロンは本国ではマイナーチェンジを受けながら今なお新車で販売されている。そしてステランティスグループの中でランチアブランドは再出発することを公表し、2024年に新型EVのイプシロンを投入するとともに、新型フラッグシップモデル、さらに新型「デルタ」を続々とデビューさせると表明している。イタリアの名門ブランドの復活に向けて、今のうちに日本のユーズドマーケットでは破格にお買い得な歴代イプシロンを味わっておくのも一興かもしれない。

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