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シトロエン「CX」が故障したオーナー2名の行動とは? セカンドカーも「アヴァンタイム」と「S90」というクセ強めでした

クルマは置いてきたけど魂はここに、そういわんばかりに、ルノー アヴァンタイムの鼻先に貼られたダブル・シェヴロンのシール

初のシトロエン公式集会に愛車CXで参加ならずも、不思議と楽しそうな面々

シトロエン乗りって、やはり変わった人が多いのか? そんな都市伝説を検証するために2023年9月17日(日)、飛騨・高山で行われた「シトロエニスト ランデブー オーナーズ フェスティバル2023」で、オーナーたちの生態に迫ってみる迫真ルポ。最終回は番外編でイベント当日、愛車シトロエン「CX」がトラブって別のクルマで来ていた2名のオーナー、その驚きの行動に迫ってみた。

アシのボルボS90は新車から7年で13万キロ走行

それはシトロエン「C3エアクロス」に乗る共通の友人の紹介で、一緒に立ち話をしていたときのこと。ところでシトロエンは何にお乗りなんですか? と水を向けてみたら、「今日は自分のCXで来られなかったんですよ」と、やや自嘲気味、でもビミョーに得意そうに答えてくれた。それが千葉から来た、小安章夫さんだった。

まぁ、もちろんシトロエンに限らず旧車あるあるで、イベント参加を申し込んでおいたにもかかわらず、本番の日にクルマの調子が悪いのは、ままある話。でもなぜか、それがシトロエンだと絵になるというか、さもありなん的な興味も湧いて、「じゃあ今日はここまで、何のクルマで来たんですか?」そう深追いしてみたくなった。

この日、会場の駐車場は大別して3つ。1990年代までの旧車中心のスペースと、現役車種が中心のスペース、さらに併設の道の駅を訪れる一般用のスペースという3カ所だったが、前2者は当然ながらイベント参加車両、つまりシトロエンに限られている。

ということで、この日は非シトロエンの小安さんと一緒に、第3の駐車場、一般用のそれへと向かった。CXの代わりに小安さんが発動したセカンド愛車というのは、ボルボ「S90」だった。新車から7年乗って13万kmが経過したというから、相当に走り込んでいるが、V90でなくS90というセダンを選好、しかも現役当時、ディーラーオプションとして用意されていたポールスターの+数十馬力のロムチューンまでご丁寧に入れているところも、レア中のレアといえる。

「13万kmはまだボルボとしては慣らしが済んだところ、序の口ですよ~」

じゃあ今回の岐阜往復で、順調に距離を重ねましたね……。一応、今回ってシトロエンのイベントですけど、フランスっぽいことしてきました?

「もちろん! ほら、このリアの柄模様のクッション、フランスのブランドなんですよ」

ブランド名は聞きそびれた。撮影のために後席ドアを開けると、センターコンソール下に、フランス風となんら関係なさげな、豪勢なギャッベ織りのエスニックなクッションとムートン敷きが……。さらにフレンチ感が薄まって気まずい空気が流れる。すると小安さん、

「私、元アフガニスタン大使館員の知り合いがいまして、それでこういうものを広めているんですね。もしよかったらひとつ」

そう言いながら手渡されたのは、スパイスを使ったドライフルーツと、アフガンの女性雇用支援を訴えかける同製品のフライヤー。知り合いの彼がプロデュースしているという。趣旨には賛同できるが、間髪入れず手元からこういうレア・アイテムが出てきたこと自体が不思議というか、怪しさを増してしまう……。

ちょっぴり走り屋風なルノー アヴァンタイム

「じつはもうひとり、CXオーナーなのに自分のCXで来られなかった人がいるんですよ。このS90の前は私、“メガーヌR.S.”の2に乗っていまして。彼は3だったので。メガーヌR.S.繋がりなんです」

と小安さん。そうして同じ駐車場内でやるせなさそうに、でもやけに陽気に迎えてくれたのが、世田谷区からやって来たという塩尻 慎さんだ。

「ホントはCX2500パラスで来る予定だったんですよ」

という彼が急遽、高山まで走らせてきたセカンド愛車も、ルノー「アヴァンタイム」という有り様だ。柿本改の青く灼けたマフラーエンドに、ワークのホイールという、走り屋めいたプチ・カスタムまで、さりげにクセの強い個体といえる。

「新古車気味に見つけたクルマで、1分ぐらいカタログを眺めていたら買っちゃいました。2002年生産の2005年登録です。ノーマルのホイールはスタッドレスを履かせているので、人から回ってきたプジョー“508”用サイズとオフセットのホイールを一時的に使っています。駆動輪側はちょっと内側に入っていて、いっぱいまで切ると少し当たっちゃいます」

会場の片隅でCXオーナー同士のミニ・スワップミートを開催

クルマの説明もほどほどに、小安さんが向き直ると、

「じゃあ、さくっと済ませましょうか」

「うん、そうだね」

といって、塩尻さんがアヴァンタイムの荷室から、なにやら段ボール箱を取り出した。いきなりパーツの取引を始めたのだ。

「おおー、ありがとう! ヒーターホース! でもこれ、パーツ品番がプジョーのやつっぽくない?」

「うん、でもCXベーシス(ドイツにある有名なCX専門店)で買ったから大丈夫でしょ」

「だよね、PSA品番ってことで」

あのー、小安さんのCX、どこが具合悪かったんですか?

「ホースまわりから電動ファンまで、冷却系がちょっと心配だったのよ。長距離プラス、渋滞もあっただろうから、やっぱり出動させなくて正解だったね。ちょうど、その辺りのパーツを彼がもっていたから、じゃあイベントの日に、って」

では、塩尻さんのCXはどこが悪かったんですか?

「イベントが近いから整備しようと、久々にバッテリーを繋いでやらかしたんです。+と-を逆に繋いじゃって。言い訳になりますけどあの時、雨が降り出しそうだったから焦って……。オルタネーターが逝っちゃって、イベントには間に合わない感じで。でも不幸中の幸いは、途中で溶けて切れたコードがあって、その先は無事だったこと」

クルマの故障という、フツーの人にとっての非日常が、もはや日常に組み込まれ済み。そんなCXオーナーふたりの、通常運転もかくやの陽気な話し口に、聞いているこちらの心配が募ってしまった。とはいえ、初開催のシトロエニスト ランデブー オーナーズ フェスティバルに、自らの愛車で来られない無念さはないんですか?

「多少は気まずかったね、うん」

「それもそうだよね、たしかに」

ようやく、ふたりの目が泳ぎだした。ところがここで塩尻さんが出してきたのは、赤地のダブル・シュヴロン、つまりシトロエンの旧ロゴのシール。クルマは置いてきたけど魂はここに、そういわんばかりに、ルノーのロザンジュ(菱形)バッジの上にペタリと貼りつけた……。

* * *

数時間後、どうやったのか不明ながら、仲間のCXの近くに停めたかったのだろう。なぜかS90とアヴァンタイムが、CXの一団の近くに、でも少し離れてこそっと並べられていた。ディープなシトロエン・オーナーの不可解にして愉快な行動様式の一端を、垣間見られた1日だった。シトロエンに乗っていない間も、オーナーたちはシトロエン乗りだった、そういうことだ。

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