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元祖「アルピーヌA110」は約1910万円で落札! ラリーで活躍した名車としてはリーズナブル!?

11万7300スイスフラン(邦貨換算約1910万円)で落札されたアルピーヌA110 1600S(C)Courtesy of RM Sotheby's 

日本人も大好きなA110、本場ヨーロッパでの評価はいかに?

2018年に、リバイバルモデルである現行「アルピーヌA110」が登場する以前から、オリジナル版であるアルピーヌ「ルノーA110」は、フランス製スポーツカーの雄として、日本を含む全世界で憧れの的。とくに、近年の国際クラシックカー・マーケットにおける高騰ぶりには、目をみはらせるものがある。2023年9月、RMサザビーズ欧州本社がスイスのサン・モリッツにある5つ星ホテル「ケンピンスキー・グランドホテル・デ・バン」で開催した「St. Moritz」オークションでは、オリジナルの姿を忠実に残したA110-1600Sが出品された。今回はそのあらましと、注目のオークション結果についてお話しさせていただきたい。

元祖アルピーヌA110の最高性能版、1600Sがオークションに登場

南仏ディエップのルノー販売代理店主ジャン・レドレが1955年に興したアルピーヌが、1962年にデビューさせたアルピーヌ・ルノーA110は、同名のオマージュ版が現代に登場するほどにアイコニックな、フランス製スポーツカーの歴史的名作である。

アルピーヌの歴史はルノー「4CV」をベースとする「A106ミッレ・ミリア」に始まり、後継車「ドーフィン」をベースとする「A108」へと継承。そしてA110は、革新的なリアエンジン後輪駆動ベルリーヌ「ルノー8(R8)」用の前後サスペンションと4輪ディスクブレーキを、自社製のバックボーン式フレームと美しいFRPボディに組み合わせた。

そんなA110の名声を決定的なものとしたのは、極上のラリーマシンとしての資質に間違いあるまい。1965年、A110-1100ゴルディーニ(1100G)からスタートしたアルピーヌとゴルディーニの伝説的コラボレーションは、ラリー活動で一気に開花することになる。

生来、イタリアの「ミッレ・ミリア」などの長距離ロードレース用GTレースカーから発展してきたA110が、実はラリーマシンとして非凡な資質を持っていることに気づいていたレドレとゴルディーニは、さらに高性能な「A110-1300S」を開発。まずは国内ラリーから本格的に総合優勝を目指して参戦して、予想どおりの好成績を挙げる。

しかし、ポルシェ911など強力なライバルが居並ぶ国際ラリーに打って出るには、依然としてパワー不足であることが露呈、そこでゴルディーニ製1.6リッターユニットを搭載した「1600S(1600VB)」を製作し、WRCの前身である欧州ラリー選手権(ERC)に投入することになった。

彼らの目論みはみごとに効を奏し、素晴らしい速さと耐久性を兼ね備えたA110は、1971年シーズンにはERCで初の全欧タイトルを獲得。さらに1973年シーズンには伝統の「モンテカルロ・ラリー」優勝を皮切りに、この年から開幕したWRC選手権製造者部門でワールドタイトルを制覇。ついに、世界ラリー界の頂点を極めるに至った。

ところで同じ1973年には、市販モデルとしてのA110にも大きな変化が訪れていた。1973年10月以降生産分のA110-1600Sは、R8由来のスウィングアクスル式後輪懸架から、その2年前にデビューしていた上級モデル「A310」と共通の、よりロードホールディングに優れたダブルウィッシュボーンへと変更。3穴だったハブ/ホイールもA310と同じ4穴とした発展型1600S、いわゆる「1600VD」へと進化を遂げてゆくのだ。

アルピーヌのツボを押さえたレストアで1900万円オーバー! でもリーズナブル?

このほど「St. Moritz」オークションに出品されたA110 1600 S、シャシーNo.#18358は、1600VDに進化する直前に作られた個体。写真をご覧いただければ一目瞭然なのだが、3穴ハブにアロイホイールを装着する1600VB時代の一台とされる。

3穴ハブの時代は、ルノー8からコンバートしたスウィングアクスル式後輪懸架で、リアのトレッドも狭い。いっぽう4穴ハブの1600VDに採用されたA310譲りのダブルウィッシュボーン式リアアクスルはトレッドが広く、ロードホールディングには優れるものの、A110オリジナルのスタイルを損ねてしまうという考え方もあるようで、現在のクラシックカーマッケートにおける人気は、3穴時代のモデルが少しだけ優勢にあるようだ。

今回出品されたアルピーヌA110では、時代を超越してもっとも典型的かつ人気の高いブルー・メタリックを身にまとい、レストアされた状態で保持されているものの、初期のヒストリーについてはほとんど記録されていない。ただし、残された数少ないドキュメントによると、イタリア市場に新車として納車されたもの。最初の登録は1973年6月に行われたとのことである。

2001年に今回のオークション出品者である現オーナーが入手した際、このA110はボディワークのレストアを受けたという。その際の写真は、車両に添付されたファイルにて閲覧可能で、同じくファイリングされたワークショップの領収書が示す工賃は、4万ユーロを超えるとのこと。2015年には、エンジンのリビルドを含むさらなる修復作業が施された。

くわえて、車内にはロールバーが装着されているものの、現オーナーのメモでは、レストア作業の完了以降は、競技走行はしていないと付け加えられている。

純正アロイホイールにはアルピーヌの定番「ミシュランXAS FF」ラジアルタイヤが装着され、フロントトランクにも同サイズ5本目となるスペアタイヤが収められている。

この魅力的なアルピーヌ・ルノーA110 1600Sに、RMサザビーズ欧州本社は現オーナーとの協議の末、8万スイスフラン~12万スイスフランというエスティメート(推定落札価格)を設定した。

そして「Offered Without Reserve」、つまり最低落札価格を設定することなく臨んだ競売ではビッド(入札)が充分に伸び、終わってみればエスティメート上限に近い11万7300スイスフラン、邦貨換算約1910万円で落札されることになった。

円安のため、日本円に換算してしまうとけっこうな金額にも映るのだが、今回の落札価格はオリジナル性の高いアルピーヌA110、しかも1300Sと並んで人気の高い1600Sであることを思えば、まあまあリーズナブルだったのでは・・・・・・? とも感じられるオークション結果だったのである。

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