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クルマ好き女子大生がラリードライバーになるまで。由奈選手の2023年シーズンを振り返ります【ゴスラリ参戦記】

槻島ももちゃんとツーショット

全日本ラリー選手権に参戦中のラリードライバー

全日本ラリー選手権に参戦中のラリードライバーの兼松由奈選手が、AMWで参戦記の連載をスタートします。初回は、由奈選手がラリーをはじめる経緯からこれまで参戦したラリーについて、さらには2024年のラリー開幕に向けての意気込みまでを一挙にお届け。ラリーの様子がわかるリアルな内容に注目です。

なぜラリーに参戦するようになったのか

AMW読者の皆様初めまして。全日本ラリー選手権に参戦中のラリードライバーの兼松由奈と申します。この度、全日本ラリーへの参戦記をAMWで連載させていただけることになりました。

全日本ラリー選手権は年間で全8戦からなるシリーズで、2023年は全8戦のうち舗装ラリーに5戦出場しました。私が参戦しているのは、JN4クラスという1500cc〜2500ccまでの前輪駆動と4輪駆動の車両限定のクラスで、今や参戦車両のほとんどがスズキ「スイフトスポーツ」(ZC33S)というワンメイクのようなクラスです。

ちょっと長いのですが……まず、私がなぜラリーに参戦するようになったか、そこから始めさせてください。そもそもは絵を描くことやアニメ、ネットゲームが趣味の引きこもり気味の幼少期~高校時代を過ごしていたのですが、18歳の頃に兄の影響で突然クルマにハマってしまい、大学時代にはホンダ「インテグラ タイプR」(DC2)に乗るようになりました。

進学した女子大ではクルマ好きの子とはなかなか出会えませんでしたが、インターネットで知り合ったクルマ好きの仲間たちとツーリングに行くようになり、気がついたらジムカーナ練習会やサーキットを走りに行くまでになっていました。インターネットって本当にすごいです。

それからずぶずぶとクルマの魅力にハマり、毎日ヤフオクでホイールを探し、アルバイト代でリーガマスターやCP035、TE37などをせっせと集めてひとり暮らしの部屋にタイヤタワーをつくっている(この界隈では)普通の女子大生としてクルマ漬けの毎日を送っていました。

そんな私が就職したのは自動車関係の会社でした。この会社も就活の息抜きに走りに行った原ジムカーナ場で出会った方に紹介していただき、その場でエントリー。そして見事内定をいただいたという、ジムカーナがきっかけの就職となったのでした。

クルマ好き女子大生がラリー選手へ

そんな素敵な会社で働きながら、インテグラ タイプRを売って鬼のローンで買ったアバルト「124スパイダー」でジムカーナ練習会に行く限界社会人生活を送っていたのですが、ひょんなことからTGRラリーチャレンジに出場するドライバーを募集しているという会社に出会い、オーディションを受けて合格したことからラリーへの参戦が始まるのです。

それからは、豊田市に構える株式会社ジェイピーシーで働きながら、ジェイピーシーのラリーサークルからTGRラリーチャレンジや中部近畿ラリー選手権(いわゆる地区戦)に参戦。2019年には地区戦でクラス優勝、シリーズランキング2位という成績を獲得することができました。

ラリーが楽しくて楽しくて、もっとステップアップできたらいいなあ……と思っているところに大きなチャンスが巡ってきました。ラリーの老舗、名門CUSCO RACINGが、女性ドライバーのオーディションを開催するとのことで、ダメ元で受けたらなんと合格。全日本ラリーJN6クラスへ出場させていただき、初出場でクラス2位を獲得することができました。

クルマ好き女子大生だった当時の私が聞いたら信じられないようなラッキーが続き、こうしてラリーの世界へ一歩ずつステップを踏み出したのです。2022年にはCUSCOから車両をお借りして、プライベーターとして全日本ラリーJN6クラスに参戦し、最終戦でクラス優勝。地元・岐阜のラリーで勝てたことがすごく嬉しかったです。そして2023年からは自分自身で車両を用意して全日本ラリーに出場するようになりました。

女性ペアで戦う

ラリーといえば、助手席で道案内などをするコ・ドライバーが必ず必要になります。私のコ・ドライバーとして1年間ペアを組んでくれたのは、もともとアイドルやレースクイーンなどもしていた槻島ももちゃんでした。ももちゃんと組むきっかけは以前AMWで紹介していただきました

モータースポーツは男性が多い業界ではありますが、私たちは女性ペアで戦っています。女性同士だと大変なんじゃないの? とかたまに聞かれることもありますが、ラリー中はツインルームで一緒に過ごすくらい仲良し。困ったらお互いになんでも相談して、プライベートでも助け合っています。(私が助けられてばかりな気がしなくもないですが)。

それに、陰キャラな私と、陽キャラなももちゃんのお互いのいいところ悪いところが補い合っていいバランスなのです。

2022年の夏頃から参戦準備を始め、メカニックの確保、車両製作、スポンサーとのやり取りなど、初めてのことだらけでしたが、たくさんの方のお力をお借りしながらなんとか初戦新城ラリー(2023年3月3日~5日)へエントリーが完了。残念なことに必要な部材の到着が遅れ自分の車両が完成せず、車両をお借りしての初戦となりました。緊張しすぎてSS1のスタート直前まで

「どどどどうしよう!!!!」

と大騒ぎでしたが、走りだしてしまえば緊張も少しずつ落ち着いてきて、無事完走。スイスポのスピード感に慣れていなくてノートの読み遅れもありましたが、すぐにアジャストしてくれてノートリーディングもいい感じ。しかし残念ながら日曜日の雨に翻弄され、結果は初戦クラス5位でのフィニッシュとなりました。

その後、ようやく自分の車両が完成。第3戦ツール・ド・九州in唐津(2023年4月14日~16日)でついにお披露目となりました。車両のカラーリングは痛車の施工をしているK-conceptDesignへデザイン・施工をお願いし、好きなゴスロリテイストにしてもらいました。赤チェックとフリル、そしてかっこよさもあるデザインがお気に入りです。

ホイールはOZ。でも実はまだ国内ラリーではあまり履いている人を見かけないんですよね。第3戦からヘルメットもCINQ PAINTでカラーリングしてもらい、車両カラーリングに合った黒×赤チェックなデザインに。ヘルメットもクルマもかわいいんです。

そんな色々と新しいもの尽くしの唐津ラウンドもまた雨が降り、土曜日の順位はかなり沈んでしまいました。日曜日は朝まで雨が降り、タイヤ選択が難しいなかレインタイヤを選び、クラス3番手タイムや2番手タイムも出て手ごたえの感じられる1戦となりました。

第4戦久万高原ラリー

その3週間後にはすぐに第4戦久万高原ラリー(2023年5月5日~7日)。そろそろ気持ちよくドライ路面を走りたいのに、またもや雨。しかも超大雨のラリーでした。

とんでもないどしゃ降りでハイドロが起きるようなコンディションの中、ちょっと泣きたくなりながらもめげずに走りきり、クラス3位。JN4クラスでの初表彰台です。どんなコンディションでも道の上を走ることが大切なんだなと改めて気づいたサバイバルなラリーでした……。

第5戦RALLY TANGO(2023年6月9日~11日)は地区戦のころから何度か走っているラリーで、走りごたえのある大好きなラリー。大好きなラリーだからこそ表彰台を目指したいところですが……。攻めの気持ちで選んだドライタイヤが、SSのある山に近づくにつれ雨が降ってきて大外れ。さらには日曜の午後にマシントラブルがありペースダウンせざるを得ない状況に……。何とか完走はできたのですが、初のマシントラブルでした。

異音がするけど何が原因か分からない。動きもおかしい……とリエゾンで足まわりチェックをしていると、周りのベテラン選手が沢山アドバイスしてくださり(ルール上、クルー以外はマシンに触れたり手助けしたりしてはいけないのです)ペースを落として走りきる、という選択ができました。すごく悔しかったですが、初めてのトラブルは私もコ・ドライバーのももちゃんにとっても大きな経験となりました。

2023年に5戦完走

その後しばらく期間をおいて、最終戦のハイランドマスターズ(2023年10月13日~15日)へ出場。ハイランドマスターズは、2022年にクラス優勝したラリー。地元・岐阜県で開催されることもあり、気合いが入ります。

せっかくなのでラリーを観戦したことのない方にも観に来てもらいたいと思い、ラリーツアーを開催しました。マフラーメーカー「ロッソモデロ」に協力していただき、自動車ライター・井元貴之さんのアテンドのもと、ラリーを観戦を楽しんでもらえるようなツアーを企画したのです。ラリーツアーは2024年も開催する予定なので、ぜひ参加してくださいね!

話を戻すと、ハイランドマスターズの1日目はなかなかペースが上がらず5位で終了。2日目は雨予報。2023年のラリーは雨続きで、むしろ雨の方がいいタイムが出ていたので、まだチャンスはあります。そして迎えた2日目は予報通りの雨。DUNLOPのレインタイヤのおかげでクラス3番手タイムも出すことができ、気がつけば3位まで5秒差になっていましたが、残念ながら最終SSで負けてしまい、4位でのフィニッシュとなりました。

こうして5戦を走り切り、シリーズランキングはクラス5位。これが実力……とはいえ、納得はしていません。2023年シーズンの大きな反省は2つあり、1つ目はタイヤ選択のミス。2つ目はペースのばらつきです。

雨天のラリーが多い中、雨が止んでタイヤをどうするか? という場面で選んだタイヤが外れてしまっていることが多かったんです。ドライタイヤを選んでも再び雨が降ってきたり、レインタイヤを履いたら陽が射してきて完全に乾いてしまったり……。結論として、「冒険しすぎないほうがいい」ということがわかりました。2024年は、周りを見ながら慎重にタイヤを選んでいきたいです。

そして、ペースのばらつきですが、これは自分のコンディションや気持ちが「不安」に寄っていたのが大きいと思っています。自信を持って、ライバルと自分の位置を確認しながら1本ずつ反省して次のSSに活かしていくことが大切です。

幸いにも2023年に5戦完走できたことで、このラリーはこんな道でこんなところが苦手、ここがポイントみたいな経験値が自分の中に少しずつ蓄積できました。右も左もわからない私がこうして1年間走り切れたのは、助けてくださった皆様のおかげに他なりません。

私の力でできることなんて本当になくて、ここまで走らせてくださった方々にこの場をお借りして改めてお礼を言いたいです。本当にありがとうございます!

もっともっとたくさんの人にラリーの魅力を伝えたい

そんなこんなで2023年シーズンは終わり、今は2024年の開幕に向けて準備中。最終戦でぶつけてしまったボディの板金や、レギュレーションが変わったことによるマシンのアップデート、テスト走行など、まだまだやることだらけです。

私のラリー参戦の目標はもちろん、JN4クラスでチャンピオンを獲ること。そして、「ラリーをたくさんの人が知っている世界」を目指しています。

ラリーは、公道を駆け抜ける迫力のあるモータースポーツです。もっともっとたくさんの人にラリーの魅力を伝えて、ファンが増えること、そして私やももちゃんの姿を見てラリードライバー、コ・ドライバーを目指す人が増えてくれたらいいなと思っています。

大きな夢ですが、私にできることからひとつずつ、応援してくれるみなさんに楽しんでもらえるようにラリーを発信していきます。そのひとつとして、この参戦記を書かせていただきますので、楽しみにしていてください。次回もまた読んでもらえると嬉しいです。それではまた!

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