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フィアット「500」の謎の振動がやっと解消! 飛び散るオイル問題は果たして解決されたのか…!?【週刊チンクエチェントVol.35】

いざ、試走スタート。この後、振動がないことによる感動に包まれる

オイルが噴き出す原因は不明のまま……

名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートする「週刊チンクエチェント」。第35回は「シルキー・ツインというのは言い過ぎか……」をお届けします。

ゴブジ号がまるでフツーのクルマみたいに走った!

ひさびさにゴブジ号を走らせて心の底から感じたのは、やっぱりチンクエチェントは楽しいな、ということだった……遅いけど。いや、遅いというか速くはないというべきか。まぁ何を比較対象にするかしないかでその辺の感覚は変わっちゃうところがあるのだが、その直前まで1週間ほど預かってた試乗車がアバルト「595コンペティツィオーネ」だったこともあって、感覚がそっちに慣れちゃってたのだ。何せ595の車重はゴブジ号のざっと2.5倍あるけれど、馬力は10倍だ。だけど、5分も走らせるとこのクルマ個有の速度感に自分が馴染んでくる。ちゃんと走らせれば交通の流れを停滞させるようなことにはならないし、チンクエチェントはチンクエチェントなりに速い。がんばってる。そんなふうに感じられちゃうのは、もしかしたらひいき目なのかもしれないけど、でもまぁそういうもんだ。

っていうか、振動、綺麗になくなってるじゃん!

2021年9月22日、およそ4カ月ぶりにゴブジ号を走らせた日。静岡のスティルベーシックで修理や調整などを受けての路上復帰、である。この日はチンクエチェント博物館の伊藤代表もたまたまスティルベーシックを訪ねていて、僕は社長と大介さんのふたりの平井さんと伊藤代表に見送られるようにして試走に出たのだった。

いや……もう感激、だ。様々なトラブルの根本的な原因となっていた、メーター読み65km/hくらいからの特定のゾーンで発生するビックリしちゃうほど大きい振動がすっかり収まって、ゴブジ号がまるでフツーのクルマみたいに走る。BMWのシルキー・シックスならぬシルキー・ツイン、というのは我ながら過言もいいところ、だな。でも、そう冗談を飛ばしたくなるほど、かなり滑らかなのだ……500ccの2気筒を積むクルマなりに、だけど。エンジンとミッションを降ろしてドライブシャフトを交換。ひと言でいうならそういうことなのだけど、より精度を高めるためにシムを使ってエンジンとミッションの搭載位置が最適となるよう微細な調整をするなど、極めて手間と時間のかかった作業をしてもらってる。

ほかにもブレーキの踏み代がときどき微妙に深くなるという僕のコメントを受けてリターンスプリングを換えてくれたり、僕はまったく意識してなかったけどフロントのホイールボルトがパーツの品質の問題なのか経年変化なのか微妙に伸びていたことに気づいて硬い焼き入れボルトに交換してくれていたり、と手の入れ方が素晴らしくロジカルで繊細。チンクエチェント初心者にとっては頼もしいかぎり。こういうのをプロフェッショナルのノウハウというのだ。

エアコンがないのにダッシュパネルにベンチレーションを装着?

もうひとつ、これもノウハウのひとつと言っていいと思うのだけど、何とゴブジ号のダッシュパネルにベンチレーションがついていた。チンクエチェントはエアコンなんて概念すらない時代に生まれたクルマだから、もちろん空調装置は備わっていない。いや、三角窓という誰が発明したのかわからない素晴らしい装置があるから、走ってるときには左右のその部分から車内にいい具合に風が導かれてほどほどの暑さまでなら「ああ、涼しい、気持ちいい」と勘違いできるのだけど、強制空冷的な装置がひとつ、追加されていたのだ。

この時代のチンクエチェントのダッシュパネル中央には灰皿が備わってるのだけど、それをポコッと取り外すとフレッシュエアが飛び込んでくる。その流れを整えて風向きを変えることのできるベンチレーションが備わっていた、というわけだ。平井社長によれば「試しにつけてみただけ」ということで、見る限りではほかのクルマのパーツを流用してるようなのだけど、この灰皿を外した孔にそのままスポンと収まって機能するパーツを見つけ出すのも、それは立派なノウハウだ。昨今の日本の凶暴な夏の暑さはエアコンなしのクルマのユーザーには厳しいことこのうえないのだけど、これひとつでだいぶ違う。ぜひとも商品化してほしいパーツだな、なんて感じさせられたものだった。

けれど、そのプロフェッショナルをしても、エンジンルーム内のどこから微かにオイルが漂い出すのか、今回の入庫の間には見つけられなかった。高速走行時などエンジンの負荷が大きなときに、それもほんの微かに噴き出すような感じだから、それを工場内で再現するのは難しい……というかほぼ無理。エンジンルームの中の疑わしいところいくつかに白い紙を近づけ、エンジンの回転を上げてみてオイルが付着するかなど、あれこれチェックはしてくれたのだけど、特定には至らなかったのだ。

そこに関してはオイルの残量を小マメにチェックしながら様子見、ということにせざるを得ない。スティルベーシックが特注で作らせてる気密性を高めるオイルを入れてもらって、夕方に差しかかった時間、僕は静岡を後にして東京へと向かうことにした。

新東名高速の左車線を例によって左側ベタベタ、速度計70km/h、GPS80km/hで走る。いや、実に快適だ。振動のない世界というのは、実に心地いい。チンクエチェントってこんなにも滑らかに走るのか……なんて何度も嬉しい気持ちになりつつ、それでも最初はサービスエリアごと、次第にひとつおきにエンジンフードの裏側とオイル量をチェックしながら、目黒のハズレにある自宅を目指す。

んんん……やっぱり噴いてるな。

フィールとしてはエンジンも快調で、体感的にはほかの499.5ccのノーマル・チンクエチェントよりも速いと感じられるし楽しいのだけど、それだけが気掛かり。そういうとき(だけ)僕は神経質になる。ちょっとばかり不安な気持ちになったのは、その数日後、僕はゴブジ号のステアリングを握って神戸まで走って行く予定があったからだ。チンクエチェント博物館主催の「関西トリコローレ」というイベントが開催されることになっていて、そこで皆さんにお披露目をする計画だったのである。

とりあえず目黒のハズレに到着して屋根付きの有料駐車場にクルマを入れ、オイルが付着してる部分を写真に収め、自宅に戻る。普通なら2時間半程度なのに倍の時間を費やして走ってきた身体を湯船に漬け込みながら、僕はこんなことを考えていた。

途中で継ぎ足すほどじゃなかったけど、見た目、結構オイル噴いてる感じだよなぁ……。明日、パーツクリーナーで一度エンジンルームを綺麗にしてから、いろんなシチュエーションでオイルの噴き出し具合を試してみないとな……と。だって、また途中で停まっちゃうなんてイヤじゃん……。

■協力:チンクエチェント博物館
https://museo500.com

■協力:スティルベーシック
https://style-basic.jp

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