シエラネバダ山脈のトレイルを丸4日間、一人旅
2024年の8月末から、アメリカをミシシッピ川沿いに南北縦断して音楽の歴史をたどる旅に出ることにした筆者。最初にカリフォルニア州のシエラネバダ山脈で仲間と10日間のハイキングをし、その後、ミシシッピ川を30日かけて北上する、計40日のプランです。シエラネバダでは想定外にハードな行程のため仲間たちはゆったりコースに変更。筆者は丸4日間、一人でトレイルを進むことになりました。
一人キャンプで釣りと焚き火と夜空を満喫
一人きりになった最初の日、川がすぐ横を流れるキャンプサイトにテントを張った。夜の焚き火のための枝を集めていると、女性レンジャーがファイアーリングのメンテナンスにやってきた。大きな石をどけ、シャベルを使って灰を掻き出す。30分以上かかる重労働だ。仕事を終えてひと休みする彼女に話しかける。
「もし、生まれ変わったらパークレンジャーになりたいんですよ」
レンジャー歴5年という彼女は笑顔になり、「お勧めしますよ」と応えてくれた。
夕方、釣竿を持って川に出た。瀬が浅く、難しいかと思ったが、1投目できれいなレインボートラウト(ニジマス)がヒット。ポイントを移動しながら2時間ほどで30尾近く釣ることができた。夕食のおかずに型がいい1匹だけをキープした。
夕食の準備をしていると、鹿の親子が遊びにやってきた。しばらく餌を物色しながら歩き回っていたが、やがて森の中に消えていった。焚き火開始。火を見ていると、すぐに時間が経ってしまう。このサイトにほかのキャンパーは来なかった。川のせせらぎ、風が葉を揺らす音。一人だけの夜は、五感が敏感になる。焚き火から離れた川岸で空を見上げると、たくさんの星が浮かび上がった。
翌日には、当初の目標であったグレンパス(グレン峠)にアタック。なんとか登り切って、眼下にRae Lakesを見下ろすことができた。ところが、ヨセミテの方向で山火事が起きているそうで、残念ながら視界は煙っていた。これもまた大自然だ。
いかにもリベラル風な「ケン」と大統領選挙の話題に
一人キャンプの最終日、ケンという男が話しかけてきた。若くみえるが、ぼくと同じ65歳で、すでにリタイアしているという。長年、プロダクトデザインに携
いろいろな話をするうち、大統領選挙の話になった。
「カマラはどうだろうね」と聞くと、彼は首をひねり「彼女はパペットだと思うよ」という。パペットは操り人形。日本流にいえば、傀儡政権か。ちょっと意外な答えだった。
「誰のパペットなの?」
「分からないけど、オバマかな。だいたい、アメリカは投票の仕方はおかしいよ。すぐに不正ができてしまう」
ちょっと様子がおかしくなってきたぞ。
「じゃあ、誰が一番いい大統領になるの?」思い切って聞くと、「トランプ」とひと言。
カリフォルニアは圧倒的に民主党が強い。実際、過去に出会った人たちもほとんどが民主党を支持していた。ケンはルックスも仕事もリベラル風なので、完全に民主党支持と決め込んでいた。そういえば、LAで宿泊したホテルの前にトランプ・グッズを売るMAGAの露店が出ていたが、店番をしているのはヒスパニック系の女性だった。
当たり前だが、アメリカは広くて分厚い。それを思い知らされた出来事だった。
ニューオリンズからのレンタカーはダッジ「デュランゴ」!
9月5日、約束のキャンプサイトで3人と再会。うんざりして山を下りてしまったのでは? と心配したが、それどころか、最高に楽しかったと笑顔。原田さんもすっかり元気になっていた。LAに戻って焼肉で打ち上げをして、シエラネバダのハイクは、無事(?)終了したのだった。
山から帰った翌日、ぼくと原田さんはニューオリンズに飛んだ。今回は、国内線もデルタ航空にサポートしていただいた。本当に感謝です。
ニューオリンズ到着は午後5時。12時に出て3時間のフライトなのに、到着は5時。アメリカには太平洋、マウンテン、セントラル、東部と4つのタイムゾーンがある。太平洋時間のロサンゼルスからセントラルのニューオリンズに行くと、2時間、時計が進んでしまうのだ。これは何だか、損をした気持ちになる。ルート66を旅行するときに、シカゴから出るかロサンゼルスから出るか、よく話題になるが、シカゴから西に向かえば計3時間得をする計算だ。これは意外と大きい。
到着後、さっそくレンタカーをピックアップする。今回はハーツレンタカーにお世話になった。アメリカ国内にこれだけ営業所があって、日本でも事業を広く展開している会社はほかにない。もちろんサービスも充実しているので安心して使える。ぼくは、どこに行ってもレンタカーはハーツと決めている。
最初の10日間は人数が多いのでフルサイズSUVを用意してもらった。しかし、車種までは特定できない。どんなクルマかな……。ワクワクしながら駐車場に行ってみると、なんと漆黒のダッジ「デュランゴ」が、で~んとぼくたちを待ち構えていた。
これはカッコいい! アメリカのドライブは、やっぱりアメリカ車がいい! 正直、山旅の疲れが残っていたが、デュランゴを見た瞬間に新たなパワーがわいてきた。
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