ケンタッキー州といえばバーボン・ウイスキー
2024年の8月末から、アメリカをミシシッピ川沿いに南北縦断して音楽の歴史をたどる旅に出ることにした筆者。ブルースの故郷である「ミシシッピ・デルタ」を仲間と4人で巡った後は、ひとり旅。ニューオリンズのハーツレンタカーで借りたキア「スポーテージ」を“キムさん”と名づけて相棒とし、ミシシッピ川流域を北上。テネシー州のメンフィスをナッシュビルを訪れて、今度はケンタッキー州へと向かいます。
丘を抜けていく早朝ドライブは爽快そのもの
午前4時半、ナッシュビルの安モーテルを出発。夜明け前のインターステート65を北に向かってひた走る。徐々に東の空が明るくなり、あたりが見えてくると、森の中を走っていることがわかった。谷に朝霧が溜まっている風景は幻想的だ。
夜が明ける頃、ケンタッキー州ボウリング・グリーンを通過。シボレー「コルベット」が生まれた街として知られ、以前、工場を訪ねたことがあるが、今回は残念ながらパス。先を急ぐ。
フリーウェイを下り、メーカーズマーク蒸留所があるロレットを目指す。浅学にもケンタッキー州は広々とした牧場ばかりと思っていたが、ゆるいワインディングの両側にはとうもろこし畑が広がっている。次々に丘を抜けていく早朝のドライブは爽快そのものだ。早起きしてよかった!
今も昔ながらの製法を守るメーカーズマーク
バーボンはとうもろこしを主原料として作るケンタッキー州特産のウイスキーだ。第3代大統領トーマス・ジェファーソンが、イギリスとの独立戦争のときにフランスがアメリカを支援したことに感謝して、この地域をブルボン(バーボン)と名づけたことが由来だそうだ。
集積地であるバーズタウンがバーボン文化の中心で、多くのブランドがこの町の郊外に醸造所を構えている。バーボン・ウイスキーを名乗るには原材料の比率などに厳しい規則がある。また、ケンタッキー州で作られていることも絶対条件だ。したがって、テネシー州にあるジャック・ダニエルは、同じくとうもろこしを原料とするがテネシー・ウイスキーと呼ばれる。
メーカーズマークはビル・サミュエルと妻のマージーが1954年に少量生産からスタートしたブランドだ。今も家族経営を守り、メガ・ブランドに比べれば生産本数はずっと少ない。トレードマークである赤い蝋封も担当者が手作業で1本ずつ行っているのにはびっくりした。
緑豊かな敷地に建て屋が点在し、自然の中での生産を大切にしている。それは森が石灰質の土壌を守り、健全な土壌がミネラル豊富な水を生む、という理念に基づく。こんな静かな環境でウイスキー作りに携わるのもいいな、としみじみ思った。それにしても、ツアーは盛況だ。1グループ20人のツアーが20分間隔で出発する。土産物屋もレジが混雑するほど活気がある。ビジネスにも貢献しているに違いない。
久しぶりのテント泊でリフレッシュ
午後はマンモスケーブ国立公園に立ち寄った。ぼくはアメリカの国立公園を訪ねることをライフワークにしている。せっかくケンタッキー州まで来たのだから、リストに書き加えない手はない。
午後3時、巨大洞窟ツアーに参加。家族連れが多くにぎやかだ。ひんやりする地下洞窟を多くの人と散策した。
「どこにマンモスがいるんですか」と、子どもが質問。
「マンモスは、とても大きいという意味なんだよ。だから、ベリー・ビッグ・ケーブ国立公園と同じ意味なんだ」と、レンジャーが答える。
「じゃあ、マンモスはいないんだ。つまんない」
一同、爆笑。
久しぶりに自然のなかを歩いたら、国立公園内のキャンプ場に泊まりたくなった。考えてみれば、ニューオリンズ以来、ずっと街の生活が続いていた。体が自然を欲している。聞いてみると、ラッキーなことにわずかだがサイトが空いているという。さっそくチェックインしてテントを設営した。夕食は残っていたキャンプ飯。旅の緊張がやわらいだ。
次に目指すはブルーグラスの街
翌日はケンタッキー州オーエンズボロのブルーグラス殿堂博物館を目指す。カントリー・ミュージックのルーツは前回紹介したが、ブルーグラスは何が違うのだろう。
ブルーグラスは同じくスコッチ・アイリッシュの音楽をルーツに持つが、ビル・モンローが1939年に発表した新しい音楽ジャンルを指す。ジャンル名は、彼のバンド「ブルーグラス・ボーイズ」から名づけられた。速いテンポと技巧的な即興演奏、それにボーカルのハーモニーが特徴だ。映画『俺たちに明日はない』でも効果的に使われていた。カントリーが他のジャンルの音楽と融合して幅を広げたのに対し、ブルーグラスは今もオリジナルのスタイルを守っている。
ビル・モンローの出身はオーエンズボロの近くのロジーンという小さな田舎町。そこに私設のビル・モンロー博物館と、彼の生まれた家(バース・プレイス)がある。日本ではマイナーな存在だが、ブルーグラス・ファンには聖地だ。リラックスした展示を見学して、ロジーンを後にした。オーエンズボロは、もうすぐだ。
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このミシシッピの旅で筆者が取材した内容を1冊にまとめた本が2025年3月13日に発売となった。アメリカンミュージックのレジェンドたちの逸話とともに各地を紹介しているフォトエッセイ、興味のある方はぜひチェックを。
>>>『アメリカ・ミシシッピリバー 音楽の源流を辿る旅』(産業編集センター)
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