120年の革新を彩るロールス・ロイス「EX」シリーズ
1904年にロールス・ロイスの創立者であるヘンリー・ロイスとチャールズ・スチュワート・ロールスのふたりが出会いから120年を迎えました。これを記念して、時代を彩った名車の数々を紹介してきましたが、最終章となる今回は2004年以降に製造されたロールス・ロイスの実験的なプロトタイプ「EX」シリーズを取り上げます。
「ファントム ドロップヘッドクーペ」へと進化を遂げた「100EX」
ロールス・ロイスのエンジニアたちは、1950年代後半までに数多くの実験車を設計・製造した。たとえば1927年には、ファントムの軽量スポーツモデルを開発する目的で「15EX」「16EX」「17EX」を製作。以下に紹介するEXモデルはすべて、2003年以降のグッドウッド時代に考案・製作されたものである。生産に至ったものもあれば、ラグジュアリー・モビリティの未来に対するロールス・ロイスのビジョンを体現する、大胆な意思表明として登場したモデルもある。
2004年3月、ロールス・ロイスはジュネーブ・モーターショーで「100EX」を発表した。グッドウッドで「ファントムVII」の生産が始まってからわずか15カ月後のことであり、本モデルは創立100周年にふさわしい、技術的に目覚ましい成果を収めたのである。
「ファントムVII」と同様、100EXも軽量アルミニウム製スペースフレームをベースとし、ロールス・ロイス特有の「マジックカーペットライド」(卓越した乗り心地)を実現するために緻密に設計されたコンポーネントを搭載していた。最大の違いは、100EXがクローズドなフォーマルサルーンではなく、オープントップの4人乗り2ドア・ドロップヘッドであった点である。
外観は、スピードに乗ったクラシックなクルーザーを彷彿とさせるもので、リアのウエストラインがダイナミックに持ち上がり、フロントへと優美なラインを描いている。トノカバーやラゲッジコンパートメントの内装、リアキャビンはすべて漂白されたチーク材で仕上げられており、真の「航海ファッション」となっていた。100EXはその後、2007年に発表された「ファントム ドロップヘッドクーペ」へと進化を遂げた。
スターライトヘッドライナーを初採用した「101E」
100EXの発表から2年後、その後継モデルである「101EX」がジュネーブでデビューした。ファントムVIIよりもルーフラインが低く、ガラス面積が小さなツインコーチドアを採用したフル4シータークーペである。カーボンファイバー複合材製のボディワークと、実績ある6.75L V12エンジンの組み合わせにより、パフォーマンスおよびドライバー志向の性格が強調された。
インテリアでは、後に同ブランドの象徴となるスターライトヘッドライナーが初採用された。数百本の光ファイバーによる星空は話題を呼び、現在ではもっとも人気のあるビスポーク装飾のひとつである。101EXは2008年発表のファントム クーペのベースとなり、量産モデルとしても高い評価を受けた。ドロップヘッドの兄弟車よりも希少な本モデルは、後にレイスのグランドツアラーへと受け継がれた。
初代「ゴースト」のベースモデルとなったのが「200EX」
2009年3月、ロールス・ロイスはジュネーブ・モーターショーで「200EX」を発表。100EXや101EXとは異なり、200EXは明確に生産を前提としたコンセプトモデルであり、翌年2010年に登場予定の4ドアサルーンのデザインスタディとして位置づけられていた。
200EXはファントムよりもダイナミックで、格式は抑えられており、サイズとスタイリングは新しい市場である若年層に訴求するような設計がされていた。エクステリアは滑らかな大曲面を特徴とし、彫刻的な水平ラインが幾何学的な精緻さを加味していた。パンテオングリルは内側にカーブを描き、ベーンが奥まって配置されることで、よりダイナミックな印象を与えていた。インテリアは明快で直感的なデザインが意図され、重要な機能にはクロームのアクセントが施されていた。
200EXは、2010年に発表された初代「ゴースト」のベースモデルであり、2019年には同社史上最も商業的に成功したクルマとなった。
世界初の超高級バッテリー電気自動車「102EX」
2011年、ロールス・ロイスは完全電動の「102EX」を発表。「ファントム エクスペリメンタル エレクトリック」としても知られるこのモデルは、世界初の超高級バッテリー電気自動車(BEV)として登場した。
ジュネーブ発のグローバルツアーでは、ヨーロッパ、中東、アジア、北米を巡り、試乗とフィードバックの機会を提供した。出発前には、ウォリックシャーのMIRA(自動車産業研究協会)にて極端な湿度と温度環境でのバッテリーテストが実施され、30%の低湿度(ラスベガス相当)や最大理論値である500℃でも正常走行可能であることが確認された。
BMWグループの創立100周年を記念した「103EX」
「スペクター」が登場する5年前の2016年、ロールス・ロイスはもうひとつの重要な一歩を踏み出した。親会社であるBMWグループの創立100周年に際し、各ブランドにビジョン・ビークルの製作が求められたのである。ロンドンで発表されたビジョン・ビークル「103EX」は、最先端素材による手作業製造とゼロエミッションのパワートレインを特徴とし、移動体験の未来像を提示した。
「グランド・サンクチュアリ」と呼ばれたキャビンは、軽量で洗練された現代素材によって構成され、乗員を包み込むよう設計されていた。座席は豪奢なソファへと置き換えられ、芸術的な照明によってキャビン内に浮遊するような印象を与えている。
これらすべての実験車は、20世紀の先達と同様に、完全に機能する走行可能なクルマであり、新技術、エンジニアリングアプローチ、ビスポーク機能の試験台として、ロールス・ロイスのルネッサンスおよびその後の成功の礎となった。今日の製品ポートフォリオはもとより、「ゴースト」「ドーン」「レイス」「ファントム クーペ」といった生産終了モデルの多くも、いずれかの先駆的プロジェクトを源として誕生したものである。
AMWノミカタ
ロールス・ロイスのEXシリーズの多くはコンセプトだけではなく、その後実際に市販車として販売されていることからもかなり具体的に作り込まれたモデルばかりである。100EXは2007年のファントム ドロップヘッドクーペ、101EXは、2008年のファントム クーペ、そしてレイスへとつながる。200EXはゴースト、102EXはスペクターの開発に活かされた。
103EXで発表されたコンポーネンツはロールス・ロイスのビスポークの幅を大きく広げるきっかけとなっている。最新のEXモデルである103EXは2016年に発表されたがハンドルもペダルもなくすでに完全にAIが運転することを前提としていた。前面には透過型OLEDディスプレイが設置され、エンタメや情報表示が可能でかなり未来的なモデルとなる。
「もっとも純粋な形の私たちのビジョンは、オートクチュールに等しいクルマを創ることです。これがラグジュアリーなモビリティの未来です」
とロールス・ロイスがいうように、彼らの未来の野望は一人一人に異なるモデルを提供することなのだろう。プライベートスタジオの世界中での展開や、本社のビスポーク施設の拡大は確実にこの夢の途上にあるプロジェクトであることがわかる。
