健常者・障がい者を問わず運転技術を学ぶことができる
一般社団法人国際スポーツアビリティ協会が主催し、車いすレーサーである青木拓磨が校長を務めるハンドドライブレーシングスクール(HDRS)。障がいがあっても健常者でも一緒にサーキットを楽しもうという企画で、千葉県にある袖ケ浦フォレストレースウェイで年に数回開催されています。
サーキットだから安全に急制動や高速コーナリングを体験できる
HDRS(ハンドドライブレーシングスクール)はレーシングスクールという名がついているが、その内容は車両の基本的な操作を学ぶところからスタートする一般的なドライビングレッスンと変わらない。どちらかといえば極めてベーシックなプログラムが中心で、障がい者のコーチングにも注力しているが健常者も参加することができる。健常者であろうが機能障がある人でもきちんとした乗車姿勢を保つことが、Gのかかるサーキット走行では非常に重要なポイントとなる。
しかし、障がいによって乗車姿勢が異なってくるが、正確な着座姿勢を保持できるような環境づくりが重要となる。参加者それぞれが日常使用している車両を持ち込んでいるが、まずは実地での教習を繰り返しながら乗車姿勢を確認。それに伴って運転補助装置の調整なども必要となるなど、運転姿勢の保持以外にも細かい積み重ね(調整)がサーキット走行では必要となるわけだ。もちろん、健常者、障がい者問わず正確な運転姿勢づくりは、日常の運転でも役立つことは間違いない。
スクールのプログラムは1日単位で行われ、まずは座学でサーキット走行に必要な簡単なレクチャーを受ける。その後、パドックの広いスペースを使用したパイロンスラロームと急制動の練習。ここでは、ステアリング操作やブレーキのかけ方など、一般公道とは異なるレベルの操作を学びつつ、自身のクルマの挙動変化も確認する。
その後、本コースに出て走行となるが、最初の30分は先導走行付き。午後は30分のフリー走行枠が3回設けられている。基本的に自身の車両で走行するが、このスクール用にハンドドライブユニットをインストールしたレンタル車両の日産「マーチ12SR」も用意されている。
スクールの料金については、障がいを持った方には5500円という破格の参加費(健常者は2万円)でマン・ツー・マン指導をしているのが特徴だ。
障がいを負い1度は返納した免許を再取得!
HDRSに初参加となるのが、金栗聡さん。11年前に仕事中に機械の下敷きになってしまい腰椎の脊髄損傷を負い、現在もひざ下からの感覚はなく、車いす生活を余儀なくされている。自動車免許は18歳で取得。クルマは乗っていたものの、事故を機に一旦は返納したが取り直しを決意。2025年1月に再取得した。初心者マークの掲示はもちろん、免許証の色も緑だ。クルマの運転は10年以上のブランクがあり、もちろん障がいを負ったためハンドドライブユニットでの走行もまだ超初心者といえるレベルとなっている。
今回HDRSへの参加については次のようにコメントしている。
「知人からも勧められていて、HDRSの存在は知っていました。レースをするつもりもないし、パイロンとか苦手だし……参加するつもりは、最初はなかったんです。でもサーキットをゆっくり走ることもできる。自分のペースでできると聞いたので参加してみました」
金栗さんが持ち込んだのは、日常の移動の足として、そしてたまのドライブにも使用しているスバル「ジャスティ」。安全に気を付けるために、車両にはコーナーポールを装着。ほかにもカメラ類を充実させている。運転についてはミクニ ライフ&オートのAPドライブ手動運転装置を装着し、ステアリングには操作補助のノブもつけています。
金栗さんは、積極的にこの日の全セッションに参加。スクールでは、青木拓磨校長のドライビングを助手席で体験する同乗走行の機会も設けられている。金栗さんは、プロのサーキット走行を確認しつつ、自身の走行と比較しながら、1日しっかりと走り込んでいたのが印象的だった。
「愛車の性能がどのくらいのものなのか、自分がどのくらいのレベルで走ってきたかというのがわかりました。初めての経験でしたし、ここまで走ることに集中したことがなかったですね。今日は天気も良くて、走行していてもすごく気持ちよかった。拓磨さんの横に乗って、自分の運転がうまくなったかのような錯覚もできました。クルマ遊びの奥深さも実感できてこの後も参加をしていきたいと思いました」
と走行後に、金栗さんは語っている。
日常運転とは異なる、サーキットを走るという行為だが、それぞれのレベルでしっかり楽しめるのがレーシングスクールの魅力。気になる方はぜひ参加してみてはいかがだろうか。ちなみに健常者でも障がい者でも参加できるこのHDRS、次回は6月13日(金)に袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催予定となっている。
