レーシングモデルの売買は難しい?
2025年5月3日、ボナムズがアメリカで開催した「The Miami Auction」オークションにおいてポルシェ「911 ターボ GT2R」が出品されました。GT2クラスのホモロゲーションを満たすために製作されたGT2Rには、専用パーツを装着。ヴァイザッハにあるレーシング部門で1994年から1995年にかけて43台が生産されたと記録されています。
最後の空冷エンジンを搭載した993型911
ポルシェ 911の世代分けとしては、第4世代となる993型の911。デビューは1993年で、最大の魅力といえるのは、911最後の空冷式水平対向6気筒エンジン搭載車というところ。そのスムースなスタイリングも魅力のひとつだが、1989年にハーム・ラガーイのデザインで誕生したコンセプトカー、パナメリカーナから多くのディテールを引き継いだ結果であるともされている。
また、リアには新たにマルチリンク式サスペンションを採用したため、リアフェンダーはよりワイドな造形となっているのも特徴だ。リフトオフオーバーステアがほとんど表れなくなった993型911のエンジンは前記のとおり空冷式のままであった。エンジニアたちはその寿命がすでに尽きる直前にあることを知ってか、あらゆる手を尽くし、自然吸気でもターボでも、史上最高の空冷式エンジンを作り上げたのだった。
993型911は、もっともスタンダードなカレラやカブリオレ(いずれにもRWDと4WDの両バージョンが用意された)からセールスを開始。その後ラインナップの頂点を性能面で極めたのが、ここで紹介するGT2Rだ。
レース参戦のために開発された「911ターボ GT2R」
1990年代になると、国際的なBPR耐久シリーズを皮切りに、FIA GT1、FIA GT2にチャンピオンシップは引き継がれた。多くのプライベーターやファクトリーチームが参戦するようになった。ポルシェは最初のシーズンから参戦し、993ターボをベースに軽量化とエンジンの強化を進め、ホモロゲーションモデルの「GT2R」を作り上げたのだ。
リベットでボディに接合されたオーバーフェンダーやダイナミックな造形のリアウング、大型のチンスポイラーなどが特徴的なそのボディは、エアロダイナミクスがさらに良化されたもの。リアに搭載されるエンジンは、自然吸気のカレラRSやカレラRSRからの技術を積極的に採り入れた。さらにターボを組み合わせることで430psの最高出力を得た(1998年にそれは450psに強化される)。さらに衝撃的だったのは、そのパワーが後輪のみで路面に伝達するRWDの駆動方式を採用していたということだった。
ファーストオーナーは名古屋に住む日本人だった
GT2クラスのホモロゲーションとレギュレーションを満たすようにポルシェのレーシング部門で製作されたGT2Rには、フルロールケージや強化型のブレーキ、アジャスタブル・サスペンション、センターロック式のBBS製ホイール、レーシング燃料タンクなどが特別に装備された。
逆に遮音材や防錆材のような不要な処理は一切施されていない。ヴァイザッハにあるレーシング部門では1994年から1995年にかけて43台のGT2Rが生産されたと記録されている。出品車は、シャシーナンバー、エンジンナンバーなどのマッチングが確認されている。ちなみに生産日は1995年7月。ファーストオーナーは名古屋に在住する日本人、後に東京に移転。2017年にはイギリスへ輸出されたことが確認されている。
マイアミでオークションを開催したボナムズは、走行距離が7850km。日本とイギリスで細かな部分に至るまでの完全整備を受けてきた出品車に、80万ドル~100万ドル(邦貨換算約1億1445万円~1億4305万円)のエスティメート(落札予想価格)を提示。
ちなみに同社は、2024年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード・オークションで、オンロード仕様のGT2に2億1678万円~2億9561万円のエスティメートを掲げた。結局それには落札者が現れることなく流札に終わっている。
今回のGT2Rもまたそれより1億円以上低い予想落札価格であったにもかかわらず、流札という結果に終わった。やはりこのタイプのモデルはオークションでの売買は難しいのだろうか。
