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イタリアで生産されたOEM版ミニ・クーパー1300の意外なる落札価格

1万8400スイスフラン(邦貨換算約340万円)で落札されたイノチェンティ「ミニ クーパー」(C)Bonhams|Cars

昨今のマニアに人気?イタリア産イノチェンティ「ミニ クーパー」

2025年6月29日に開催された「THE BONMONT SALE」では、ハイエンドなクラシックカーが並ぶなか、異彩を放った1台が登場しました。イタリアで独自の進化を遂げたイノチェンティ「ミニ クーパー」は、英国の本家ミニとはひと味違う個性派モデル。今回はその魅力と、注目されたオークション結果をお伝えします。

イタリア風味のクラシックミニとは?

1931年、フェルディナンド・イノチェンティによって設立された鋼管メーカー、イノチェンティは、特許を取得した足場システムで大成功を収めた。ところが、第二次世界大戦中に生産設備の多くが破壊されてしまったため、イノチェンティ社はイタリア政府から多額の補助金を受け、ミラノのランブラーテ地区に新工場を建設した。

終戦後の1946年、イノチェンティは同社の命運を一気に好転させるヒット作「ランブレッタ」スクーターを発表。同時代にピアッジオ社が登場させた「ヴェスパ」とともに、戦後のイタリア大衆にとって貴重な交通手段をもたらした。ところが、イノチェンティ社の首脳陣はその成功にも飽き足らなかったのか、次なる目標として4輪乗用車の生産・販売へと乗りだそうと目論んでいた。

一方1959年に「オースティン ミニ セブン(Austin Mini Se7en)」および「モーリス ミニ マイナー(Morris Mini-Minor)」を発売したことによって大成功を収めた英国最大級の自動車メーカー「ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)」は、自国内の自動車専業を保護する目的により当局による制限の多かったイタリア市場での足掛かりを得るために、イタリア国内で自動車生産・販売を請け負うメーカーとしてイノチェンティ社とのアライアンスを決定した。

英国版には設定のないスポーティで豪華なダッシュパネル

こうして両社の意向が一致し、BMCミニ誕生と同じ1959年に、自動車メーカーとしてのイノチェンティが誕生。当初はピニンファリーナのデザインによるBMC「A40ファリーナ」のライセンス生産をスタートしたが、1965年には「ミニ」が生産の中核となる。

この「イノチェンティ ミニ」は、外観こそ英国版ミニと大差ないものの、とくに高級グレードとしての役割も期待されていたミニ クーパー(1000からのちに1300に発展)は、英国版には設定のないスポーティで豪華なダッシュパネルに、こちらもイタリア版のみの装備となるタコメーターを含む「ヴェリア(Veglia)」社製メーターを連装。シートも同時代のイタリア製グラントゥリズモを思わせる、ゴージャスな意匠とされていた。

さらに英本国版ミニ クーパーS MK-IIIが1971年をもって生産を終えたのちも、イノチェンティ版は黒地に「Innocenti」ロゴの入ったラジエターグリルを持つ「ミニ クーパー1300」が1975年まで継続生産され、本家の抜けた穴を埋める存在となった。

現在のオークション相場とは考えにくい低い落札価格

今回のオークション出品者でもある現オーナーからの申告によると、このほど「THE BONMONT SALE 2025」オークションに出品された、このイタリア製のミニ・クーパーは、スイスで新車として登録・納車され、現在では同国にて自動車税や車両保険などで優遇される「ヴェテラン(Veteran)」の地位を確立している個体。BMCミニ譲りとなる「アーモンドグリーン(Almond Green)」のボディに、イノチェンティ独自のブラックのビニールレザー張りインテリアが、新車時代から現在に至るまで維持されている。

この個体はこれまでレストアされていないにもかかわらず、全体的に良好なコンディションにあり、オークション公式カタログ作成時点での走行距離は6万7860km。スイス国内の自動車登録証明書「カルト・グリーズ」も車両に添付されているとのことであった。

イノチェンティ ミニ クーパーについて、ボナムズ社では3万スイスフラン~3万5000スイスフラン(邦貨換算約552万円〜644万円)という、このモデルの現況における相場感を反映したエスティメート(推定落札価格)を設定。そのうえで現オーナーとの協議の結果「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」での出品となった。

この「リザーヴなし」という競売形態は、価格の多寡を問わず落札できることから、とくに対面型オークションでは会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が跳ね上がる傾向もある。しかしその反面、たとえ価格が出品者サイドの希望に到達しなくても、強制的に落札されてしまうという怖いリスクも同時に内包している。

今回の「THE BONMONT SALE」では、出品者サイドにとっては最低落札価格未設定の「負の側面」が現れてしまう。すなわち、思いのほかビッド(入札)が進まなかったようで、競売締め切りの時点でエスティメートよりも遥かに安価な1万8400スイスフラン。現在のレートで日本円に換算すれば、約340万円で競売人のハンマーが鳴らされることになった。

ちなみに、昨2024年6月に開催されたRMサザビーズ「Cliveden 2024」オークションでは、同じくイノチェンティ製のミニ クーパー1000MK-IIが2万5300英ポンド、当時の為替レートで日本円換算すると約500万円で落札された実績もあることから、今回のハンマープライスが現在の国際マーケットにおける相場価格とは考えにくい。

ありていに言ってしまえば、出品者側にとって不本位であるいっぽう、買い手側にとってはリーズナブルな買い物ができた……、ということなのであろう。

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