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4人乗りフェラーリが高騰中?「612スカリエッティ」が再評価されている理由

8万500スイスフラン(邦貨換算約1490万円)で落札されたフェラーリ「612スカリエッティ」(C)Bonhams

今世紀初の2+2フェラーリはライバルを凌駕する最速グランツーリスモ

フェラーリの「2+2」モデルは、豪華でフラッグシップ的な存在でありながら、中古市場では比較的手頃な価格となり、維持には経験も必要な“上級者向けフェラーリ”として知られています。2025年6月の「THE BONMONT SALE」オークションでは、そんな個性的な1台、フェラーリ「612スカリエッティ」が注目を集めました。

V12モデル初のアルミ製スペースフレームを採用

2004年にワールドプレミア、その年の末に日本デビューを果たした「612スカリエッティ」は、今世紀初頭のフェラーリのフラッグシップとして君臨した、きわめてゴージャスな2+2グラントゥリズモ。スカリエッティとは、数十年にわたり長らくフェラーリのボディを製作してきたカロッツェリアの名に由来する。

テクノロジー面における最大のトピックは、フェラーリV12モデルとしては初めて、アルミ製スペースフレームを採用したことだろう。また、旧456GTに端を発する、タイミングベルト式5.7LのV12エンジンをフロントアクスル後部に搭載する「フロントミドシップ」レイアウトも特徴としていた。

612では大人でも辛うじて快適に座ることのできるサイズのリアシートを収めるため、456シリーズでは思い切って短縮したホイールベースを一気に350mmも延長。実質的な後継車である「FF(Ferrari Four)」と同じく2950mmというフェラーリ史上最長の雄大なサイズを誇ることになったかたわら、フェラーリの古典を生かしたエレガンスを前面に押し出すことに成功した。

EUでは6速MT仕様をオプションで選択可能

4人の大人が快適に移動することができる612スカリエッティは、同時代のベントレーやメルセデス・ベンツ/AMGに求められそうな用途を充分にこなす一方で、パフォーマンス面では容易に勝つことができる本物のグランドツアラー。トランスミッションは6速シーケンシャル「F1マティック」がデフォルトで、Vバンク角65度のV型12気筒4カムシャフト48バルブのエンジンは7250rpmで540psを発揮。4.2秒で時速100kmに到達し、最高速度は315km/hをマークした。

また、アルミニウム製のスペースフレームとアルミ合金製ボディパネルは、456時代から大幅に大型化していたにもかかわらず車両重量はほぼ同等。さらに456に対してねじり剛性は60%もアップされたことによって、快適性のみならず優れたハンドリングにも大きく寄与することになったとされる。

612スカリエッティは2011年に後継の「FF」にあとを譲るかたちでフェードアウトするまでに、3000台以上が生産されたといわれている。ちなみにEU市場では6速MT仕様もオプション選択できたが、その生産台数は200台にも及ばないとのことである。

充分なメンテナンスを受けてきた記録

今回「THE BONMONT SALE 2025」オークションに出品されたフェラーリ 612スカリエッティは、2004年6月9日にスイスにおけるフェラーリ正規ディーラー「ロリス・ケッセル・オート SA(Loris Kessel Auto)」によって新車として販売され、同月1日に登録された。

現在は登録抹消されているスイスの車両登録証「カルト・グリーズ(Carte Grise)」によると、ブルーのボディにベージュのレザーインテリアの組み合わせが、新車時から維持されているようだ。

サービスブックに記載されているとおり、この612スカリエッティは2005年6月30日、走行距離にして約3000kmで所有者が変更されながらも、その後もスイス国内に残留。前オーナーは、2015年6月にこの個体を購入したことが判っている。

このフェラーリには完全なサービス履歴が付属しているが、その大半、とくに前半を担ったのはスイス・グランツィアの「レーシング・カー(Racing Car)S.A.」社。2006年4月・4433km時から2015年7月・5840km時まで、同社によってメンテナンスが行われたことが、このサービス履歴からわかる。

その後の大規模メンテナンスとしては、2016年9月、走行距離6107kmの時点でスイス・バーゼルの「ニキ・ハスラー(Niki Hasler)」社、および2024年4月、7071kmの時点でプラッテルンの「スタタリウスS.A.クラシックカーズ(Statarius SA Classic Cars)」社にて実施。ハスラー社とスタタリウス社から発行された請求書は、販売に際して添付されるファイル内に保管されている。

くわえて、車両にはナビゲーションシステムマニュアル、フェラーリの販売/サービスネットワークのマニュアル、「フェラーリ・ダイレクトライン(Ferrari Direct Line)」のサービスマニュアル、純正ハイファイシステムの保証カード、オーナーズマニュアル&サービスブック、および2つのキーが付属していたとのことである。

「最低落札価格なし」と強気の出品の結果は?

ただ、いかにクラシックカーのエキスパートであるボナムズ営業部門であっても、現時点においてはまだ「ユーズドカー」というべき612スカリエッティの値付けには苦慮したようで、6万5000スイスフラン~9万5000スイスフラン(邦貨換算約1196万円〜1748万円)という、かなりレンジの広いエスティメート(推定落札価格)を設定。さらにこの出品については、比較的安価なクルマ、あるいは相場価格の確定していないクルマでは定石となる「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で行うことを決定した。

この「リザーヴなし」という出品スタイルは、金額の多寡を問わず確実に落札されることから競売会場の雰囲気と購買意欲が盛り上がり、ビッド(入札)が進むこともあるのがメリット。しかしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札されてしまうリスクも不可避的についてくる。

日本国内相場の5割増し、約1490万円で落札

しかし、その不安は杞憂に終わったようで、競売が終わってみれば8万500スイスフラン、現在のレートで日本円に換算すると約1490万円で落札されることになったのだ。

ただしこのハンマープライスは、わが国の中古車マーケットにおいては1000万円前後で取り引きされる事例の多い612スカリエッティとしては、円安が続く為替事情を鑑みても高めといわざるを得ない。

また、日本国内でもこのモデルのタマ数は豊富に存在することから、わざわざ海外から購入する理由があるとするなら、たとえば日本には正規導入されなかったマニュアル仕様車をたまたま入手できる機会を得た(もちろん価格は2倍以上になるだろうが……)など、よほど特別な理由がある場合に限られよう。

とはいえ、国内における612スカリエッティはたしかに安価ではあるのだが、維持については、歴代のV12フェラーリと同じくなかなかの難敵でもある。つまり、同年代のV8フェラーリなどよりも格段にハードルが高い、あくまで「フェラーリ上級者」向けのモデルであることは、ここであらためて明言しておくことにしよう。

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