アート作品レベルの精度と作り込みを有するジュニアカー
2025年6月29日、スイス・シェゼレックスで開催されたボナムズ社のオークション「THE BONMONT SALE」では、クラシックカーやスーパーカーのほか、精巧に作られたジュニアカーも注目を集めました。今回はその中から、4分の3スケールのフェラーリ「250テスタロッサ」をご紹介します。
フェラーリ史上最高のレーシングスポーツ「250テスタロッサ」とは?
これまでAMWでもしばしば紹介してきたとおり、昨今の国際マーケットでしばしば話題に上る「チルドレンズ・カー」ないしは「ジュニアカー」は、「キッズカー」より対象年齢が少しだけ高めのものを指してる。これらのモデルの一部には、「ホンモノ」のクルマの再現度や作り込みの精巧さなど、子供用のおもちゃの領域をはるかに凌駕し、コレクターズアイテムないしはアート作品のレベルに達したものも少なくない。
「THE BONMONT SALE 2025」オークションに出品された小さなフェラーリ 250テスタロッサも、そんな大人のコレクター向けのジュニアカーの最たる一例といえよう。
モータースポーツ史上でもっとも印象的なモデル名のひとつである「テスタロッサ(Testa Rossa:赤いヘッド)」は、1956年にフェラーリの4気筒2L級レーシングスポーツ「500 TR」に初めて採用された。この名称は、鮮やかな赤で結晶塗装されたDOHCのカムカバーに由来するものである。
通称「ポンツーンフェンダー」は250テスタロッサの象徴
そして、当時のスポーツカー耐久レース世界選手権FIA「WSC(ワールド・スポーツカー・チャンピオンシップ)」の対象が3L以下のレーシングスポーツカーとなった。1958年シーズンに向けて、フェラーリはすでに定評のあるV型12気筒SOHCコロンボ・ユニットを最大限にチューンアップするとともに、各バンクのカムカバーを赤く塗装。鋼管スペースフレーム+アルミ製ボディに搭載したレーシングスポーツを開発する。それが、1958年シーズンから1961年シーズンまで、WSC選手権を三連覇した250テスタロッサである。
なかでも250テスタロッサの端緒となったスカリエッティ製の最初期モデル、通称「ポンツーンフェンダー」は、その素晴らしいレーシングヒストリーとデザインから後世にレプリカが数多く制作されたが、そのなかにはフルサイズのものに加えて、スケールを小さくしたジュニアカーも数多く含まれている。
今回のオークション出品車は、ジュニアカーとなった250テスタロッサのなかでも、ハイエンドに属する1台といえよう。
ジュニアカーのスペシャリストが製造したオフィシャルライセンス品
「THE BONMONT SALE 2025」オークションに出品された小さなフェラーリ「250テスタロッサ」は、現代の「ブガッティ・オトモビル(Bugatti Automobiles SAS)」社との正式コラボ事業として「ブガッティ ベベII」を製作したことでも知られるジュニアカーのスペシャリスト「ザ・リトル・カー・カンパニー(The Little Car Company)」が、2022年にフェラーリからオフィシャルのライセンスを受けてハンドメイド製造。オリジナルサイズの3/4スケールで、5.4kWの電動モーターを搭載して、大人のドライバーを乗せても走行可能とされている。また、最大299台が限定生産されるうちのシリアルナンバー「061」で、現時点では新品未使用とのことであった。
このフェラーリ250テスタロッサのジュニアカーに、ボナムズ社は8万5000~12万5000スイスフラン(邦貨換算約1564万円〜2300万円)という驚くべきエスティメート(推定落札価格)を設定。そのうえで「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」での出品となった。
この「リザーヴなし」という競売形態は、価格の多寡を問わず落札できることから、とくに対面型オークションでは会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が跳ね上がる傾向もある。その反面、たとえ価格が売り手側の希望に到達しなくても、強制的に落札されてしまうリスクも内包している。
バイヤーの審美眼が年々シビアになっている
今回の「THE BONMONT SALE」においてはリザーヴなしの効用が存分に発揮されたようで、終わってみればエスティメートが予想したとおりの8万6250スイスフラン、つまり日本円に換算すれば約1590万円で落札されることになったのだ。このハンマープライスは、たとえば日本のユーズドカー市場におけるフェラーリでいうなら「カリフォルニアT」あたりの中古車を入手することも可能な金額である。
「チルドレンズ・カー」あるいは「ジュニアカー」を蒐集するコレクターは、欧米には数多く存在するばかりか、専門のミュージアムもいつくか設立されている。国際オークションでは重要なアイテムとして取引されていることは、これまでにもお話してきたとおりながら、それだけにバイヤー側の審美眼も年々シビアなものとなっている。
そんな状況下にあって、このザ・リトル・カー・カンパニー社製テスタロッサ・ジュニアは、エクステリア/インテリアともに素晴らしいできばえで、写真を一瞥しただけではオリジナルの250テスタロッサと見間違えてしまいそうなほど。
またワイヤホイールは、たとえ高級なジュニアカーであってもスポークの粗い、自転車のようなものに甘んじている事例が多いなか、このテスタロッサはちゃんと純正の「ボラーニ」に見える、アルミリムのホイールを履いており、前輪にはホンモノと同様ディスクブレーキも覗いているなど、ディテールに至るまでしっかりと再現されている。
フェラーリ250テスタロッサという、時代を超えた大人気モデルであること。フェラーリの公式プロダクトであることにくわえて、この徹底した作り込みと仕上げの美しさがもたらす圧倒的なクオリティ感が今回の高評価にも多大な影響を及ぼしたとみても、間違いはあるまい。
