サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

“卵の殻とウニ”でクルマのパーツを作る!?ホンダ・トヨタ・日産が挑む次世代素材【Key’s note】

自動車用プラスチック代替素材を自然界に求める

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のお題は「自動車の素材」についてです。クルマの進化は、エンジンやEVだけではありません。じつはいま、自動車の「素材」が静かに変わり始めています。石油に頼らず、自然と共にモノづくりを行う“見えない場所の革命”。日本の自動車メーカーが仕掛ける新しい挑戦は、未来のクルマづくりを根本から変えようとしています。

石油に頼らない!自然由来の素材は海の厄介者も

日本のモノづくりには、いつの時代も妙に粋なところがあります。見えないところに魂を込める、いかにも日本的な美意識を感じるものです。

じつは最近、その「見えない場所」で、ホンダやトヨタ、そして日産までもが静かな革命を進めています。舞台はクルマの素材です。主役は……植物と、卵と、ウニ。まるで料亭の献立のようですが、これが最先端の環境技術なのです。

バイオマス素材とは、簡単に言えば「植物など再生可能な資源を原料とした素材」です。石油に頼らず、自然の循環のなかにモノづくりを溶け込ませるという考え方です。

プラスチック分野では、石油由来樹脂の代わりに植物由来の樹脂を使うケースが増えています。軽量化による燃費向上、CO₂排出の削減、リサイクル性の向上。これに加え、企業側としては、世界的に課される「脱炭素」という宿題に、スマートかつ文化的な回答を示すことができます。

ホンダの素材戦略を語る上で欠かせないのが、グループ会社の森六グループです。同社は日本経済新聞でも記事化されていました。

この会社が粋なことをしています。卵の殻、貝殻、さらには竹といった“身近な自然素材”を活用して、自動車内装用の樹脂や複合材料を開発しているのです。

卵の殻は炭酸カルシウムが豊富で、樹脂に混ぜると軽くて丈夫な素材になります。貝殻は耐久性と質感を向上させ、竹はしなやかで再生速度が速く、まさに理想的なエコ素材です。まるで自然界の知恵をそのままクルマの中に持ち込んでいるかのようです。

一方、天下のトヨタも抜かりありません。すでにプリウスではバイオPET樹脂を一部部材に導入し、レクサスにも展開しています。素材の耐久性・成形性・リサイクル性を高次元で両立させようという、いかにもトヨタらしい緻密な戦略を進めています。

加えて、木質バイオマスや農業残渣など多様な資源も視野に入れ、素材サプライチェーン全体から脱炭素を進める構えです。まるで戦国時代の兵糧攻めのような包囲網を敷いています。

そして忘れてはならないのが、日産です。同社はなんと、「ウニの殻」から得られる炭酸カルシウムを樹脂材料に活用する技術を研究中といいます。海辺の厄介者だったウニが、クルマの一部に生まれ変わるというのは驚きです。

通常、炭酸カルシウムは鉱物を採掘して得るため環境負荷が高いのですが、ウニ殻を再利用すれば廃棄物を資源に変え、採掘によるCO₂排出も減らせます。消臭効果も期待できるそうです。まさに海のごみが走る未来の素材になるのです。

見えないところにさりげなく仕込むところが「粋」

環境問題を「敵」とせず、自然そのものを「仲間」に引き込む。この発想の転換は見事としか言いようがありません。

これらの素材は、どれも派手に表舞台に立つわけではありません。インテリアの裏地や構造部品など、普段は誰も気にしない場所にひっそりと使われています。

しかし、見えないところにこそ未来を仕込むのが、日本のモノづくりの粋です。クルマという鉄と油の塊に、森の恵みや海の恵みを忍ばせているのです。

数万台のクルマが、もしこうした自然素材で組み上がったとしたら、それは数字を超えた“物語”になります。EVの航続距離や馬力の話よりも静かに、しかし確実に未来を変えるのは、この素材革命なのかもしれません。

モバイルバージョンを終了