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かわいすぎる2人乗りマイクロカー!BMW「イセッタ300」が約314万円で落札

2万1280ドル(邦貨換算約314万円)で落札されたBMW「イセッタ300」C)Bonhams

現在のクラシック・マイクロカー市場は鎮静化?

BMW「イセッタ300」が、2025年8月のオークション「ボナムズ・ザ・クエイル2025」に登場しました。戦後1955年から生産されたイセッタは、西ドイツを象徴する“バブルカー”として知られる全長わずか2.3mの超コンパクトカー。前開きドアや愛らしいデザインで世界中のコレクターに愛されています。今回の落札価格は、かつての熱狂が落ち着きを見せつつも、今なお高い人気を保っていることを示しています。

イタリア生まれのドイツ育ち!BMW版は16万台を販売する大ヒット作に

一連のキャビンスクーターのなかで、巷で「バブルカー」とも呼ばれる象徴となったBMWイセッタは、1954年から1962年にかけて、イタリアの自動車メーカーである「イゾ」社からライセンス供与を受けた、旧西ドイツのBMWによって生産された。

当初のイゼッタ(BMW版のイセッタと呼び名が微妙に異なる)は、イゾ社のモーターサイクル「ISO Motto 200」をベースに前2輪/後1輪の3輪レイアウトを採用した。同社で生産していた冷蔵庫からヒントを得たという前開きドアを持つ、シェル状のボディと組み合わされた。

しかしこの三輪レイアウトは転倒しやすいと評されたことから、安定性を高めるため後輪をナロートレッドとした4輪スタイルに改良された。これにより「イゾ・イゼッタ」が誕生した。

そのいっぽうで、イゾ社のオーナーであるレンツォ・リヴォルタはイゼッタの設計を複数国にライセンス供与しようと目論んでいた。そのような思惑があるなか、1954年に伝説のロードレース「ミッレ・ミリア」において、驚異的な燃費性能のおかげで入賞を果たしたイゾ・イゼッタが西ドイツのBMWの目に留まった。BMW首脳陣は、この小さなクルマの大きな可能性を認識した。大幅な設計変更を経て、生産を開始することにしたのである。

当時、イゾ版「イゼッタ(小さなイゾの意)」はフィアット「500」や「600」との厳しい競争により、イタリア国内では冷ややかな反応を受けてしまった。そのいっぽうで、BMW版の「イセッタ」は第二次大戦後の惨禍と戦後のインフレに苦しんでいた西ドイツを中心に爆発的人気を博した。結果として、単気筒車では世界最多セールスとなる約16万2000台が生産された。

全長約2290mm、全高約1350mm、全幅約1370mmという超小型ながら、極めて効率的に設計されたイセッタは、まるで漫画やアニメのキャラクター、あるいは「ゆるキャラ」のような魅力を持つ。フロントエンドに二重ヒンジで取り付けられたフロントドアを開けると、金魚鉢のような車内空間が現れ、ベンチシートに2名が乗車する設計だ。

また、西ドイツ国内ではオートバイの免許のみでも運転できることから、戦後の復興期にあった同国では、重要なベーシックモビリティとして大いに重用された。

バブルカーのバブル景気はどうやら鎮静化の傾向にある

1955年4月の発売当初、BMW版イセッタは同社のモーターサイクル「R25」用の4ストローク単気筒OHV・12psエンジンを搭載してスタートしたものの、翌1956年2月には13psを発生する298ccの4ストローク単気筒エンジンを搭載した「イセッタ300」へと移行した。乾燥重量700ポンド(約320kg)の車体は0→97km/h加速に28秒を要したものの、1Lあたり約24.3kmの燃費を達成した。

今回、ボナムズ社の「The Quail 2025」オークションに出品されたBMWイセッタは、1958年7月1日に西ドイツ・バイエルン州ミュンヘンのBMW本社工場からラインオフしたと伝えられる、イセッタ300である。3輪車に優遇税制のある国向けに作られた3輪版ではなく、通常のナロートレッドの4輪版だ。ロールトップ式サンルーフを備えるほか、固定式サイドウインドウと組み合わされた換気用のスライド式ガラスパネルを持つ。

後期モデルの特徴であるスライド式のサイドウインドウと同様に、リアデッキには非常に便利なラゲッジラックも設置されていた。これは、コックピット内の収納スペースが限られているためである。

イセッタ300の現在に至る来歴は不明であるものの、過去にレストアが施された痕跡がある。現在では現役当時の純正オプションであったブルーとアイボリーの2トーン塗装が施されている。

アイコニックなクローム仕上げのミニバンパーと、まるで昆虫の目のようなヘッドライトが特徴だ。ウインドスクリーンの中央に1本のワイパーを備え、そのすぐ下にはBMWのエンブレムが配されるという、イセッタのオリジナルを体現した仕立てとなっている。

ボナムズ社の公式WEBカタログでは

「このスマートな小型イセッタは、BMWのマイクロカー史における特別な逸品として優れた収集価値を持つだけでなく、サンルーフを開けた状態であっても最高速度50mph(約80km/h)で駆け抜け、その後、オートバイ用スペースに駐車するという忘れがたい体験を提供してくれる」

という、ユニークなPRフレーズが謳われていた。2万ドル~3万ドル(邦貨換算約296万円〜444万円)という現在の市場動向をよく分析していると見られるエスティメート(推定落札価格)を設定した。

また、この出品車両については「Offered Without Reserve(リザーブ=最低落札価格なし)」で行うこととした。

「リザーヴなし」という出品スタイルは、入札価格の多寡を問わず確実に落札されることから競売会場の購買意欲が盛り上がり、エスティメートを超える勢いで入札が進むこともある点がメリットである。しかしその反面、たとえ出品者の意にそぐわない安値であっても落札されてしまうという不可避的な落とし穴もある。

こうしてオークション当日を迎えた。ゴルフクラブ内に設けられた巨大な特設テント内のステージで開催された競売では、2万1280ドルで落札された。現在の為替レートで日本円に換算すれば約314万円という、エスティメート範囲内に届いた価格は、バブルカー相場が少なからず鎮静化していることを物語るハンマープライスである。

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