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何が起きた!? シトロエン「2CV6」を約700万円でオークションに出品

2万5000ポンド〜3万5000ポンド(邦貨換算約507万円〜約710万円)で現在も販売中のシトロエン「2CV6」(C)Bonhams

流通相場の2倍以上のエスティメートを設定した暴挙

ボナムズ社は、2025年9月にグッドウッド・サーキットで開催されたイベント「グッドウッド・リバイバル2025」の公式オークションで、フランスの国民車として親しまれたシトロエン「2CV6」を出品しました。右ハンドル仕様の1984年式で、長年大切に維持されてきた個体です。ボナムズはこのクルマに高額なエスティメートを設定。入札者の注目を集めましたが、落札には至りませんでした。今回はこの異色の1台を紹介します。

42年間・約400万台が生産されたフランスの「ブリキの缶詰」

1948年のパリ・サロンにてデビューしたシトロエン2CVは、ショー会場では「ブリキ缶詰」などと揶揄されたそうである。しかし、いつしかフランスの「農具」あるいは「民具」として周知されるようになった。第二次世界大戦後を代表するクラシックな量産車のひとつとして、フォルクスワーゲン・タイプ1やクラシックMini、ランドローバー(初代ディフェンダー含む)と並び、それまで前例のなかった42年間にもわたって生産が続けられた。

当時としては革新的なテクノロジーと、シンプルで実用的なボディワークを組み合わせた2CVは、維持費もランニングコストも安かった。とくに当初ターゲットとしていたフランス農村部のマーケットを考慮すると、ロングストロークの前後連動サスペンションによる走破能力はきわめて重要なセールスポイントとなった。耕したばかりの畑であっても容易に走破できてしまう能力は、当時のユーザーにとって不可欠であった。

オリジナルの375cc空冷水平対向2気筒エンジンは、1954年には425ccに拡大された。

1968年に追加設定された「2CV6」では602ccまでスケールアップしたものの、走行性能は農具プラスアルファという程度のままだ。スペック上の最高速度は110km/hと、あくまで控えめな数値であった。それでも広々とした室内空間、ルーフの全長と全幅を占めるサンルーフ、そして倹約的な燃料消費量が、大多数のユーザーにとっては遥かに重要な要素であったため、パフォーマンスはさほど問題視されなかったのである。

2CVは乗用ベルリーヌ(セダン)のほか、商用モデルや軍用モデルも製造された。前者の小型配送バンは「フルゴネット」として1951年に初登場している。また1970年代以降は最上級の2CV6がシリーズの主軸となり、日本でも大人気を得た「チャールストン」や「ドーリー」など、それをベースとした数々のスペシャルモデルが発売されることになる。

そして1988年、フランス国内生産最後の2CVがルヴァロワ・ペレ工場をラインオフした日は、多くの人々にとって悲しみの日となった。その後もポルトガルでの生産は2年間継続され、1990年7月27日に生産が終了するまでに、全タイプ・シリーズ合わせて約400万台の2CVが製造された。これにより、シトロエン史上もっとも成功したモデルとなったのである。

2年前にエンジン換装など30年間大切に扱われてきた個体の価値を問う

このほど、ボナムズ「Goodwood Revival Collectors’ Motor Cars and Automobilia 2025」オークションに出品されたシトロエン2CV6は、英国に輸出された右ハンドル仕様車だ。

シトロエンは1926年から1966年まで、英国バークシャー州スラウに生産工場を設けていたが、この個体は1984年にフランス、ないしはポルトガルで生産された車両と推測される。約30年間にわたって英国内の一家族に所有され、2019年に購入者である夫が逝去したのち、今回のオークション出品者である現在の女性オーナーに引き継がれた。

このクルマは、家族の地元であるサフォーク州バックルシャムの大手自動車修理会社「ニック・ドンカスター」社によって定期的に整備されていた。フラットツインのエンジンは2年前に交換された旨も申告されていたという。

このような記録からも、この2CV6は生涯を通じて大規模なメンテナンスや補修を受けてきたようで、約6年前にはシャシー交換と再塗装、それ以降も定期的なワックスオイル処理が施されてきたとのことである。

ボナムズ・オークション社はこれらの整備履歴に自信を得たのか、あるいは現オーナーが近年に行った大規模修理の経費を回収しようとしたのかは不明だが、2万5000ポンド〜3万5000ポンド(邦貨換算約507万円〜約710万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定した。この時代のシトロエン2CV6は概ね200万円前後、コンディションの優れた希少なスペシャルバージョンであっても300万円以内で推移していることを思えば、これは格別に高額な設定であった。

迎えた9月13日のオークション当日、マーチ卿の所有するグッドウッドの広大な荘園内の特設会場で開催された競売では、出品者側が期待したほどにはビッド(入札)が伸びなかったようだ。結果は残念ながら「No Sale(流札)」となった。現在では同じエスティメートを提示したまま、ボナムズ社の営業部門による個別販売が継続されているようである。

公式オークションカタログでは、前後に取り付けられた「LOT 2」というナンバープレートに、車両代に匹敵するプレミアム価格がつくかもしれないというPRがあった。これは、登録ナンバー記録の持越しや売買ができない日本人には理解しがたいプロモーションである。

しかも、この2CV6は明らかにノンオリジナルで、黄色と黒という好みが分かれるシート生地に張り替えられているなど、見た目の魅力もほかの個体に比べて決して高くはなさそうだ。やはり、今回設定されたエスティメートの段階からして、少々オプティミスティック(楽観的)に過ぎたように感じられた。

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