20世紀のジュニアカーを復刻させた大人向け特別仕様車
2025年10月8日から12日にかけてベルギーで行われた「ザウテ・グランプリ・カー・ウィーク」のオークションには、子ども向けに作られたジュニアカーも出品されました。そのなかで注目を集めたのが、伝説のフェラーリ330P2を約5分の3サイズで再現した「330 P2 コレクターズエディション」です。車両のあらましとオークション結果をお伝えします。
ブガッティの高級レプリカ車で有名なド・ラ・シャペルの作品
1965年、国際スポーツカー選手権で猛威を揮いつつあった「フォードGT40」が新たに7LのV8エンジンの搭載を準備していることが判明した。それまで最強を謳歌していたフェラーリは、ビッグブロックV8の圧倒的パワーに対抗すべく、4カムシャフトの4L V12を搭載した「330 P2」を開発した。
このマシンは緒戦のニュルブルクリンク1000kmでいきなり優勝、モンツァでは2位入賞を果たし、その戦闘力を即座に証明した。また、のちの名作「330 P3」や「330 P4」に至る道筋の端緒にもなった。
目覚ましい速さを誇るかたわらで、330 P2は見るものを魅了する真の美しさをも備えていた。「風洞」ではなく「風」によって彫刻されたかのようなスパイダーは、「カロッツェリア・ファントッツィ」によって架装された、曲線美あふれるボディを纏っていた。
そして約25年の時を経たのち、この伝説的スポーツレーシングカーの精神は、1978年創業のフランス自動車メーカー「ド・ラ・シャペル(De La Chapelle)」により、ボディサイズを幾分縮小して受け継がれていることになる。
20世紀初頭のリヨンにルーツを持つカロジエ(コーチビルダー)「オトモビル・スティムラ・ド・ラ・シャペル(Automobiles Stimula De La Chapelle)」の家族的遺産を継承する同社は、自社製シャシーに量産車のコンポーネンツを組み合わせることによって象徴的な名車の再現を専門とした。1980年代には「ブガッティT55」を高度に再現した高級レプリカ車を製作している。バブル期真っ只中の日本では「デラシャペル」の名で、かなりの数が輸入されていた。
のちにジュニアカー「ジュニア・ド・ラ・シャペル」シリーズでラインナップを拡大。その代表作となったのが、かの「ル・マン・クラシック」にてレース間に行われる子供レーサー向けエキシビション「リトル・ビッグマンズ」にも使用されてきた初代「クラシック330 P2 ジュニア」である。さらにロングセラーとなったこのモデルでは、今世紀になって大人のコレクターに向けた特別仕様車「330 P2コレクターズエディション」も企画された。
富士重工ロビンエンジンを搭載した5分の3サイズのフェラーリ
ド・ラ・シャペルの現代版オマージュモデル「クラシック330 P2 ジュニア」のなかでも、20台未満しか製造されなかった「330 P2コレクターズエディション」は、正確なスケールで再現されたボディをソリッドブラックで仕上げ、カバー付きヘッドライトと金色のアルミホイールを装備している。
1960年代に隆盛を極めた伝説の公道レース「タルガ・フローリオ」で使用されたシチリア島内の公道コース「チルクイート・ピッコロ・デッレ・マドニエ」に完璧にマッチしていたスペックを、約5分の3サイズで再現していた。
メカニズムについては、排気量169cc・6.5psの電気始動式4ストロークの富士重工(現SUBARU)製「ロビン」エンジンを搭載する。クラッチレスのトランスミッションとリバースギア、油圧式ディスクブレーキ、ハンドブレーキを備える。
また充実したインテリアには、ポジションの調整が可能なレザーバケットシート、カーペット敷きのフロア、機能的な計器類を備えたカスタムブラッシュドステンレスのダッシュボード、ニス仕上げの木製ステアリングホイール(研磨ステンレススポーク)が採用されている。さらには、本物のカンパニョーロ製アロイホイールを忠実に模したセンターロックホイールは、三本爪のスピンナーで固定されている。
先ごろ、ブロードアロー・オークションズ社の「Zoute Concours」オークションに出品された個体は、20台弱が製作されたうちの1台だ。2010年に現オーナーが新車として購入した後も極めて良好な状態で慎重に保存され、その後ほとんど使用されていない。
この330 P2 コレクターズエディションは、1987年よりド・ラ・シャペル社が製造していた元祖クラシック330 P2 ジュニアと比べると、全年齢の愛好家に適合させるため、主にコックピット周辺を若干大型化。未来のレーサーから大人のコレクターまで、幅広く支持されることを意図していた。
限定20台の希少性はあるが市場からの評価は「流札」
今回出品されたド・ラ・シャペル330 P2 ジュニアについて、ブロードアロー・オークション社の公式オークションカタログでは「エンスージアストの喜びの源であり、芸術作品として末永く愛される運命にあります」とアピールするかたわら、出品者である現オーナーとの協議のうえ、3万ユーロ〜4万ユーロ(邦貨換算約530万円〜約705万円)のエスティメートを設定した。さらに競売において最低落札価格を設定しない「Offered Without Reserve(リザーヴなし)」とした。
この「リザーヴなし」という出品スタイルは、金額を問わず確実に落札されることからオークション会場の雰囲気が盛り上がり、入札(ビッド)が進むことも期待できる。その一方で、たとえ入札が出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札を止められないというリスクも持ち合わせる。
ところが迎えた10月10日の競売では、リザーヴなしでありながらも流札となった。オークションのスタート価格から入札(ビッド)が無かったためである。その後は「Inquire For Price(価格応談)」という表示とともに継続販売とされていたが、ほどなくエスティメート下限を大きく割り込む2万ユーロ(邦貨換算約352万円)で個別セールスが成立した。
