アバルト製ジャイアントキラーマシンに感動!
フィアットワークス「プントS1600」展示!?
2026年2月、大阪オートメッセ会場。600台超のカスタムカーに紛れ、本物のラリーカーが1000万円超で販売されていました。2000年WRCサンレモラリー優勝を飾ったフィアット「プントS1600」そのものでした。なぜ歴史的価値を持つアバルト製ワークスマシンが日本に現存するのか。NA1.6Lで215馬力を絞り出す驚異のメカニズムと、魔改造の全貌を紐解きます。
WRCの名門マニュファクチャラーが作った
アバルト共同開発「キットカー」は優勝車両
600台以上のカスタム&チューニングカーが展示された大阪オートメッセ2026。そのなかでSNSを静かにざわつかせていた1台が、リアルなWRC(世界ラリー選手権)に出場履歴のあるレーシングマシンのフィアット プントS1600だ。
展示車両の前を通り過ぎる多くの来場者は、可愛らしいコンパクトカーが派手なカラーリングを纏っている程度にしか思わなかったかもしれない。しかし、WRCの歴史を知る者にとっては、思わず足を止めて見入ってしまうほどのオーラを放つマシンなのだ。
このモデルは、2001年から始まるFIAジュニアWRCスーパー1600クラスに出場するため、プントHGTをベースに「フィアット&アバルト」が共同開発して誕生したマシンである。フィアットとしては、2001年から始まるS1600クラス用マシンのための開発テストとして2000年からWRCに参戦。当時のラリー界においては、それまでのプジョー306 Maxiやルノー・メガーヌ MaxiなどのF2クラスの「キットカー」が、あまりにもメーカー間の覇権争いが加熱し価格が高騰したため、FIA(国際自動車連盟:F1やWRC、WECなどを司る団体)がS1600クラスを新たに設けることにしたのだ。新たな「キットカー」は量産車をベースにしながらも、FIAが定める厳格なルールの範囲内で改造が許されたマシンのことを指す。
このフィアット&アバルト製のキットカーをもっとも特別な存在にしているのが、その輝かしい戦歴である。単なるカッティングシートを貼ったレプリカモデルではない。2000年のWRCシリーズ第5戦カタルニアラリーでA6クラスとして実戦投入され、同年第12戦サンレモラリーA6クラスにおいて、フィアットにとってじつに19年ぶりとなるWRCで(クラス)優勝を飾ったマシンとなった、まさにその車両そのものなのである。その時の同クラスのライバルは、今やWRC界の超スター選手となったセバスチャン・ローブが駆るシトロエン・サクソのキットカーだ。
サソリの毒が注入され1.6LNAで215馬力!
アバルト魂宿る「ワイドボディ」が大迫力!!
名門アバルトが持てる技術をすべて注ぎ込んだこのマシンには、SE(speciale esecuzione:特別仕様)コード「SE081」が付けられている。まさに戦うためのサラブレッドだ。ベースエンジンは、市販モデル「プントHGT」は1.8L DOHCエンジンだが、2001年から始まるS1600クラスのレギュレーションに合わせ、ショートストロークのクランクシャフトやピストンを採用し、そのクラスの規定に合致させるために排気量を1579ccへとダウンサイジングした。
緻密に組み上げられたエンジンから絞り出されるパワーは、マニエッティ・マレリ製エンジン制御コンピューター(ECU)によって1600ccの自然吸気エンジンながら215馬力(!)を発揮する。ボディ側も、プントHGTをベースにしつつ、車輪幅のワイドトレッド化を図り左右で122mm拡大した。さらにエンジンフードやドアをアルミ製とすることで徹底的な軽量化が図られている。
サスペンションにはビルシュタイン&アイバッハをセット。リアサスペンションに至っては、構造をトレーリングアーム&ラジアスアームの独立懸架式へと変更している。一見すると市販車の面影を残しているものの、中身はまったく別物の「モンスターマシン」へと変貌を遂げているのだ。
サラッとWRC勝利マシンのモノホンを展示
大阪オートメッセの奥深さと可能性に昂る!!
驚くべきは、出自とコンディションだ。展示車両は、かつて日本のチンクエチェント博物館の所有車だったが、巡り巡って現在のオーナーの手に渡ったという。大阪府和泉市「ピアレス」が持ち込み、メンテナンスは「PXエンジニアリング」の手で、エンジン、ギヤボックス、サスペンションなどラリー参戦した時のように完璧にリビルトされている。今回、会場まで自走で搬入したピアレスの担当者はこう語る。
「ナンバーマッチングの車両で来歴も間違いないので、たとえばこれからFIAクラシックカーラリーに出たいという方であれば、HTP(ヒストリック・テクニカル・パスポート=歴史的車両技術証明書)も簡単に取得できます。実際に走らせてみると、ハンドリングもクイックでエンジンもむちゃくちゃ速かったですね。ただ、ヒューランド製競技用シーケンシャル変速機なので作動音がかなり室内に響きます。競技車両なので内装も防音材もありませんから、耳栓をしてヘルメットを被って乗るクルマかもしれません。今の時点では走行に問題ありませんが、レースに出るなら燃料タンク内ブラダーバッグ(燃料用安全タンクのインナーバッグ)は期限があるので交換したほうがいいかもしれませんね」
取材時点でオーナーは売却も考えており価格は応談としているが、1000万円以上は確実なところだろう。イタリアの宝を活かしてくれるオーナーがいれば、ぜひ受け継いでほしいという。伝説の勝利を刻んだサソリの毒をもつマシンを、うなされながら毎晩、自分のガレージで見ることができ、走っては毒の刺激を味わうことも可能だ。
一方、大阪オートメッセという華やかな舞台の片隅で、WRCファンやイタリア車の熱狂的なファンを唸らせたこの「激アツ」な出会いは、あらためて大阪オートメッセの奥深さと可能性を感じさせてくれる展示であった。
