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ホンダやトヨタが挑む! ラグビー最上級リーグの知られざる熱狂と折れない骨格【Key’s note】

三重ホンダヒート:勝敗を超越した姿勢に魅力が宿る。ノーサイド直前での執念のトライ

勝敗を超えた先にある叙情詩! 自動車メーカーが支える企業チームの矜持

レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語ってくれるのが「Key’s note」です。今回のお題は、企業スポーツとプロスポーツの狭間で揺れるラグビーのトップリーグ「リーグワン」における、三重ホンダヒートの戦いについてです。秩父宮ラグビー場での熱戦と、隣り合う神宮球場との対比から見えてきた、競技の真髄と企業チームが果たす役割について独自の視点で綴ります。

敗戦の底に見た執念のトライ。リーグワン観戦で気づいた、スコアを超え人々の心を揺さぶるラグビー競技の「戦う姿勢」

先日のこと、ラグビーのトップカテゴリーであるリーグワンの「三重ホンダヒート対ブラックラムズ東京戦」を観戦しました。

秩父宮ラグビー場の芝は、どこか静かな熱を孕んでいました。満員というわけではありません。しかし、観客の視線は濃く、ひとつひとつのプレーに宿る意志を確かめるようにピッチへ注がれていました。

私はホンダヒートの応援席で観戦したこともあり、気持ちはホンダヒートにありました。試合は惨敗でした。あと一歩、いや結構な大差で敗れたのですが、スコアボードの数字よりも鮮明に記憶に残るのは、彼らの身体の軌跡でした。

ぶつかり、倒れ、立ち上がり、また走る。その反復は単調に見えて、じつは極めて詩的です。ラグビーという競技は、痛みを媒介にした叙情詩のようなものだと、ふとそんなことを思いました。

ゲームは圧倒的劣勢で、ノーサイド直前まで得点0に封じ込められてはいたものの、最後の最後で執念のトライを決めました。スタンドは、まるで勝利したかのような盛り上がりを見せたのです。つまり、ラグビーは勝ち負けではなく、戦う姿勢に魅力が凝縮されているように感じました。

日本におけるラグビー人気は、しばしば「代表戦頼み」と言われます。ラグビー日本代表が世界の舞台で躍動するとき、街はにわかに色づき、普段は楕円球に縁のない人々までが歓声を上げます。しかし、その熱は長くは続きません。まるで打ち上げ花火のように、鮮やかであるほど、消えたあとの夜空の静けさが際立つのです。

個人的には古くからラグビーを観戦し続けてきていたため、そんな風潮にいささかの寂しさを感じるものの、それでもこうして東京のど真ん中で観戦できることを嬉しく思います。

企業カラーと地域愛が交錯するリーグワンの熱源。プロと社員選手が混ざり、独自進化を遂げるラグビー界の「企業スポーツ」現在地!?

ところで、その静けさのなかでプレーする者たちは何者なのでしょうか。企業チームという呼び名はどこか無機質で、スポーツの純粋性と距離を置いているようにも聞こえます。

本田技研工業を母体とする三重ホンダヒートのメンバーもまた、企業スポーツ選手です。昼間はホンダ社内で仕事をして、午後に練習に参加する者もいます。彼らはホンダからの給与が生活の糧であるため、プロスポーツ選手とは呼べないかもしれません。一方で、ラグビーだけで収入を得ているプレーヤーはプロです。その中間のプレーヤーも存在します。企業スポーツがセミプロと呼ばれる所以はそこにあります。

リーグワンは、ラグビーのトップリーグのことです。3部制のピラミッド型であり、三重ホンダヒートはそのなかの最上級、ディビジョン1に属しています。

リーグワンの理念は、日本ラグビーのプロ化と高度化にあります。そのために、地域密着を目指してホームタウン化を進めているのです。チーム名に地域名が加わるのはそのためです。

注目すべきは、世界トップクラスの選手がプレーするものの、企業スポーツらしく企業カラーと地域文化が混ざり合う、独特の空気を持っている点です。

ちなみに、リーグワンにチームを持つ自動車メーカーは少なくありません。ホンダは三重ホンダヒート、トヨタはトヨタヴェルブリッツ、日野は日野レッドドルフィンズとして挑んでいます。

サッカーもかつては企業スポーツでしたが、Jリーグが成功したことから、現在はほぼプロチームとして展開しています。名古屋グランパスはトヨタ、横浜F マリノスは日産、浦和レッズは三菱を母体としており、企業チームがプロ化した好例です。いっぽうで、ホンダFCのように現在もあえてプロ化せず、アマチュア最高峰の企業チームとして独自の存在感を放つ例もあります。

プロ野球の喧騒背に、聖地・秩父宮で触れたラグビーの本質。企業スポーツという「折れない骨格」が紡ぐ、執念と持続の叙情詩

この日はラグビーの聖地である秩父宮ラグビー場での観戦でしたが、その隣の神宮球場ではヤクルトスワローズ対読売ジャイアンツの試合が行われていました。

秩父宮の観客席からは、神宮球場の電光掲示板が見えます。さすがにプロ野球人気は凄まじく、大歓声がこちらまで届いてきました。その対比が、プロスポーツとセミプロスポーツの違いを如実に伝えていたように思います。スタンドで観ていると、不思議な感覚にとらわれます。選手たちは企業に属しながらも、同時にどこにも属していないように見えるのです。

あの日の敗戦は、確かに悔しさを残しました。しかし同時に、どこか清々しさもありました。結果がすべてではない、と言うのは簡単ですが、結果に届かなかった過程にこそ次の可能性が宿るという感覚は、スタンドにいた誰もが共有していたのではないでしょうか。

ラグビー人気は、これからも波のように寄せては引くのでしょう。大きな大会のたびに盛り上がり、そのあとに静けさが戻る。その繰り返しのなかで、企業チームは変わらずピッチに立ち続けます。

芝の上には、今日もまた無数の足跡が刻まれていきます。やがてそれは風に消され、次の試合には何も残りません。しかし確かに、その瞬間は存在しました。三重ホンダヒートのプレーは、その「消えていくものの確かさ」を、静かに教えてくれます。

そして気づくのです。ラグビーという競技の本当の魅力は、喝采の大きさではなく、続いていくことそのものにあるのだと。企業スポーツとは、その持続を支えるための、いわば見えない骨格です。華やかではありませんが、決して折れることのない骨。そこにこそ、この競技の未来が宿っています。

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