最高約1億7500万円の予想が付けられたホンダ「NSX-R」が流札
イタリアで開催されるヒストリックカーイベントの併催オークションに、2003年式のNA2型ホンダ「NSX-R」が出品された。生産台数わずか140台という希少性に加え、ホンダ公式のメンテナンスによって新車同様の状態へと蘇った特別な1台である。日本のピュアスポーツカーが世界のクラシックカー市場で大きな注目を集めるなか、極上のコンディションを保った国産スポーツの至宝が欧州の由緒ある舞台でどんな評価を受けるのか注目した。
ニュルブルクリンクで当時のフェラーリに匹敵するタイムを記録
2002年に登場した第2世代のホンダ NSX-Rは、同社の「タイプR」哲学を究極まで突き詰めたモデルである。3.2リッターのV型6気筒DOHC VTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)エンジンは、レーシングカー譲りの高精度なバランス取りが施され、最高出力290PSを発揮する。
徹底した軽量化と空力性能の向上により、テストドライバーである黒澤元治氏のドライブによって、過酷なニュルブルクリンク北コースで7分56秒というラップタイムを記録した。これは、100PS以上も出力で上回る当時のライバル、フェラーリ「360チャレンジストラダーレ」と同等のタイムであり、ホンダ NSX-Rの優れた基本設計とシャシー性能を世界に見せつける結果となっている。
ホンダ公式のリフレッシュプランで1200万円以上をかけて復元
今回のオークションにおいて、この個体にはエスティメート(予想落札価格)として85万ユーロから95万ユーロ(約1億5700万円〜1億7500万円)という高額な設定がなされていた。
最高約1億7500万円という評価が付けられた最大の理由は、この個体が受けてきた完璧なメンテナンス履歴にある。2022年から2023年にかけて、ホンダ公式の「NSXリフレッシュプラン」が実施されているのだ。
エンジンやトランスミッションの完全なオーバーホールをはじめ、サスペンションやブレーキパーツの刷新、さらにはチャンピオンシップホワイトへの全塗装など、その作業工程は徹底している。このリフレッシュに費やされた金額は1200万円以上にのぼり、ホンダ公式の認定プレートがその品質を証明している。
現在、NSXのリフレッシュプランは純正部品の枯渇や熟練工の確保が難しくなっており、受付そのものが長期間停止(あるいは極めて困難な順番待ち)の状態にある。そのため、すでに公式リフレッシュを完了している個体は、今後「お金を出しても作れない」という決定的なアドバンテージを持ち、高い価値を獲得しているのである。
独自の専用装備で公道を走るレーシングカーとしての純度を高める
リフレッシュされた車両は、NA2型ならではのストイックな機能美を放っている。エクステリアには、アウトレットダクトを備えたカーボン製ボンネットや、世界初の一体成型カーボン製リアスポイラーが備わり、強力なダウンフォース(車体を路面に押し付ける空気の力)を発生させる。
インテリアに目を向ければ、赤いアルカンターラ表皮のレカロ製カーボンフルバケットシートや、チタン製のシフトノブがドライバーを迎え入れてくれる。足元には専用のBBS製軽量鍛造ホイールが輝き、公道を走るレーシングカーとしての純度を高めている。
高騰するJDM市場において買い手たちが冷静な判断を下す
日本のワインディングロードで走りを堪能されたのち、公式レストアを経て新車同様の輝きを取り戻したこのホンダ NSX-Rであったが、オークションの結果は「Not Sold(流札)」に終わった。出品者の希望価格(最低落札価格)と、競売場に集まったバイヤーたちの入札額が折り合わなかったことを示している。
最高約1億7500万円というエスティメートは、過熱するJDM(日本国内市場向けモデル)市場への期待を込めたものであったが、欧州のコレクターや投資家たちは冷静な眼光で実勢価格を見極めたといえる。しかし、流札となった事実は車両の価値を否定するものではない。1200万円以上を投じたメーカー公式の整備履歴と極上のコンディションは不変であり、過熱した相場が適正化していくプロセスのなかで、この個体が持つ本質的な価値は今後も高く評価され続けるはずだ。
※為替レートは1ユーロ=185円(2026年7月26日時点)で換算
