サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

BMW「3.0CSL」が3000万円オーバーで売出中! 往年のツーリングカー選手権のレプリカは「ル・マン・クラシック」参戦実績がありました

19万ユーロ~25万ユーロ(邦貨換算約3125万円〜4110万円)で販売が継続しているBMW「3.0 CS/L FIA Group 2」(C)Bonhams

BMWのバットモービル、再びオークションに登場

「レトロモビル」は、フランスの首都パリにて毎年2月に行われるクラシックカー・トレードショーの世界最高峰。そして開催期間中には付随するかたちで、オフィシャルオークションである「アールキュリアル」や業界最大手の「RMサザビーズ」など、複数の国際格式オークションがパリ周辺にて開催されています。また、おなじみRMサザビーズにとっては最大のライバルと目される「ボナムズ・オークション」社は、「LES GRANDES MARQUES DU MONDE À PARIS(パリに集う世界の偉大なブランドたち)」と銘打ち、レトロモビルに訪れる目の肥えたエンスージアストを対象とし大規模オークションを開催。今回はその出品車両の中から、現在のクラシックカーレースで活躍中のBMW「3.0CSLレプリカ」のモデル概要と、注目のオークション結果についてお伝えします。

バットモービルなエアロパーツでETCタイトルを獲得

BMWのE9シリーズは数々のレースで成功を収め、欧米のエンスージアストから賞賛を浴びたが、なかでも3.0CSLは重要なモデル。1968年にデビューした美しき4座クーペ「2800CS」をベースとし、当時全欧で絶大な人気を誇っていた「ヨーロッパ・ツーリングカー選手権(ETC)」の王座獲得を目指し、FIA(国際自動車連盟)ホモロゲートを取得するために開発されたエヴォリューションモデルである。

1970年10月、BMWは2800CSのエンジン拡大版「3.0CS」を発表。その傍ら既定路線として、当時のETCにおける宿敵、より小型・軽量な「フォード カプリRS」や「オペル コモドーレ」に対する競争力を向上させるため、CSの大幅な軽量バージョンをアルピナとともに開発する。そして、当時のETCの対象だったFIAグループ2ホモロゲーションの取得を目的としたエヴォリューションモデルこそが3.0CSLだった。

ドイツ語において「軽い」を意味する「Leicht」の頭文字「L」を添えた車名が示すように、左右ドアやボンネット、トランクリッドをアルミ化しただけでなく、ルーフやフロントノーズのスチールパネルも薄板化を図り、フロント/リアウインドウには薄板のラミネートガラスが採用された。

また、車内の防音材は排除され、フロアカーペットも薄いものに。ボンネットの固定はメッキ仕上げのボンネットピンに置き換える徹底ぶりで、車両重量は3.0CSの1400kgから約200kgのダイエットに成功したとされている。

直列6気筒SOHCの「ビッグシックス」エンジンは、当初3.0CSと共通となるツインキャブレターつき2985cc/180psとされていたが、1972年モデルの、いわゆる中期型ではインジェクション化されるとともに3003ccに拡大。さらに1973年モデルとなる後期型では、3153cc/206psにパワーアップされた。

1973年シーズン中盤から、シュトゥットガルト大学で開発された、巨大なフロントエアダムスカートとリアウイングなどで構成される、いわゆる「バットモービル」空力キットがコンペティションCSLに装着された。

興味深いのは、フロントマウントのディフレクターはドイツでは公道での使用が違法であったため、購入後に取り付けるため工場でトランクに残されていたこと。

こうして「バットモービル」エアロキットの助けを受けた3.0CSLは、宿敵フォード・カプリRS2600を打ち負かし、トイネ・ヘゼマンスがETC選手権タイトルを獲得。また、同年のル・マンではディーター・クエスターがクラス優勝を果たした。

いっぽうフォード・ワークスは1974年シーズンに反撃したものの、翌1975年からはBMWの時代。その後は「バットモービル」がETC5連覇を達成するという、前代未聞の成功を収めたのだ。

完全無欠のグループ2レーシングカー仕様に仕立てられつつも……

このほどボナムズ「LES GRANDES MARQUES DU MONDE À PARIS」オークションに出品されたのは、実は本物の3.0CSLグループ2仕様レーシングカーではなく、きわめて高度なレプリカ。もともと「VHRSヒストリックレース」用にチューニングされていたBMW3.0CSをベースに、さる「ジェントルマンレーサー」のために2010年代に入ってから3.0CSLグループ2レプリカ製作プロジェクトがスタートした。

すでにクラシックカーレースで戦っていたベース車両は完全に解体され、ペイントを総剥離。補強された上でFIA準拠のロールケージが取り付けられた。

組み立てられたボディは、フランスの有名なインポーターである「ガレージ・デュ・バック」によって、1977年のル・マン24時間レースに参戦したマシンを模したカラーリングで塗装。またフランスのレーススペシャリスト、およびBMWスペシャリストの手によってサスペンションは再チューニングされ、BBSホイールやEurofacの車高調サスペンションとショック、FIA規約の燃料タンクなどが取り付けられた。

いっぽう「LMコンセプション」のオリヴィエ・ラウディは、レーススペックの3.2L直6エンジンを製作。クーゲルフィッシャー機械式噴射ポンプが取り付けられた結果、テストでは314bhp/7000 rpmの最高出力と、360Nm/6000rpmの最大トルクをマークしたという。

2020年にレトロモビルの「BMWフランス」ブースにてお披露目されるのに間に合うべく完成した3.0CS/Lは、2022年に「FIAグループ2パスポート」を取得し、2032年までレースにエントリーする資格を与えられた。

そして、2023年の「ル・マン・クラシック」にて、ガレージ・デュ・バックのサポートのもとブルーノ・バルデッラの操縦でレースデビュー。BMWファンから「ルイージ」の愛称で親しまれていることになった3.0CS/Lレプリカは、その信頼性と性能を非の打ちどころのないパフォーマンスで発揮し、名誉ある戦果とともにレースを終えた。

こんにちこのBMW 3.0CS/Lグループ2は、高性能で信頼性が高く、希少な自動車で歴史的なモータースポーツに参加したい人にとって望ましい1台といえよう。

FIAとFFSAのレースパスポートにくわえて、一連のモディファイからメンテンナンスに対して発行された請求書、作業中の写真が添えられたドキュメント類、フランス国内の登録書類(シャシーNo.3001227)と一緒に販売されたこの3.0CS/Lレプリカは、「ル・マン・クラシック」であろうと「トゥール・オート」であろうと、「ピーター・オート」社主催のクラシックカーレースプログラムに参加することが望まれているのだ。

ところで、2023年11月のRMサザビーズ「Munich 2023」オークションでは、希少な3.0CSLロードバージョンをベースとして、1990年代にレーシングスペックに改造されたといわれる個体が、記憶・感情などの喚起を意味する「エヴォケーション」と銘打たれて出品。

37万ユーロ~47万ユーロという、かなり強気のエスティメート(推定落札価格)を設定したものの、その下限を大幅に下回る27万2750ユーロ。日本円に換算すれば約4250万円という、出品者側にとってはいささか不本意な価格で落札されたばかりであった。

いっぽう今回のボナムズ出品車は、ベースからしてよりポピュラーな(≒市場価値の低い)3.0CSであることもあってだろうか、はっきり「レプリカ」を名乗るとともに、19万ユーロ~25万ユーロ(邦貨換算約3125万円〜4110万円)という控えめなエスティメートを設定していた。

にもかかわらず、2月1日の競売では入札が最低落札価格に届かなかったのか、現在でも当初のエスティメートのまま継続販売となっている。

世界的人気イベント「ル・マン・クラシック」にエントリーしたいというエンスージアストは数あまた存在する中、すでに「パスポート」を手にしているに等しいこの3.0CS/Lはお買い得かとも思われたのだが、やはりそんな奇特な好事家はなかなかいない、ということなのだろうか……?

モバイルバージョンを終了