ブルーグラスの聖地、ケンタッキー州オーエンズボロ
2024年の8月末から、アメリカをミシシッピ川沿いに南北縦断して音楽の歴史をたどる旅に出ることにした筆者。ブルースの故郷である「ミシシッピ・デルタ」を仲間と4人で巡った後は、ひとり旅。ニューオリンズのハーツレンタカーで借りたキア「スポーテージ」を“キムさん”と名づけて相棒とし、ミシシッピ川流域を北上。テネシー州のメンフィスをナッシュビルを巡り、ケンタッキー州からミズーリ州セントルイスを目指します。
グレイトフル・デッドのルーツもブルーグラスだった!
ケンタッキー州オーエンズボロはオハイオ川に面した町だ。オハイオ川は遥か東のペンシルベニア州から流れ込むミシシッピ川の代表的な支流で、くねくねと細かく蛇行しながらいくつもの州境を形成する。
オハイオ川の北に位置するのがオハイオ州、インディアナ州、イリノイ州で、南にはウェストバージニア州とケンタッキー州がある。これを聞いてピンと来た方はアメリカの歴史に詳しい。そう、オハイオ川はアメリカの南部と北部の境界線なのだ。奴隷制度があった18世紀、この川は歴史的に重要な意味を持っていた。
ブルーグラス殿堂博物館は、オーエンズボロのダウンタウンの外れにある。ナッシュビルのカントリー博物館に比べればこじんまりとしているが、アットホームな雰囲気が楽しめた。愛好家たちが集まるワークショップでは、みんなで練習する様子を見学できた。
しかし、何より驚いたのは特別展示。なんと、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアの音楽的ルーツがブルーグラスだというのだ。グレイトフル・デッドといえば、サイケデリック・ロックの象徴的バンド。そのリーダーが10代の頃、ブルーグラスに傾倒していたというのだから、ファンならずともびっくりだ。
「BBQキャピタル」でいただく本格BBQディナー
オーエンズボロは「BBQキャピタル」を謳っている。BBQファンのぼくとしては見逃すことはできない。地元の名店、「ムーンライト・バーベキュー」でお手並みを拝見することにした。
午後6時に到着してみると、さすがに人気店だけあってすでに大きな駐車場が混み合っている。メニューによると、ランチタイムのビュッフェもボリュームたっぷりで家族連れに大人気だとか。残念ながらそれは次回に譲り、今回はもちろんBBQディナーをいただく。目がとまったのは、BBQ 3種盛り。これは見たことがない。わくわくしながら待つと、ポーク、ビーフ、マトンの盛り合わせが現れた。東部発祥のポーク、テキサスから北上したビーフ、そしてアイリッシュ系が好むマトンが、ここオーエンズボロで出会ったわけだ。アメリカの歴史に想いを馳せながら、肉を噛みしめた。
ミズーリ州セントルイスで国立ブルース博物館を見学
9月22日、目が覚めると、しとしと降る雨模様だった。ロサンゼルスに降り立ってから、すでに4週間近くが経つが、初めての雨となった。モーテルの部屋で朝食を済ませ、荷物をまとめる。今日の目的地は、250kmほど北西のミズーリ州セントルイスだ。
セントルイスのダウンタウンで“キムさん”(キア スポーテージ)を駐車しようとして、ちょっとしたトラブルがあった。駐車場の支払いの多くは、QRコードを利用するカード決済になっている。手慣れたつもりで操作したが、なぜかうまくいかない。原因はLAで加入したT-Mobileの契約が切れていたことだった。電話自体はソフトバンクの「アメリカかけ放題」で使えるが、日本の電話番号になってしまった。アメリカの電話番号がないと決済ができないのだった。
料金を徴収する人がいる古いタイプの駐車場を探してなんとかクルマを停め、国立ブルース博物館を見学した。セントルイスのブルースといえば、WCハンディ作曲の「セントルイス・ブルース」が思い浮かぶ。ハンディはジャズの作曲家だが、「ブルース」という言葉を初めて
ゲートウェイ・アーチは下から見ても上から見ても感動!
博物館の充実した展示を楽しんだ後に向かったのは、セントルイスのシンボル、ゲートウェイ・アーチだ。1804年5月14日、トーマス・ジェファーソン大統領の命を受けたルイス・クラーク探検隊がセントルイスを出発した。ミシシッピ川の西、つまり西部を開拓することは、新興国アメリカがヨーロッパの国々と対等に交渉するために必須だった。
考えてみれば当然だが、当時は道などない。探検隊はカヌーを連ねて太平洋を目指して水路を進んだのだった。ゲートウェイ・アーチは探検隊の偉業を讃える記念碑なのだ。
ゲートウェイ・アーチを設計したのはフィンランド人の建築家、エーロ・サーリネン。美しいアーチの形状は、ロープの両端を持って垂らしたときにできるカテナリー曲線を描く。両脚の礎から着工し、アーチの頂上にキーストーンが収まったのは1965年10月だった。建設の様子を記録したフィルムは感動的だ。
アーチ頂上の展望台にはトラムで行くことができる。展望台からは東西50kmずつが見晴らせるが、当然、西の方角が前方となる。なお、トラム設計にあたり、大きなエレベーター会社がすべて建設を断念したが、大学を中退したばかりの青年が2週間で設計図を描き上げたという逸話も残る。セントルイスに行った際は、感動のモニュメントをぜひ訪ねてほしい。
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このミシシッピの旅で筆者が取材した内容を1冊にまとめた本が2025年3月13日に発売となった。アメリカンミュージックのレジェンドたちの逸話とともに各地を紹介しているフォトエッセイ、興味のある方はぜひチェックを。
>>>『アメリカ・ミシシッピリバー 音楽の源流を辿る旅』(産業編集センター)
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