インテリアトリム・センターの舞台裏
英国ウェスト・サセックス州グッドウッドにあるロールス・ロイスの本社は、手作業で製造される世界で唯一の場所です。1台のクルマを製造するには600時間以上を要し、複雑な場合は4年を要することもあります。AMWではロールス・ロイスのクラフツマンシップについて4回のシリーズに分けて紹介します。今回の第2弾はインテリアの製造を行うインテリアトリム・センターです。
雲から着想を得た多孔パンチング加工とは
ロールス・ロイスの顧客は、レザーのみならずファブリックの内装を注文することが可能だ。今日の多くの工程において、最先端の精密機械と熟練した職人の手、そして経験豊富な目が融合している。
ロールス・ロイスに届いた皮革は、高輝度照明の下で職人の手と目によって検査される。使用に適さないと判断された部分にはチョークで印が付けられる。印の付けられた皮革は裁断機にかけられ、インテリア製造に必要な各パーツの輪郭がレーザーで素材に投影され、正確に裁断される。
各レザーパーツは厚さ約1.5mmから0.6mmまで削られる。レザーは熟練職人の手により高精度のミシンを用いて縫製され、顧客の要望に応じてコントラストステッチやパイピングで仕上げられる。最後に、各レザーパーツはその曲線や輪郭に合わせて手作業でコンポーネントに装着される。
顧客は、レザーシートに「多孔パンチング加工（パーフォレーション）」を施すよう依頼することができる。これはレザーに小さな穴を開けて多様なサイズを組み合わせることにより、奥行きのある視覚効果を生み出すアートワークである。この高度な工芸技術は、2024年より「カリナン シリーズII」および「ゴースト シリーズII」にてオーダー可能となった。
デザイナーは、同社の本社上空に浮かぶ雲の形とその影からインスピレーションを得て、独自のパターンを開発した。これは、直径0.8mmおよび1.2mmの穴を最大10万7000個配置することで形成されている。また、顧客は専用のビスポーク・パーフォレーションモチーフを注文することも可能であり、そのデザインは顧客専用として保存される。
テキスタイルの探究
同社は2015年、「ファントム セレニティ」の開発においてテキスタイルを探究し、初めてシルクの刺繍をインテリアに採用した。それ以来、竹から作られたレーヨン生地やシルク混紡、さらには高い透明性を持つガラス・オーガンザなど、多様な素材が用いられている。
また、同社の専門家はバンブーレーヨン製のファブリック「デュアリティ・ツイル」を開発した。この生地には、ブランド創設者の頭文字「RR」を抽象的に解釈した芸術的なデュアリティグラフィックが刺繍されている。この内装には最大220万針ものステッチが施され、11マイル（約17.7km）もの糸と20時間以上の作業が必要となる。
柄の均一性を保つため各パーツは個別に製作され、素材の縁は特別に開発されたレーザーで裁断されることで、糸のほつれを防ぐ。すべてのパネルは綿密に配置されたうえで縫い合わされ、継ぎ目のない統一感ある仕上がりが実現される。ベースとなる綾織りのテキスタイルはライラック、チョコレート、ブラックの3色から選択可能であり、糸は51色から選ぶことができる。これにより顧客は、好みに応じてデザインをカスタマイズし、繊細な単色調から大胆なコントラストまで幅広い表現を楽しむことができる。
AMWノミカタ
今回はインテリアトリムの話である。レザーの加工のプロセスは、ベントレーで聞いた話とほぼ同じである。職人の目で使えないと判断した部分にチョークで印をつけ、その後大きなスキャンニングマシンにかけ、傷を避けて使えるパーツを最大限切り取れる配置を機械が考える。以前は人間が型紙を置いてこの作業をしていたが、機械のほうが歩留まりが良いのが手作業ではない利点である。
そして、ロールス・ロイスにしかないインテリアの特徴は多孔レザーの穴を芸術作品として利用している点であろう。先日、グッドウッドのロールス・ロイス本社上空の雲の形と影からインスピレーションを得たパーフォレーテッドレザーのパターンが発表された。オーナーのストーリーをこの0.8mmと1.2mmの穴で芸術的に表現するものだが、その難しさは2Dのパターンによって3Dのデザインを表現することだという。より3Dらしく見せるよう、穴の裏には黒の布が貼られ影が作られることで立体感が強調される。
ロールス・ロイスは4万4000色ものパレットを有するが、特別なパーフォレーションパターンは顧客専用のものとして保存されるという。同社はこのサービスでビスポーク対応できる新たな領域をさらに拡大してゆく。